──では、俳優として出合った作品で、これは自分にとって大きかったというものはありますか?
「園子温監督の映画『ちゃんと伝える』という作品です。監督から言われた『何もしない勇気を持て』という言葉は、僕の原点になっています。芝居をするときって、どうしても『ここで見せなきゃ』って、ついつい大げさにやりたくなるんです。でも園子温監督は、そうじゃなく、ただ突っ立ってるだけでいいんだと教えてくれた。実は、その“何もしない”はとても難しいことなんですけど、それだけに強く心に残っています。それに監督は、映画を撮り終わったとき、僕に全てのラッシュ(※編集用の映像)をくれたんですよ。『何かあったときは、これを見て、もう一度自分を見つめ直せ』って。作品が終わったからOKではなく、終わったからこそ厳しい言葉をくれた。そこにすごく愛情を感じましたね。こういう仕事は、妥協しようと思えばいくらでもできてしまう。でも、そこでいかに自分を追い込んで、作品や役柄と誠実に向き合いながらやっていくかが大事。それを学べたのが今の僕にとって、とても大きかったと思います。今でもあの時の自分を基準にすることがありますね。この先経験を積んでいっても、小手先だけの表現者にならないように、下手でもいいから気持ちを表現しようと思っています」