伝説のカリスマシェフが用意した最後の晩餐──究極のフルコースとは!? 映画『ザ・メニュー』 | Numero TOKYO
Culture / Post

伝説のカリスマシェフが用意した最後の晩餐──究極のフルコースとは!? 映画『ザ・メニュー』

太平洋岸の孤島にある世界でも最も予約の取れないレストランで、目に麗しく、食欲をそそるコース料理に張り巡らされたサプライズの数々。果たしてレストランには、極上のコースメニューにはどんな秘密が隠されているのか? そしてミステリアスな超有名シェフの正体とは……? レイフ・ファインズ、アニャ・テイラー=ジョイ、ニコラス・ホルトら一癖も二癖もある俳優陣が集結した極上のサスペンス・スリラー『ザ・メニュー』がいよいよ公開。

毒気たっぶりのスリルと風刺が孤島に渦巻く戦慄のサバイバルスリラー!

これはエグい! そして斬新。舞台となるのはアメリカ北西部、太平洋沖の絶海に浮かぶ孤島の最高級レストラン。ホーソンという名のこの謎めいた店は、世界で最も予約の取れないレストランと呼ばれ、すべてを美食のために捧げる伝説のカリスマシェフ──ジュリアン・スローヴィク(レイフ・ファインズ)が頂点に君臨していた。

今宵、そこに高額のチケットを獲得した総勢11人のゲストたちが、専用の客船に乗って意気揚々と招かれてくる。しかしそこには想像を絶するサプライズが仕掛けられていた。果たして超一流の天才シェフがもてなす、壮絶なスリルに満ちた驚愕のフルコースとは!?

風刺の毒が強烈に効いた快作にして怪作スリラーだ。まずテーブルについた客たちのキャラが面白い。カリスマシェフの熱心な崇拝者であり、何かと知った風なウンチクを垂れる料理オタクの青年タイラー(ニコラス・ホルト)。権威的な料理評論家のリリアン(ジャネット・マクティア)と、雑誌編集者のテッド(ポール・アデルスタイン)。落ち目の映画スターのジョージ(ジョン・レグイザモ)と、彼が味音痴なのを知っているアシスタントのフェリシティ(エイミー・カレロ)。いかにもチャラい風情の、IT業界の成り上がり者三人組など……。

そんな中、例外的な事情で参加した唯一の客が、タイラーの同伴者である若い女性のマーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)だ。当初タイラーが予定していたパートナーの代理であり、庶民感覚の持ち主である彼女(ネブラスカの田舎町生まれ、との言及がある)は、次々と運ばれてくる禅問答のようなワケのわからないメニューや、給仕長のエルサ(ホン・チャウ)をはじめ、シェフに従うスタッフたちのカルト集団のような異様さなど、この店に感じる違和感を率直に口にし続ける。

リッチでセレブ気取りの客たちが、シェフの気まぐれ……ならぬ、厳格でぶっ飛んだおもてなしに翻弄される人間群像は、言うならば虚栄心まみれの“俗物図鑑”。実際の質や価値などよくわからないのに、名声やブランド力をありがたがり、資本主義の勝者として最高級の美食を搾取しようとする面々。本作には「奪う側/奪われる側」というキーワードが登場するが、究極のメニューを特権的に味わおうとする「奪う側」の金満家たちに、料理の純粋な探究者たるシェフは全力かつ捨て身で牙を剥くのだ。

この料理という分野を、例えばアートやファッションに置き換えても同様の皮肉は成立するだろう。スウェーデン出身のリューベン・オストルンド監督がカンヌ国際映画祭でのパルム・ドール受賞を連続で果たした、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017年)や『トライアングル・オブ・サッドネス(原題)』(2022年)のように。

ブルジョワ風刺の苛烈なブラックユーモアと、密室的なシチュエーションを活かした監禁状態の劇形式は、ルイス・ブニュエル監督の名作『皆殺しの天使』(1962年)を彷彿させる(美術監督のイーサン・トーマンは実際に同作をヒントにしたらしい)。また、2015年からNetflixで配信されている米国のドキュメンタリーシリーズ『シェフのテーブル』も参照したようで、ドッキリ系のバラエティ番組やリアリティショーのような下世話さもある。恐怖の煽り方はホラー的で、英国演劇仕込みの長台詞で戦慄させる名優レイフ・ファインズは、『羊たちの沈黙』(1991年/監督:ジョナサン・デミ)でアンソニー・ホプキンスが演じたレクター博士の姿と重なる。まさしく「ジュリアン・スローヴィク劇場」は、さまざまなジャンルの映画や映像作品の絶妙なマリアージュなのだ。

監督はHBO製作『メディア王~華麗なる一族~』(2018年~)の演出で注目を集める、マーク・マイロッド。『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011年~2019年)などにも参加したドラマシリーズ界の俊英が、いよいよ満を持しての映画監督デビューを飾った。製作には、その『メディア王~華麗なる一族~』の製作総指揮も務め、監督として『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015年)や『ドント・ルック・アップ』(2021年)など話題の傑作を多数発表している鬼才アダム・マッケイが参加している。

豪華なオールスター・キャストの中では、カリスマシェフに対峙し、揺るがぬまなざしで“真実”を鋭く突きつけるマーゴ役を好演したアニャ・テイラー=ジョイの魅力に注目。Netflixの人気ドラマ『クイーンズ・ギャンビット』(全7話、2020年)の主演で大きくブレイクし、『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021年/監督:エドガー・ライト)や『アムステルダム』(2022年/監督:デヴィッド・O・ラッセル)など注目作が続く彼女。物語のキーパーソンとして、この破格のエンタテインメントを牽引し、圧巻の結末に誘ってくれる。まったく先の読めない命がけのディナー、あなたはサバイバルできるか?

『ザ・メニュー』

監督/マーク・マイロッド
出演/レイフ・ファインズ、アニャ・テイラー=ジョイ、ニコラス・ホルト、ホン・チャウ、ジャネット・マクティア、ジョン・レグイザモ
11月18日(金)より、全国ロードショー
www.searchlightpictures.jp/movies/themenu

©2022 20th Century Studios. All rights reserved.
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

映画レビューをもっと見る

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。『週刊文春』『朝日新聞』『TV Bros.』『シネマトゥデイ』などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。

Magazine

JANUARY / FEBRUARY 2025 N°183

2024.11.28 発売

Future Vision

25年未来予報

オンライン書店で購入する