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Culture Post

フラワーアーティスト 東信が挑む
植物と空間の美のコントラスト「In Broom」

植物の存在し得ない場所に花を生ける。フラワーアーティスト東信がアイスランドの氷河から、アリゾナの砂漠、海の中まで、世界各地を訪れ、その土地で、松を用いて作品を作り上げる。大自然や廃墟の絶景と一体化した植物が誘う、いまだかつてない異空間への旅。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2016年1・2月合併号掲載)

makotoazuma_01
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《Shiki1xSandstone》 アメリカ・アリゾナ州The Wave (バーミリオン・クリフ国定公園内コヨーテビュートにある砂岩の層) 自然が作り上げた歪な地層の美と人工的に作り上げた美のコントラスト。
 
花に魅せられ、花の可能性に挑み続ける
東信の探求と実験

無限の宇宙に、大自然の絶景に、巨大な建造物の中に、忽然と現れる、四角い枠にはめ込まれた松の姿は圧倒的な存在感と違和感を放っている。これらは2014年夏からスタートしたプロジェクト「In Bloom」。

makotozuma_02
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《Shiki1xGlacier》 アイスランドから氷河を目指し、船で沖へと向かった。一面の氷河に浮かぶ唯一の生の存在として松が際立つ。 

なぜわざわざこのような場所で生けるのか。

「本来植物が存在し得ないような環境の中に花を生けたら、どう見えるのか見てみたいという衝動に駆られるようになりました。砂漠にバラが一輪咲いていたら美しいだろうとか、北極で花を凍らせたらきれいだろうとか。例えば、茶室に花を入れるだけで間の空気が変わるように、何もないところに花を生けるだけで、まったく違う空間を人為的に作り出せるような気がして興味が涌いてきました」

makotozuma_03
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《Shiki1xSpace》 アメリカ・ネバダ州 ブラックロック砂漠から特別装置を備えたバルーンで高度3万メートル、マイナス50度の成層圏へと打ち上げられた盆栽の宇宙飛行。

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《Shiki1xSpace》 宇宙を目指して飛ばされた《式1》が徐々に高度を上げていく様子と変化を、円状に連結させた6台のビデオカメラGoProの360度映像と連続写真で見せる。 
 
まず、新たなる挑戦として東が最初に選んだ場所は、宇宙だった。アメリカ・ネバダ州の砂漠から打ち上げられた松は、成層圏に達すると凍りつき、すさまじい勢いで振り落とされていった。こうやって地上3万メートル、マイナス50度の環境下、まったく想像もしなかった姿を見せてくれた。この成功が転機となった。

makotozuma_09
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《Shiki1xGeyser》 アイスランド グレート・ゲイシール 温泉地帯の地中から10分間隔で30メートル近く噴き上がる間欠泉の壮大な熱湯の柱を背景に。生きた自然の威力を真っ向から捉える。
  
東はこれまでも、凍らせたり、燃やしたり、潰したり、真空にしたり、さまざまなやり方で花を殺して生かす実験に挑んできた。そのままでも十分美しい花を用いて表現するなら、もっと花の可能性を引き出さなければ意味がない。その考えは今も変わらない。

「これまではばかでかいオブジェを作るとか、珍しい植物を使うとか、見せ方やテクニックで勝負していたけれど、そこを越えたくて仕方なかった。最近はフラワー業界も盛り上がりを見せ、クリエイティブとされる花屋も増えているなかで、自分はさらに先を切り開かねばならないという思いが強い。作為的に作り出してはじめて作品といえる。なんでそんなことをするの?と、端から見たら、馬鹿馬鹿しいほどのことに全力で取り組み、とことん追求することが、結果、強烈に人の心に響くのではないかと信じている」

makotozuma_05
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《Shiki1xUnderwater》 沖縄 石垣島 同じ植物でも海中では地上とはまったく異なる世界が広がっている。不思議な印象となった。

makotozuma_10
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《Shiki1xUnderwater》 沖縄・石垣島の海の中へ自ら潜って《式1》を運ぶ。
 
そこで行き着いた一つの新しい表現が、花だけで成立するブーケとは違う、「そこに植物が存在する」、環境と一体となったときに初めて見せる新しい作品の形だった。砂漠でも、海底でも、氷河でも、植物の存在しがたい場所を求めてどこまででも赴く。その行為とともに成立する作品を、東の高校時代からの親友であり、ジャルダン・デ・フルールを共に営むパートナー椎木俊介が写真に残す。

makotozuma_08
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《Shiki1xAbandoned Powerplant》 ベルギー 現在は使用されていない火力発電の冷却塔。人工的に作られた美しく規則的な幾何学構造と有機的な松が共鳴する。
 
題材となったのは、東の代表作である松を用いた《式》シリーズの中から、金属フレームに松を宙づりに固定する《式1》。

「松は一番好きな植物であると同時に、それ自体で完成した佇まいを持っている最も手強い相手でもある。また、故郷・福岡の浜辺に生える松の姿が原風景として記憶に残り、松一本に自然を見ているところがあるのかもしれない。その自然という無限の象徴を、金属の四角い枠という人工的な規則(有限)の中にはめ込むことによって、摩擦を引き起こして、ただきれいで美しいだけでなく、ざらっとしたものを残していく」
 

makotozuma_04
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《Shiki1x Waterfall》 アイスランド クヴィートセルクールの滝 激しく流れ落ちる滝の中腹に静かに凛と佇む松の姿。

makotozuma_06
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《Shiki1xSanddune》 アメリカ・アリゾナ州 植物も生えないような乾燥地帯の砂漠の中にあるのは松のみ。違和感のある場所で、より植物の存在を感じることができる。
 
こうして大自然の中に人為的な自然の象徴《式1》を持ち込むことで、植物の存在を際立たせ、本質的なものを導き出そうと試みた。同じ松でも場所や条件が変われば見え方はまったく違う。真っ青な空、砂漠の大地と松とのコントラストの美しさは、作り出そうとして作り出せるものではない。その場所に行って初めて見ることができる表情であり、空間。花を生けるという行為の原点回帰のようだ。
 
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《Shiki1xDestroyed Monument》 ブルガリア The Buzludzha Monument かつてブルガリア共産党本部として利用されていた巨大な建造物。廃墟となった朽ちた空間との対比を表現。


そして今年8月に再び、宇宙に挑戦した。《EXOBIOTANICA2 -Botanical space flight- 125SINGLE World Flowers II》

人類の歴史の中で、生きていく上で絶対的に必要なものではないにもかかわらず、人は花を贈り、手向け、飾ってきた。人間のDNAの中に宿っている “花を愛でる”精神をつないでいく。原初的な花の価値に立ち返って、時代とともに進化した形で伝えていくこと、それが東信の表現活動の根源なのだ。

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Profile

東 信(Makoto Azuma) 2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。05年よりフラワーアーティストとしてニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジルなど、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。www.azumamakoto.com

Art Works:Makoto Azuma Photos:Shunsuke Shiinoki Edit & Text:Masumi Sasaki

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