モロッコ、砂漠のオアシスに佇む夢のホテルへ【ダージリン コズエが行く、人生最高の旅】 | Numero TOKYO
Life / Travel

モロッコ、砂漠のオアシスに佇む夢のホテルへ【ダージリン コズエが行く、人生最高の旅】

旅のプロ、ダージリン コズエによる連載。世界中のあらゆるデスティネーションを行き尽くし、現在も国内外問わず旅に赴く玄人トラベラーが語る、“人生最高の旅”。

今年の3月から会社の転勤でフランスのパリで働き始めました。
40代後半にして、初の海外勤務ということで、若い時のホームステイや旅行とは異なり色々と大変です。

東京からパリへの引越し、パリでの新しい職場、フランス語は挨拶程度、卵ひとつ買うのにも種類が多くどれがいいのかわからないし、洗濯機の洗剤入れがどこなのかから調べて使わないとわからないといった、毎日がワンダーランド状態。

出張で何度も来ていた好きな街とはいえ、いざ住むとなると全く事情は異なるものです。想像していた以上にストレスがかかっていたのでしょう。このままだとストレスに押しつぶされそうと思い、「そうだ、旅に出よう」と、以前から行ってみたかったモロッコのアトラス山脈の麓に位置するワルザザートに佇むホテル、「Kasbah Tamsna(カスバ タムスナ)」へ行ってきました。

ワルザザートへはパリのオルリー空港から直行便で約3時間半。

マラケシュから砂漠へ行く時の中継地点となる街です。多くの映画のロケ地としても使われているのですが、街全体はこぢんまりとしていて、喧騒に包まれたマラケシュとは別世界が広がっています。

このあたり一帯にはベルベル人が多く住んでおり、乾いた大地の色と同系色でまとまった街には、城塞を意味するカスバと呼ばれる土やレンガなどで作られた建物が多くあります。

カスバ タムスナは街の中心部から少し離れた緑が生い茂るオアシスにエリアにあります。

都会の喧騒から離れ、建物の間を吹き抜ける砂漠のそよ風を感じ、太陽の位置によって変わる大地や建物の色に想いを馳せながら過ごす、まさに贅沢な休日です。

カスバ タムスナの部屋は、5カテゴリー全13室。
今回はスイート03というお部屋に滞在しました。

ランプやプフ、ベッドカバーなど、部屋の至る所で上質なモロッコを感じられます。しかも主張が強すぎない優しいタッチのナチュラルモロッカン。

部屋には、ベッドルームのほか、小さなサロン、バスタブ、ミニバー、暖炉などがあり、シンプルに削ぎ落とされながらもとても機能的。

そして部屋の外にはバルコニーもついており、なんとオアシスビューです。

慣れないヨーロッパでの生活、思っていた以上に疲れます。

大自然を感じられる静かなところで、ちょっとだけゆっくりとしたかった私自身に必要だったのは、まさにこのようなオアシスでの休息でした。

ベルベルの土の温かさや、洗練されたモロッコの雑貨、それに日本を彷彿させるようなシンプルさが、ほっとする空間で、個人的にも超好み。

というのも、ここのオーナーさん、実はモロッコ在住20年以上の日本人なんです。メディア業界でモロッコ関連のお仕事をした人には馴染みがあるコーディネーターさんであり、長年旅行会社も経営されていたので、モロッコを旅したことがある方でお世話になった人も多いかもしれません。

モロッコ、ベルベル文化に精通していて、かつ日本の美大卒。できるだけモロッコの、地元の職人さんたちのものを、と取り入れた空間は、大地の自然や季節、土地の文化を感じる演出が至るところにあり、おしゃれでかわいいのに、なんだかほっこりします。

プールサイドでオリーブの葉の木洩れ陽やそよ風を感じながら、お食事をいただくのも最高です。

10年ほど前にマラケシュへ行った時は、料理が悪くはないけれど、素材がイマイチだなーって思うことが多く、不完全燃焼だった私はパリでモロッコ料理店へ行き食べ直したほどでした。

そのため今回もあまり食材に関しては期待していなかったのですが、もうご飯がおいしくて、おいしくて。新鮮な野菜はしっかり野菜の味がし、お肉も柔らかくジューシー。

「ヴァカンス中だから」というのをいい言い訳に、朝からもっちもっちのモロッコ風クレープ「ムスンメン」にたっぷりジャムを塗ってペロリと完食し、搾りたてのオレンジジュースをキュ〜っと体に流し込みます。

ランチは事前にお願いしておき、たっぷりと味が沁みたクスクスを。普段なら食べられないほどの量にも関わらず、「野菜の出汁が体に沁みる〜」「鶏肉のホロホロ具合が最高!」と言いながらパクパクと完食(自分でもびっくり)。

こういう家庭の味的なものが、疲れた心身を癒してくれるのです。

そして、夜はモロッコテイストのお料理やインターナショナルキュイジーンなどから日替わりのメニューを楽しみ、「あーもうお腹いっぱい」と言いながらも、しっかりとデザートまで完食。

東京やパリといった食の都で生きていると、年々食事に対してはかなり口うるさくなり、面倒な旅人になっていくのですが、あまりの美味しさにモロッコの地でも驚くほど食べてしまいました。

今回、パリからワルザザートに直接入るか、マラケシュでお買い物とかするかなど考えたのですが、値段交渉など苦手なことで神経減らしたくないと、ワルザザートに直行することにしました。

そのため、特にショッピングも観光も考えていなかったのですが、ホテルのレセプション近くでディスプレイされた小さなブティックコーナーを発見。セレクトされていた雑貨たちがこれまたかわいく。モロッコ雑貨の危険なところは、つい買ってしまうところ。

ちょうど、かごバッグを探していたのと、新居でのバブーシュを探していたので、色もデザイン気に入りパリへ持って帰ることにしました(結局買い物をしている)。

ということで、美しい景色を見て、美味しいもの食べて、のんびりして、たっぷり寝て……の「カスバ タムスナ」での休日。ずっと行ってみたかった、夢のホテルは、パリから3時間半で行けた砂漠の中にある楽園でした。かわいくおしゃれなのに、気取らないアットホームなリゾートステイ。オーナーさんが日本人なこともあり、すでに私のモロッコの実家的存在になる気がしています。

夜、空に輝く満天の星を眺めた後、部屋のベッドに入ると、シーツがめちゃくちゃ気持ちいい。しっとりサラサラとした肌触りで、肌を優しくピタッと包み込んでくれる感じ。
その感覚がホテル全体に溢れているような場所でした。

モロッコの旅の途中で喧騒から離れ、しばしゆっくりするのもおすすめです。

 

「ダージリン コズエが行く、人生最高の旅」をもっと読む

Photos & Text:Darjeeling Kozue

Profile

ダージリン コズエ Darjeeling Kozue 20代で世界一周の旅を経験し、30代で世界中のブティックホテルやデザインホテル、ラグジュアリーリゾートなどを巡ってきた旅のエキスパート。海外旅行のガイドブックや雑誌などの編集経験もあり。本業は、外資系企業でジェネラル マネージャーを務めている。Instagram: @cozykozue
 

Magazine

JANUARY / FEBRUARY 2026 N°193

2025.11.28 発売

The New Me

あたらしい私へ

オンライン書店で購入する