子どもとの関わりを通して未来を見つめる ── 映画『カモン カモン』 | Numero TOKYO
Culture / Post

子どもとの関わりを通して未来を見つめる ── 映画『カモン カモン』

アカデミー賞では脚本賞にノミネートされ話題となった『20センチュリー・ウーマン』に続く、マイク・ミルズ監督と映画会社A24による待望のコラボレーション第2弾『カモン カモン』がついに完成。主演にホアキン・フェニックスを迎え、ひとりの男がひとりの子どもと人と人として向かい合ったときに生まれた、奇跡のような瞬間を描く。

『ジョーカー』から一転したホアキン・フェニックスの“ソフトな名演”──初めての子育てに直面した不器用な男を繊細に演じる。
マイク・ミルズ監督の新たな傑作。子どもたちの声を通して未来を見つめるヒューマンドラマ

「これから君にいくつか質問する。正しい答えも、間違った答えもない。未来についてだけど、どんなふうになると思う? 自然はどうなる? 君の街はどう変わる? 家族の姿は同じ? 君は何を覚えていて、何を忘れてる? 何を恐れ、何に怒る? 孤独を感じる? 君を幸せにするものは何?」──。

冒頭からそう子どもたちに問いかけるのは、ラジオジャーナリストのジョニー。演じるのは、ホアキン・フェニックスだ。この映画『カモン カモン』では、アメリカのいろいろな都市を回って、人生や未来についてインタビューしている彼が、初めての子育てに突然直面する姿が描かれる。そんな劇中の随所に、デトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオリンズの各所で実際に取材した9~14歳の子どもたちの生の声──実質ドキュメンタリーと呼べるパートが挿入されている構成だ。

米国の人気スタジオ「A24」が贈るマイク・ミルズ監督の傑作、アカデミー賞脚本賞にノミネートされた『20センチュリー・ウーマン』(2016年)に続き、フィクションの長編劇映画としてはミルズ監督の4作目となる(もう一本、2007年にはドキュメンタリー『マイク・ミルズのうつの話』を撮っている)。本作『カモン カモン』は、彼のパートナーであるアーティスト、作家であり、映画監督としても活躍するミランダ・ジュライとの間に2012年に生まれた息子ホッパーとの関係が出発点となったもの。なんでもミルズがホッパー君をお風呂に入れているとき、ふっと映画のアイデアが浮かんできたらしい。

マイク・ミルズは自分のプライベートな体験をもとに物語を立ち上げるタイプの映画作家だ。もともとは90年代から、音楽やファッション周りのグラフィックデザイナー(ビースティ・ボーイズ、ソニック・ユースのジャケやTシャツ、ファッションブランド「X-girl」のロゴなど担当)として、CM(GAPのミュージカル調のCMが特に有名)やMVのディレクターとして、またチボ・マットの本田ゆかや羽鳥美保らと組んでいたバンド「バター08」のベーシストなどでも活躍していたミルズだが、2005年に初めての長編映画『サムサッカー』を監督する。これは多感な思春期の葛藤を描いたウォルター・キルンの原作小説に惚れ込んだミルズが、自らプロデューサーを説得して映画化を実現したもの。初のオリジナル脚本作となった『人生はビキナーズ』(2010年)ではミルズ自身の父親との関係、『20センチュリー・ウーマン』では母親との関係が物語のベースになっている。ただしどの作品も「私映画」的なべたつきからは絶妙な距離を置き、あくまでフィクションとして、普遍性の高いドラマへと昇華しているのが見事だ。

今回、そのフィクション化を象徴するのが、まず寓話性を付与したようなモノクロームの映像美。ミルズ監督は、やはりモノクロームで撮られたヴィム・ヴェンダース監督の『都会のアリス』(1974年)――ジャーナリスト男性と9歳の少女の旅を描くロードムービーを映画のスタイルとして参照したらしい。そして「父と息子」ではなく、「伯父さんと甥っ子」に変換された設定も重要なポイントである。NYを拠点にシングルライフを送り、アメリカ中を飛び回るラジオジャーナリストのジョニー(ホアキン・フェニックス)は、LAに住む妹ヴィヴ(ギャビー・ホフマン)が家を留守にする数日間、9歳の甥っ子ジェシー(ウディ・ノーマン)の面倒を見ることに。それは彼にとって、初めての子育ての厳しさを味わうと同時に、驚きに満ちあふれたかけがえのない体験となる。

脚本に惚れ込んだ名優ホアキン・フェニックスが『ジョーカー』(2019年/監督:トッド・フィリップス)のハードな怪演から一転。『her/世界でひとつの彼女』(2013年/監督:スパイク・ジョーンズ)を引き継ぐような繊細でソフトな名演を見せてくれる(ちなみにホアキン自身も、この映画を撮り終えたあと、2020年9月28日にパートナーのルーニ-・マーラとの間に男児が誕生。ホアキンの亡き兄、伝説の俳優であるリヴァー・フェニックスに倣って「リヴァー」と名付けた)。

仕事ではたくさんの子どもたちと接しているジョニーだが、過敏で感受性が鋭く、「問題児」扱いもされている甥っ子ジェシーとの日々は慣れないことばかり。突然の子育てに悪戦苦闘しながら各都市を回る。インタビュー仕事用の音響機器を持って、LAではビーチに、NYではスケートパークに出かけたり……。この旅の中でジェシーはいろいろな新しい体験を重ねるが、もちろんジョニーのほうもジェシーの言動から大きく影響を受ける。これは大人と子ども、双方の精神的な成長を描く「W通過儀礼」の物語ともいえるだろう。

まるで「父と息子」の練習のような叔父と甥っ子の姿。不器用なふたりのコミュニケーション・レッスン。またそこに、2013年に財政破綻が伝えられたデトロイト(だが最近では治安もずいぶん良くなっている)、2005年に大型竜巻「ハリケーン・カトリーナ」の被害にあった地域も含むニューオリンズで暮らす地元の子どもたちの声を聞くことで、アメリカ並びに世界の未来を見つめようとする視座も重なる。社会の分断、家庭内の分断、大人と子どもの分断などを、いかに乗り越えて肯定していくか――。

ジェシーを演じたウディ・ノーマンの天才子役ぶりも話題。C’MON C’MON──「先へ先へ」と「こっちにおいで」の両義を持つタイトルを冠した本作は、混沌とした今の時代のリアルに根差した深いまなざしで、未来と融和の可能性を優しく映し出すのだ。

『カモン カモン』

監督・脚本/マイク・ミルズ
出演/ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン
4月22日(金)より 、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
happinet-phantom.com/cmoncmon/

配給:ハピネットファントム・スタジオ
© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

映画レビューをもっと見る

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。『週刊文春』『朝日新聞』『TV Bros.』『シネマトゥデイ』などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。

Magazine

November 2022 N°161

2022.9.28 発売

Shades of Black

だから、黒

オンライン書店で購入する