イタリアの至宝、ソレンティーノ監督が捧げる女性一代記『パルテノペ ナポリの宝石』 | Numero TOKYO
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イタリアの至宝、ソレンティーノ監督が捧げる女性一代記『パルテノペ ナポリの宝石』

現代のイタリア映画を代表する名匠、パオロ・ソレンティーノ監督(1970年生まれ)。華麗な映像美で人生の機微を詩的に描き上げる彼は、フェデリコ・フェリーニなどイタリア映画の偉大な先人の成果を受け継ぎつつ、独自の新たな領域を開いていく“新古典派”とでも呼びたいシネアストだ。そんなソレンティーノ監督が本作で映画デビューとなる新星セレステ・ダッラ・ポルタ(1997年生まれ)を主演に迎え、自らの故郷ナポリに捧げた最新作が『パルテノペ ナポリの宝石』である。

製作にはサンローランの正式な子会社として設立された「サンローラン プロダクション」が名を連ね、同ブランドのクリエイティブ・ディレクター、アンソニー・ヴァカレロが衣装のアートディレクションを担当。本作は2024年、第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、イタリア国内ではソレンティーノ監督作として最大のヒットを記録した。北米配給はA24。

地中海をのぞむ絶景の港町ナポリに生まれ育った“人魚の化身”、パルテノペの生涯を綴る

映画の冒頭で引用されるのは「人生は巨大ですぐ迷う(C’est énorme la vie quand même. On se perd partout)」というフランスの作家、ルイ=フェルディナン・セリーヌ(1894年生~1961年没)の言葉だ。これは1933~34年頃に執筆された未発表作が遺稿として発見され、2022年に出版された自伝的戦争小説『戦争』の中の一節。邦訳も2023年に刊行されている(幻戯書房・ルリユール叢書/訳:森澤友一朗)。実はソレンティーノ監督の代表作『グレート・ビューティー/追憶のローマ』(2013年)も、同じくセリーヌの引用から幕を開ける(そちらは1932年の小説『夜の果てへの旅』の一節)。

またナポリを舞台にするのは、伝説のサッカー選手、ディエゴ・マラドーナに絡めて1980年代ナポリの自伝的な少年物語を綴ったNetflix映画『The Hand of God -神の手が触れた日-』(2021年)に引き続いてとなる。

本作『パルテノペ ナポリの宝石』の内容は女性一代記。1950年、風光明媚な港町ナポリの裕福な家庭に生まれた女性パルテノペの、現在に至るまでの生涯の物語を紡いでいくゴージャスな肖像画だ。“パルテノペ”という名前はギリシャ神話に登場するセイレーン(海の怪物)の一員から取られたもので、ナポリの地名の由来でもある。

人魚である神話上のパルテノペは美しい歌声で航海者を惑わせ、数々の船を難破させた。最終的にパルテノペは恋をした相手に拒絶され、絶望して身を投げ、その亡骸が現在のナポリの地に流れ着いたと伝えられている。

主演のセレステ・ダッラ・ポルタが演じるのは1968年から1982年までのパルテノペ。18歳から大学で人類学を学び始めたパルテノペは、23歳の夏、兄のライモンド(ダニエレ・リエンツォ)、幼なじみのサンドリーノ(ダリオ・アイタ)と共にカプリ島への旅行を計画する。そしてバカンスを満喫している最中の、ある昼下がり。パルテノペは憧れのアメリカ人作家、ジョン・チーヴァー(1912年生~1982年没)と偶然出会う。『巨大なラジオ/泳ぐ人』(新潮社/訳:村上春樹。1964年の短編小説『泳ぐ人』はフランク・ペリー監督により1968年に映画化)などで知られるこの実在の作家を演じるのは、なんと英国の名優ゲイリー・オールドマンだ。オールドマンはソレンティーノ監督のファンで、以前から彼の映画への出演を熱望していたらしい。

それ以降、純真だったパルテノペの人生はしばらく波乱の道行きをたどる。美貌を武器に女優やマフィアの危険で頽廃的な世界に足を踏み入れるが、彼女の居場所は見つからない。そこで出会った“大女優”グレタ・クール(ルイーザ・ラニエリ、怪演!)の異様な存在感にも圧倒される。傷ついた彼女の導きの光となるのは、大学で人類学を教える恩師マロッタ教授(シルヴィオ・オルランド)の存在だ。彼に才能と明晰さを認められることで、パルテノペは学究の道に進むことを決意する。

果たして彼女はいかなる“自分”を見つけていくのか──。映画の終盤は2023年、73歳になったパルテノペを、イタリアを代表するベテラン女優のステファニア・サンドレッリ(1946年生まれ)が演じる。ソレンティーノ監督は若さへの熱視線だけでなく、知的に成熟・加齢していくことの美しさを静かに謳い上げるのだ。

地中海をのぞむ絶景の故郷ナポリを舞台に、自身の映画で初めて女性を主人公に据えたソレンティーノ監督。またサッカーファンの監督らしく、サッカーチームSSCナポリの33年ぶりのセリエA(2022-2023シーズン)リーグ優勝を祝う応援車が最後に登場するのも愉しい。ソレンティーノ映画の中でもとりわけ軽やかな魅力に満ちた女性賛歌であり地元賛歌だ。甘美な夢のような眩惑性と共に。

『パルテノペ ナポリの宝石』

監督/パオロ・ソレンティーノ
出演/セレステ・ダッラ・ポルタ、ステファニア・サンドレッリ、ゲイリー・オールドマン、シルヴィオ・オルランド、ルイーザ・ラニエリ、ペッペ・ランツェッタ、イザベラ・フェラーリ
8月22日(金)より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下他全国順次公開
https://gaga.ne.jp/parthenope/

配給/ギャガ
©2024 The Apartment Srl – Numero 10 Srl – Pathé Films – Piperfilm Srl @Glanni Fiorito

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Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人 Naoto Mori 映画評論家、ライター。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。『週刊文春』『朝日新聞』『TV Bros.』『シネマトゥデイ』などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。
 

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