映画『ポトフ 美⾷家と料理⼈』。カンヌを魅了した究極の美食映像! | Numero TOKYO
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映画『ポトフ 美⾷家と料理⼈』。カンヌを魅了した究極の美食映像!

© Carole-Bethuel © 2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA
© Carole-Bethuel © 2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA

仏統治下時代の旧サイゴン(ホーチミン)を舞台にした長編劇映画デビュー作『青いパパイヤの香り』(1993年)で鮮やかな映像美を見せ、第46回カンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を獲得したヴェトナム系フランス人のトラン・アン・ユン監督(1962年生まれ)。あれから30年、監督独特の映像のこだわりを「食」というテーマに集中させた最新作で、第76回カンヌ国際映画祭最優秀監督賞を受賞した。それが『ポトフ 美食家と料理人』だ。

フランスの名優と名監督が贈るベル・エポックの極上メニューをあなたに──

© Carole-Bethuel © 2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA
© Carole-Bethuel © 2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA

スクリーンを埋め尽くすのは100年前の極上メニュー。ベル・エポックと呼ばれる新たな文化が繁栄した時代に、美食もまた芸術のひとつとして追究された。原案はマルセル・ルーフが1920年に出版した『The Life and Passion of Dodin Bouffant,Gourmet』(美食家ドダン・ブーファンの生涯と情熱)。美食家として歴史に名を刻み、1825年出版の名著『美味礼賛』の著者でもあるジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン(1755年生~1826年没)を主人公のモデルとしたこの小説に触発されたトラン・アン・ユン監督は、ガストロノミー(食文化の考察)を主題とする、料理への情熱で強く結ばれた美食家と料理人の愛と人生の物語を紡ぎ出した。

時は19世紀末──1885年、フランスの片田舎。静謐な森の中に佇む美しいシャトーに暮らすのは、「食」を追究し、芸術にまで高めた美食家ドダン(ブノワ・マジメル)と、彼が閃いたメニューを完璧に再現する料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)。実に20年の付き合いになるふたりは深い絆と信頼で結ばれているが、プロとして自立しているウージェニーは、ドダンからの求婚を断り続けていた。

© Stéphanie Branchu © 2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA
© Stéphanie Branchu © 2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA

そんなある時、美食仲間と共にユーラシア皇太子から晩餐会に招待されたドダンは、豪奢なだけで論理もポリシーもない大量の料理にうんざりする。そこで自らが信じる「食」の真髄を示すべく、最もシンプルな料理にして究極のポトフを作り上げ、皇太子をもてなすとウージェニーに打ち明けるのだが……。

トラン・アン・ユン監督は視覚や聴覚へのアプローチによって、いかに「味覚の表現」を実現できるかについて考え抜き、調理過程はすべてワンカットで撮影。BGMを排除して、魚や肉を焼いたり煮たりする調理の音をサウンドスケープとして構成。さらに自然光をメインの照明にするなど、ひとつひとつの素材が究極のひと皿へと進化を遂げる様子を繊細かつダイナミックに捉えた。

© 2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA
© 2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA

© 2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA
© 2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA

同時にこれは「食」についての情熱と才能を共有する男女の愛とパートナーシップの物語でもある。ウージェニー役には、フランスを代表する俳優のひとりであるジュリエット・ビノシュ(1964年生まれ)。『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年/監督:アンソニー・ミンゲラ)でアカデミー賞助演女優賞を受賞したほか、『ポンヌフの恋人』(1991年/監督:レオス・カラックス)、『ショコラ』(2000年/監督:ラッセ・ハルストレム)、『真実』(2019年/監督:是枝裕和)など数多くの代表作を持つ。ドダン役には、『ピアニスト』(2001年/監督:ミヒャエル・ハネケ)でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞したブノワ・マジメル(1974年生まれ)。ウージェニーに寄せる切なく熱い想いを演じきった。ビノシュとマジメルは『年下のひと』(1999年/監督:ディアーヌ・キュリス)以来、20年ぶりの共演となる。一時期は実際のパートナーであり、娘がひとり居ることも有名な話だ。

© Stéphanie Branchu © 2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA
© Stéphanie Branchu © 2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA

さらに料理監修を務めたのは、ミシュラン三つ星シェフのピエール・ガニェール。撮影前にすべての料理を試作する徹底ぶりで、かつ皇太子のお抱えシェフとして出演も果たした。

こうして完成した映画は、「美食のスペクタクル」(VARIETY)、「五感の祭典」(DEADLINE)、「最高の料理映画」(THE TIMES)など、ジャーナリストたちの目も心も味覚もしっかり掴んでいる。究極にして至高の「食」に特化した映像体験を優雅に堪能してほしい。ボナペティ(Bon appétit )!

『ポトフ 美⾷家と料理⼈』

監督/トラン・アン・ユン
出演/ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル
料理監修/ピエール・ガニェール
12⽉15⽇(⾦)より、Bunkamura ル・シネマ 渋⾕宮下、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
https://gaga.ne.jp/pot-au-feu/
配給/ギャガ

 

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Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。『週刊文春』『朝日新聞』『TV Bros.』『シネマトゥデイ』などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。

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