水川あさみの女優観「大好きな仕事だけど、いつでも大嫌いになれる」
──昨年末は、福田雄一さん演出の舞台『THE 39 STEPS』でコメディにも取り組まれましたね。
「初日直前、福田さんに言われたんです。『女優は笑わせることができないと思っていたほうがいい』と。女優がコメディをやって弾けたとしても、お客さんは少し引いてしまう。だから笑いが取れなくても気にしなくていいと。私の役は笑いがないと成立しないので、すごく怖くなっちゃって。でもいざ舞台に立ったら、私の一言目で大受けだったんです。全然大丈夫じゃん!って正直、調子に乗りました(笑)」
──コメディとシリアスなもので、やりやすい、やりにくいなどありますか。
「それぞれ全然違います。ただ悲しいこと、感動することは振り幅が狭い分、共感できる部分が大きい。一方で、笑いは個人差が激しいから、多くの人のドツボにはめるのは大変。人を笑わせるのは難しいです」
──生まれ変わっても女優になりたいですか。
「女優以外にやりたいと思う仕事はないですね。好きと嫌いが両極端にあって。すごく大好きな仕事だけど、いつでも大嫌いになれる。その間を行ったり来たりしています。自信がなくなったり、すごくあったり、この役が好きだと思ったり、嫌いになったり。ただ『江』のときみたいに、普段味わえない感情を一度経験してしまうと逃れられないかな」
──ご自身の才能について考えることはありますか。
「そうですね。お芝居に関しては続けたいと思う半面、やめたいと思うこともあります。この役は私にできるのだろうかなどと不安になったり、単純に寝る時間がなくて体がキツかったり。どちらにしろ越えなければいけない壁なんですけど」
──ゴーストライターみたいに、もし替え玉がいたら?
「喜んでやってもらいたいですよ。どうぞどうぞって(笑)。もちろん、本気でやめたいと思っているわけではなく、頑張ろう!という気持ちが時には揺れ動くこともある。それが人間かなと」
──雨の中、由樹とリサの取っ組み合いのシーンは迫力満点でした。女って怖いな~って。
「あのシーンは、6話に入ってくる予定で、いわば中盤のクライマックス。年末に撮影したんですけど、真冬の夜ってだけで寒いのに、その上雨が降っているなかで、お互いの感情を激しくぶつけ合う。そのシチュエーションだけで自然と気持ちが高ぶりました。もちろんそこのシーンにいくまで、順番に撮影をしているわけではないので、前後を確認しないと感情がつながらなくなったり。激しく揺れ動く気持ちのグラデーションが難しかったです」
──水川さんは器用そうなイメージですが、撮影で「これはできません!」ということはないのですか。
「できませんとは言いません。とにかくやってみます。今日のロケは早朝入りで、号泣するシーンだったんです。踏み切りのある坂での撮影で、車や電車のタイミングを図らなければいけない。プラス泣くお芝居なのに、あちこちで何かが起きてしまい、何度もやり直しになって。泣いたり怒ったりの芝居はテンションを上げないとできないので、そこに持っていくにはかなりのエネルギーが必要なんです。なので、もう一回お願いしますとなったとき、やってみるけど、できないかもしれないとは言いました。何度でもできる方もいると思いますが、私はそこまで器用じゃないから…。その後、撮り直しましたがいろいろな要素がうまくかみ合わなくて、最初に撮影したものを使うことにしますと言っていましたけど(笑)」
──お芝居を始めたきっかけは?
「小学生の頃、『家なき子』を見ていてドラマをやりたいと母に話し、事務所に入ったのがきっかけです。中1のときに映画『劇場版 金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』でデビューしました。高校に上がると同時に上京して、仕事をしていくなかでお芝居の楽しさを見つけたり、壁にぶち当たったり、その繰り返しです」
──お芝居をやっていて、分岐点となった作品はありますか。
「大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』(11年)ですね。1年間という長いスパンで、11歳から65歳までの一人の人生を演じたんです。自分の年齢から溯り、また先の先までを演じるって、本当に役を生きないとできないことだと実感しました。宮沢りえさんと上野樹里さんが姉妹役で、母親役は鈴木保奈美さん。まるで本当の姉妹、家族みたいに親密な空気感でした」
──1年間じっくり一つの役に取り組むのは特別な体験なのですね。
「普通、お芝居をしているときってどこか客観視している自分がいたりするのですが、そのときは心から悲しくなったり、うれしくなったりしました。一つの役を長く演じられたおかげで、役との密着度が高かったんだと思います。その感覚を一度味わってしまったので、どんな役でもそうできたらと思いますが、なかなか実際は難しい。なるべく近づきたいと意識して演じています」
──女性と男性ならどちらに生まれたい?
「私、占い師に本当は男に生まれるはずだったと言われたんです。性格があっさり、サバサバしているのは本来は男だからだと。見た目が女で、性質は男。それを女優という仕事でバランスを取っていると。うーん、そうなのかな?」
──では、もし選べるならもう一度女性に?
「ちゃんと女性として生まれるべくして生まれた女性がいいですね(笑)。そうしたら思考も違って楽しそう」