アジア系の新星、チョン・ジョンソの魅力にノックアウト。映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』
ヒロインの名はモナ・リザ。幼い頃から12年もの間、精神病院に隔離され続けたアジア系の彼女は、赤い満月(ブラッドムーン)の夜に突如“他人を自由に操れる”特殊能力に目覚めた。血のついた拘束着のまま施設から逃亡したモザ・リザは、刺激と快楽が渦巻く米南部ルイジアナ州の街、ニューオーリンズにたどり着くのだが──。
危険な都市の夜を彷徨うキュートなニューヒロイン爆誕!
なんて魅力的なヒロイン像だろう。まだ少女の面影を残しつつも、決して微笑まず、ただ自分がサヴァイヴするためにハードボイルドな闘いを繰り広げていくモナ・リザ。例えば『キック・アス』(2010年/監督:マシュー・ヴォーン)と『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』(2013年/監督:ジェフ・ワドロウ)でクロエ・グレース・モレッツが演じたヒット・ガールなども彷彿とさせる彼女が、謎のパワーを発揮して、まるで迷宮のような夜の都市の危険な裏通りで活躍する。ポップかつダーク、アクションやサスペンス満載のおとぎ話として楽しめるエンタテインメントの快作が登場した。
監督は「次世代のタランティーノ」とも呼ばれたイラン系アメリカ人のアナ・リリ・アミリプール(1980年生まれ)。長編監督デビュー作『ザ・ヴァンパイア~残酷な牙を持つ少女~』(2014年)がサンダンス映画祭などで絶賛され、ジャンル映画の祭典として知られるスペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭では審査員賞を受賞するなど、世界各地のインディペンデント系映画祭で高い評価を得た。ハリウッドの豪華キャストを迎えた監督第2作『マッドタウン』(2016年/日本ではNetflix配信のみ)では第73回ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞。かなりクセとアクの強い作風を見せてきたアミリプールだが、約6年ぶりとなる今回の長編第3作の『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』ではより一般性の高い娯楽作へと大きく飛躍した。とはいえ、すべて彼女自らのオリジナル脚本であり、戦闘的な女性を主人公にしたファンタジー仕立てであることは、これまでの三作に共通している。
そして大注目、モナ・リザを演じるのは韓国人俳優のチョン・ジョンソ(1994年生まれ)。カナダで少女期を過ごした彼女は、やがて韓国に戻って演技を志し、オーディションによりヒロイン役に抜擢された村上春樹原作の『バーニング 劇場版』(2018年/監督:イ・チャンドン)で鮮烈なデビュー。第71回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を獲得した本作を観たアミルプール監督は、彼女にすっかり惚れ込んだらしい。そして直々のオファーを受け、『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』で早くもハリウッドデビューを果たした。さらにNetflix配信映画『ザ・コール』(2020年)やNetflix配信ドラマ『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』(2022年)などにもメインキャストで出演。まさに現在、アジアから世界に羽ばたく若手俳優の筆頭のひとりだ。
さらに、初めての街を彷徨うモナ・リザの特殊な力に目をつけ、ある計画に引き込もうとするタフなシングルマザーのポールダンサー、ボニー・ベル役には名作『あの頃ペニー・レインと』(2000年/監督:キャメロン・クロウ)でアイコニックなペニー・レイン役を演じたケイト・ハドソン。またボニーの息子である11歳の少年チャーリー役には、エヴァン・ウィッテン。聡明で自立心旺盛なチャーリーは、モナ・リザと心を通わせて彼女の大切な相棒となる。ちなみにチャーリーはヘヴィメタルが大好きで、部屋の壁一面にモトリー・クルーやオジー・オズボーンなどのポスターを大量にびっちり貼っているのが可笑しい。
撮影はアリ・アスター監督の『ヘレディタリー/継承』(2018年)や『ミッドサマー』(2019年)で注目されるポーランド出身のパヴェウ・ポゴジェルスキ(日本では2024年2月16日公開予定のアスター監督の新作『ボーはおそれている』でも撮影を手がけている)。今回は広角レンズを使用し、ネオンカラーが輝くニューオーリンズの夜の街を不穏で夢幻的な空間に昇華した。
お話、演出、スタッフワークの技術など、すべてのレベルが高い本作だが、その中でも生命線となるのは、やはりチョン・ジョンソが快演するモナ・リザのキャラクターだ。彼女の活躍がこれ一作だけで終わるのはもったいない。いまから続編製作も期待したくなる!
『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』
監督・脚本:アナ・リリ・アミリプール
出演:ケイト・ハドソン、チョン・ジョンソ、クレイグ・ロビンソン、エド・スクライン、エヴァン・ウィッテン
11月17日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかにて公開
monalisa-movie.jp
配給:キノフィルムズ
© Institution of Production, LLC
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Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito