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ハーモニー・コリン×マシュー・マコノヒーの傑作! 映画『ビーチ・バム まじめに不真面目』

天才の名をほしいままにしてきた映画監督ハーモニー・コリンの新作が届いた。主演にマシュー・マコノヒーを迎えた『ビーチ・バム まじめに不真面目』は、成長しない、反省しない、期待しない、渚の酔いどれ詩人ムーンドッグの終わりなき狂騒の日々を描く。

南の楽園フロリダから最高にイカレた贈り物!?
監督・ハーモニー・コリン×主演・マシュー・マコノヒー。
W天才にして問題児タッグの陽気にチルアウトした夢のような傑作

いまやストリート・ムーヴィーのネオ・クラシックとして讃えられる『KIDS/キッズ』(1995年/監督:ラリー・クラーク)の脚本を19歳で書いた天才少年が、衝撃のデビュー作『ガンモ』(1997年)を監督。まもなく当時の恋人クロエ・セヴィニーをめぐってヴィンセント・ギャロと喧嘩したりといった騒動をいくつか挟みつつ、『ジュリアン』(1999年)や『ミスター・ロンリー』(2007年)などを発表し、人気スタジオA24&アンナプルナ・ピクチャーズの初期に煌めく『スプリング・ブレイカーズ』(2012年)で新たなファン層を獲得……なんてプロフィール解説は余計かもしれない。ハーモニー・コリン監督の新作は、ひと言でいうと「最高!」だ。

主演はマシュー・マコノヒー。彼が浮かれすぎのアロハシャツ&ショーツに白いウエストポーチを合わせ、レスラー風の金髪で演じるムーンドッグは、イカレた天才詩人にして素晴らしき放浪者。いつも酔いどれてマリファナ漬け、「船も海も太陽も好きだし、美しい女たちも大好き」とのたまう彼は、楽園のリゾート地に住み着いたチャールズ・ブコウスキーのようでもある。果たしてその正体は、単なるクズか、社会のコードを自由に撹乱する道化か、窮屈な時代に反旗を翻すメッセンジャーか? ハーモニー・コリンは彼の在りようと作品の概要をこう説明する。「ヴォードヴィルを彷彿させるような、古典喜劇の典型みたいなものを想定。ムーンドッグは面白さを身体で表現する」

舞台は『スプリング・ブレイカーズ』に続いてフロリダ州。「キーウェストが俺の家だ。底辺(ロー)で暮らしてこそハイになれる」と語るムーンドッグは、太陽の下でヴィンテージのタイプライターを打ち、ヨットで適当に寝泊まりしつつ釣りに興じる。猫も大好き。まるでヘミングウェイ気取り。また破天荒な父親でもある。謎の大富豪である愛妻ミニー(アイラ・フィッシャー。私生活ではサシャ・バロン・コーエンのパートナー)は、親友にして悪友ランジェリー(演じるのは「ほぼ本人」のスヌープ・ドッグ!)とマイアミで遊んでおり、愛娘ヘザー(ステファニア・ラヴィー・オーウェン)はつまらない男とすぐに破綻しそうな結婚を控えている。

世界や周囲の環境はいつもそれなりに動いているのだが、ムーンドッグは何も変わらない。D.H.ロレンスやボードレール、リチャード・ブローディガンの詩を引用し、大金持ちでも無一文のホームレスでも、酒瓶片手にスケボーでそこら辺を徘徊する。ひたすらチルアウトした夢のような日常。

本作『ビーチ・バム』の「思想」をつかみ取ろうとするならば、「人間の生活には目的なんかないのです」と喝破する澁澤龍彦の『快楽主義の哲学』(1965年初版/文春文庫)が、おそらくいちばん明確な解説書になるのではないか。「人間は動物の一種ですから、食って、寝て、性交して、寿命がくれば死ぬだけの話です」。であるからには、「わざわざありもしない主人を空想して、その主人のために自分の人生を犠牲にするなんて、まっぴらです」。ワケのわからない制度に囚われないためには、「その時その時の周囲の状態によって、いろんなふうに生き方を変え、もっとも楽な姿勢を選ぶ」ことが肝心。誰かに仕える奴隷のような人生をやめること。煩わしい喧噪やストレスから遠く離れ、動物的な状態に身を置くこと――。

それにしても、いつからハーモニー・コリンはこれほど突き抜けた境地に達したのだろう。初期の『ガンモ』や『ジュリアン』の頃のコリンは、「廃墟」の様相を核にノイジーな世界像を打ち出していた。ただし、奇妙な均衡に支えられた共同体の光景に好んで目を向けることには変わりない。マイノリティがうごめくエリアに身を置き、それを救済するのでも告発するのでもなく、通常のモラルを超越した不思議な神話空間を捉え、「おとぎ話」へと昇華させる。その基本線を守りつつ、コリンは加齢や時代に連れて――あるいはどんどん悪いヴァイヴスを撒き散らしていく世界の実相と反比例するように「肯定」への意志を強めていく。ムーンドッグとは、「廃墟」から「楽園」に移行したハーモニー・コリンの観念を純粋結晶させたアイコンともいえるだろう。

こういった「思想」を補強するように、自由でリラックスした生き方を提唱・実践する破格のカリスマ歌手・作家・俳優・実業家、ジミー・バフェット(現在74歳)が、本人役で出演し、スヌープ・ドッグと一緒に船上で歌ってしまうのも痺れる! まだバフェットの世界に親しんでいない人は、ぜひ本作を入口に、トロピカルなカントリー・サウンドを聴かせる音楽、あるいは冒険小説『ジョー・マーチャントはどこにいる?』(文藝春秋刊/訳:芝山幹郎)などにも触れてみてほしい。

そんなコリンはいま実際にフロリダ州マイアミ在住。本作で描かれるキーウェストのハウスボート文化に私生活で触れたことから、この映画のアイデアを思いついたらしい。そして自分のホーム(地元)に、ジョナ・ヒル(彼の監督作『mid90s ミッドナインティーズ』は『KIDS/キッズ』の影響大)、ザック・エフロン、そしてマーティン・ローレンスらの仲間を呼んでしまう。まさに至福のパーティー映画だ。

美しく享楽的な演出や語りのタッチはフリーハンドに見えて、実はきっちり設計されたもの。コリンいわく、「ほとんど脚本通りに撮影した。ただ反復法も使っている。音楽のリズムを作るようなものさ。撮影自体は素早く、ゆるやかだったけど、常に最終的なデザインを意識していた」。
「大麻やお香の香りが漂い、ハウスボートの下ではじける水の音が聞こえてくるような」感覚を実現に向かわせたのは、『スプリング・ブレイカーズ』でも一緒に仕事した撮影監督のブノワ・デビエ(ギャスパー・ノエ監督作の常連でもある)。彼とコリンはもはや無双のタッグである。

コリンは本作を「チーチ&チョンのビーチ版」だとたとえる。あるいはジョナ・ヒルの台詞にもあったように、ゴッホとウォルト・ディズニーを混ぜたようでもある。そして最後には『ポンヌフの恋人』(1991年/監督:レオス・カラックス)以来の甘美さと言いたくなる花火が夜空を彩る。果たして劇中でムーンドッグが言うように、この愉快な映画は「表面的な世界の奥深い闇を暴こうとしている」のだろうか? ともあれ筆者からの返歌として、傑作『ビーチ・バム』には次の言葉を贈りたい。「何でもいいから陽気にしていようじゃないか!」(ヘンリー・ミラー『暗い春』より)。

『ビーチ・バム まじめに不真面目』

監督・脚本/ハーモニー・コリン
出演/マシュー・マコノヒー、スヌープ・ドッグ、アイラ・フィッシャー、ステファニア・オーウェン、ザック・エフロン、ジョナ・ヒル、マーティン・ローレンス、ジミー・バフェット
4月30日(金)よりキノシネマほか、全国順次公開
movie.kinocinema.jp/works/beachbum/

© 2019 BEACH BUM FILM HOLDINGS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。『週刊文春』『朝日新聞』『TV Bros.』『シネマトゥデイ』などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。

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