【最新シネマ】フランス発の近未来アニマライズ・スリラー『動物界』 | Numero TOKYO
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フランス発の近未来アニマライズ・スリラー『動物界』

フランス本国で観客動員100万人を超える大ヒット。2023年5月の第76回カンヌ国際映画祭では「ある視点」部門のオープニング作品として上映。2024年2月に開催された第49回セザール賞(仏版アカデミー賞)では最多12部門ノミネートを果たし、5部門で受賞(音楽賞、撮影賞、音響賞、視覚効果賞、衣装デザイン賞)。セザール賞ではあの『落下の解剖学』(2023年/監督:ジュスティーヌ・トリエ)と一騎打ちになり、ツートップとして栄誉を分け合った話題の傑作が『動物界』だ(『落下の解剖学』は11部門ノミネートで6部門受賞)。

手塚治虫や宮崎駿からの影響も!? 人間が動物化する突然変異の恐怖に襲われた世界を描く

舞台は近未来。原因不明のパンデミックによって、身体が動物化していく突然変異の奇病の蔓延に晒されたフランス社会の混沌を、ある親子の絆に焦点を当てながら描く。アニマライズ(人間の動物化)を題材にしたSFスリラーであり人間ドラマだ。風刺的な内容を独特のヴィジュアルで紡ぎ出し、ハリウッドの向こうを張る鮮烈なエンタテインメントが繰り広げられる。

物語はひと組の家族を軸に展開する。料理人のフランソワ(ロマン・デュリス)は、妻のラナが“新生物”と認定されて施設に隔離されたことから、その移送先である南仏に移り住むことに(ロケ地はフランス南西部のランド・ド・ガスコーニュ)。しかし高校生の息子エミール(ポール・キルシェ)は、毛むくじゃらの獣の姿に変わり果てた母親への違和感をぬぐうことができない。だがやがてエミールの身体にも異変が生じる。施設に送られることを恐れた彼は、その事実を父親のフランソワにもなかなか打ち明けることができなかった──。

謎のウイルスにより人々が凶暴化し、非感染者と感染者の間に断絶が生まれる──こういった状況設定はゾンビものの変奏ともいえるだろう。しかし“新生物”は果たして“怪物”なのか。アニマライズは人間中心主義を批評的に対象化するモチーフとしても機能する。動物への変異が進行するエミールは、やがて立入禁止区域の森で鳥人間と化した青年フィクス(トム・メルシエ)と出逢って交流を深める。空を飛べなければ鳥人間は死ぬしかないと語るフィクスは、生きるために日々飛行訓練に挑み、努力を重ねていた。

監督は今回が長編第2作となる1980年生まれのトマ・カイエ。脚本もカイエ自身によるものだが、もともとは監督の出身校でもあるパリの映画学校ラ・フェミスの学生、ポリーヌ・ミュニエのオリジナル脚本が原案になっているという(彼女は共同脚本としてクレジット。監督と共にセザール賞脚本賞にノミネートされた)。本格的な脚本執筆は2019年に開始されたが、まもなく新型コロナウイルスが猛威をふるい、ロックダウンが訪れた。紛れもなくコロナ禍の閉塞的な状況が、『動物界』の世界像に色濃く反映されているだろう。差別や偏見といった社会的スティグマ、あるいは排斥など、都合の悪いものにふたをしようとする集団ヒステリーの様相が、人間社会の寓意として本作には鋭く込められている。

身体変容をダイナミックに見せていく作風は「クローネンバーグ的ボディホラーと宮崎駿的ファンタジーのあわいを行く」(Indiewire)といった評もあるが、手塚治虫の『バンパイヤ』や岩明均の『寄生獣』など日本のマンガを連想する要素も多い。視覚効果も見事だが、特殊メイクとアニマトロニクス(生物を模したロボットを使って撮影する技術)、デジタル3Dといったさまざまな技術を組み合わせて、アニマライズの描写と近未来社会の仮構力を高度に実現している。

そしてヒューマンドラマとしての充実。フランスを代表する名優ロマン・デュリス(1970年生まれ)と、『Winter boy』(2022年/監督:クリストフ・オノレ)などの新星ポール・キルシェ(2001年生まれ/女優イレーヌ・ジャコブの息子)が演じる父親と息子の愛と信頼関係が、やがてエモーショナルに迫ってくる。政府の隔離政策に反対し、“新生物”との共生を望むフランソワは、果たして変貌するエミールに対してどんな決断を下すのか──? トマ・カイエ監督はこの親子関係の在り方について、なんと小津安二郎監督の『父ありき』(1942年)からインスパイアされたらしい(笠智衆と佐野周二!)。またエミールという名前は、自然回帰を説いたジャン=ジャック・ルソーの教育学の歴史的名著『エミール』(1762年出版)を意識したものかもしれない。深掘りすればするほど、さまざまな文化的影響を見いだすことができるのも本作の魅力である。

『動物界』


監督・脚本/トマ・カイエ
出演/ロマン・デュリス、ポール・キルシェ、アデル・エグザルコプロス、トム・メルシエ、ビリー・ブラン
11月8日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて公開
https://animal-kingdom.jp/

配給/キノフィルムズ
© 2023 NORD-OUEST FILMS – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINÉMA – ARTÉMIS PRODUCTIONS.

 

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Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。『週刊文春』『朝日新聞』『TV Bros.』『シネマトゥデイ』などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。

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