「mukasa」デザイナー武笠綾子インタビュー「私的な記憶をめぐるエモーショナルで正直な服」 | Numero TOKYO
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「mukasa」デザイナー武笠綾子インタビュー「私的な記憶をめぐるエモーショナルで正直な服」

mukasa(ムカサ)」のコレクションは、デザイナー武笠綾子の個人的な視点と、過去と現在を行き来するストーリーから始まる。そこに地球や宇宙、自然界を巻き込んだ未曾有のイメージが掛け合わされることで、洋服に息吹を与えている。多くの女性が共感し惹かれる、mukasaのメッセージとは?自身を服作りへと突き動かす原動力とは?

──mukasaのブランドコンセプトを教えてください。

「自分の内面世界やエモーションを心のままに表現したいと思い、新たにブランドを立ち上げました。コンセプト、シーズン、ターゲットという概念は設けずに、半年の制作期間中に見たことや感じたことを自分の中に取り込んで、服作りに活かしたいと考えています。見たことがない遠いところにあるものごとをソースにして服を作るのではなく、自分の近くにあるリアルなインスピレーションから、嘘偽りのない服作りを目指しています」

──ファーストコレクションは、どのような思いを込めて制作したのでしょう。

「mukasaでは、一度頭の中にある固定観念のようなものを取り払って、本当に心からやりたいと思えることに挑戦したいと思っています。なのでコレクションは、制作年と季節ではなく、順番に01,02,03,04…と呼ぶようにしています。私の家族は、祖母が着物を作り、父はカメラマンでした。ファーストコレクションは、自分がどういう人間かを知っていただけるような、自分の中に潜む記憶を盛り込み、ブランド名も、父の写真スタジオから名付けました。着物の要素や写真なども服作りに取り入れています。フォトグラファーの青木柊野さんがフィルムカメラで花を接写した写真3カットと冬至の日に撮影した朝日の写真を重ねて加工し、ワンピースのプリントとして使用しました」

(右)Numero CLOSETにて取扱中 シアージャケット ¥79,200

──透け感のある素材が多用されています。何か理由はありますか。

「01(23SS)コレクションは、自分らしさにこだわりたかったので、好きでよく使っている透ける素材を多用しました。同時に、官能性や自由さもコレクションに加えたくて。人の肌が布に重なって透けると、着る人ならではの固有の色になります。布を通したその人らしさ、パーソナルな着こなしができる服が美しいと思い、単に色を纏うのとは異なる、洋服を着る意味を大切にしています」

──02コレクション(24SS)では、どんなテーマを設定したのでしょうか。

「タロットカードを引いて出たのが太陽のカードだったことから、“THE SUN”にしました。そこから太陽のタロットカードをモチーフに刺繍やレースなどのテキスタイルに落とし込み、トップス、ドレスなどのアイテムへと派生していきました」

02コレクションテーマ“SUN”のムードボードより

──03コレクション(24AW)のテーマは“GAIA”です。このテーマになった経緯を教えてください。

「コロナ禍の間は海外に行けなかったので、久しぶりにリサーチに美術館を訪れにパリへ行きました。往路の飛行機では、窓からオーロラを見るという不思議な体験をし、自然界の壮大さを感じました。そこから、自分たちが地球(大地)にいて、その上には宇宙のように無限な創造性が広がっているんだと思ったんです。ムードボードも、そのような構成でコラージュを制作しました。自然界の写真に子どもが私のお腹にいるときの写真や人類がこれまで作ってきた創造物、アートなどもケオティックに混ざっています。パリで様々な人種の人がいることを改めて目にし、立ち寄った教会では祈りを捧げる人たちのピュアさ、宗教や人種は違えど、祈ることのエネルギーを感じました。

一方、美術館では、マーク・ロスコのエキシビションを鑑賞しました。これまでロスコは色のアーティストだと思っていたのですが、本人曰く瞑想的で宗教的な作品でありたいと考えていたようです。作品の前で涙を流す人や元気をもらう人、いろんな方が立ち止まっていて。色の奥行きを見つめる人の中に入り込み、内面に寄り添う作品の数々に感情が揺さぶられました。
また、ロスコの作品はどれも、7つの成分というキーワードを色に込め、観る人に訴えかけているそうです。死、官能、緊張、アイロニー、機知と遊び心、儚さと偶然性、希望など含まれています。それを知り、“自分の成分はなんだろう”と考えました。そういった要素を大地の地層のように積み重ねて、服作りをしていきたいという想いに至ったんです。カオス、混沌でありながら、まっすぐできれいな感じ。そんなガイアをコレクションで表現することにしました」

──03コレクションの中でも重要なピースは?

「シルバーのジャカードの柄は、大地をイメージして作りました。石の断面図を描いたものです。自然のモチーフはよく用いています。特にこの素材のブーツが気に入っています。一見、ファーのように見えるパンツは、実はオーガンジーを割いて作っているんです。人の手を介してでないと作れない思い入れの強いアイテムです。まるで引き寄せたかのように、インドの刺繍屋さんに出会い形にすることができました」

──デザインの工程は?

「服作りは、まずその時に頭の中にある要素をムードボードに起こし、素材から考えることが多いです。その時点で、なんとなくの色のイメージはあるんです。それから、コレクションに合うモチーフを見つけて、オリジナルの生地や柄を考えます。その後、実際にデザインに入っていきます」

──服作りにおけるこだわりは?

「テキスタイルです。素材作りは自分にしかできない表現ができるので、深く追求していきたいと思っています。できる限り産地に足を運び、知識を深め、それぞれの産地を生かした素材を作っていきたいですね。それから、1つのアイテムで、いくつかの着方ができる汎用性も重視しています。03(2024AW)では、コートの脇の穴に袖を通して、ぐるっと裾を背負うとショートジャケットとして着られる仕様にしました。最近、アウターは重い素材よりも、軽い素材が人気なんです。素材の特性を生かしたいと思い、考えついたデザインです。他にも、背中が空いていているジャケットは、セパレートにできてパンツと合わせて着用できるスカートになります。あとは、ハイネックにもスタンドカラーにもなるブルゾンもあります」

──ブランドを象徴するアイテムは?

ワンピースです。花の写真の転写など毎シーズン展開しています。mukasaでは、好きなアイテムは継続して作るようにしています。それから、“育てるデニム”として、経年変化で箔の風合いが変わるアイテムを考案しました。京都の柄絵箔の職人さんに作っていただきました。箔は3層に重ねて、実際の柄絵箔の柄を再現しました。さらにシルバーの顔料とオーロラのニュアンス、それを刺繍でマットな質感に加工してあります」

──今後の展望を教えてください。

「シルエットも、素材も、自分が好きなものは継続して展開していきたいです。HOUSE917というプライベートサロンをオープンしました。±BALANCEのジュエリーをパーソナルオーダーでき、mukasaの最新コレクションや一点モノの限定アイテムをご覧になれます。予約制ですが、新たなコミュニケーション方法を探っていけたらと思っています」

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Interview&Text:Aika Kawada Edit:Masumi Sasaki

Profile

武笠綾子Ryoko Mukasa 2016年からブランド「STAIR(ステア)」を手掛け、2017年に東京都新人デザイナーファッション大賞受賞。2021年より、前職を退任し、「THINGS THAT MATTER(シングス ザット マター)」のクリエイティブディレクターを務める。2022年、自身のウィメンズブランド「mukasa」とジュエリーブランド「±BALANCE」を立ち上げた。

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