アートで癒やしを。『ホドロフスキーのサイコマジック』先行配信中! | Numero TOKYO
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アートで癒やしを。『ホドロフスキーのサイコマジック』先行配信中!

世界中に熱狂的なファンを持つ映画監督、アレハンドロ・ホドロフスキー。新作『ホドロフスキーのサイコマジック』では彼が考案した心理療法「サイコマジック」がどのように実践され、作用しているのかを描きながら、自身のこれまでの作品がいかに「サイコマジック」であるかを証明する……。

アートとココロの治癒の融合をめざす! 鬼才ホドロフスキーが贈る驚異のサイコマジック・セラピームービー

この世で最もカルト・オブ・カルトの称号がふさわしい現役の映画作家、アレハンドロ・ホドロフスキー。詩人やコミック作家など多彩な顔を持つマルチアーティストでもある。1929年チリ生まれで、御年91歳ながらその姿は実に若々しい。 かつてジョン・レノンやアンディ・ウォーホルなど名だたるカルチャーセレブたちに支持された『エル・トポ』(1970年)や『ホーリー・マウンテン』(1973年)は、いまもカルトムービーの聖典。映画界では長いブランクがあったため、“生ける伝説”の存在だったが、2013年に23年ぶりの新作『リアリティのダンス』を発表。日本でも幅広い層のファンから熱狂的に迎えられており、最近ヒットした『ミッドサマー』(2019年/監督:アリ・アスター)などはホドロフスキー作品からの影響がよく指摘された。

そんなホドロフスキーは、実はセラピストでもある。独自の人生経験やこれまで編み出してきたアートフォームに基づいて、オリジナルで考案した心理療法が「サイコマジック」だ。その治療を受けた人たちのホドロフスキーに宛てた手紙が、昨年8~10月に開催された「あいちトリエンナーレ2019」で展示されたことも話題になった。

本作『ホドロフスキーのサイコマジック』では冒頭で監督自ら画面に現われ、まずこう解説する。

「精神分析学は神経科医フロイトを生み出した。その根本は科学である。サイコマジックは映画監督で演出家のA・ホドロフスキーが生み出した。その根本は芸術である。精神分析は言葉を介したセラピーであり、サイコマジックは行動を介したセラピーだ」

人間関係や病などの悩みを抱えている相談者たちに対し、ホドロフスキーは個別で当たり、各々に合ったスピリチュアルな治療を行う。彼は新フロイト派のドイツの心理学者、エーリッヒ・フロム(1900年生~1980年没)とともに精神分析を学んでいたこともあるが、サイコマジックは言葉ではなく行為で、人々の無意識に訴えかけて魂の解放に導く。この映画では実際にホドロスフキーのもとに訪れた10組の人々が登場し、サイコマジックの実践の様子を紹介していく。

処方行為は極めてユニークなものだ。決まった形式は特にないが、治癒される側は多くの場合、裸になる。そしてミルクを頭からかぶったり、性器に色を塗ったり。さらに足に長い鎖をつけたり、カラダに金粉を塗ったままパリの街を歩いたり……。それらシュールで呪術的な光景は、まさしくホドロフスキー映画のワンシーンそのままのようだ。

親からの虐待、夫婦や恋愛関係の危機、セクシュアリティの葛藤や吃音症、うつや癌など、さまざまな苦しみやトラウマに苛まれる“患者”たちは、ホドロフスキーから風変わりな施術を受け、やがて驚異の治癒体験を語る。また相談者の中には“フランスのトム・ウェイツ”の異名を取るミュージシャン、アルチュール・アッシュもいる(オリジナル・ラヴの『Sessions』などにも参加。V.A.『美空ひばりトリビュート』ではカヒミ・カリイと「東京キッド」をコラボ)。亡き父親との関係に今も苦悩する彼は、無観客のステージでピアノを弾きまくり、父親の象徴である黄金の衣装を脱いで放り投げる。

おそらく「裸」になることが多いのは、真の自己に到達することがサイコマジックの至上命題だからだろう。タロット占い、禅や瞑想、パントマイムや前衛演劇など、あらゆる活動に通じてきたホドロフスキーは、それらを踏まえて「テアトル・エフェメール(儚い演劇)」と呼ぶ詩的な演劇の形式を自己流で作り出した。その延長にあるのがサイコマジックだ。これは祭礼であり儀式。言わば「ハプニング的儀式」だとホドロフスキーは説明する。

こういった流れの中に、過去の自作映画のシーンが挿入される。代表的な有名作だけでなく、初長篇作『ファンド・アンド・リス』(1968年)やインドを舞台にした『Tusk(牙)』(1978年)なども。自伝的な『リアリティのダンス』や『エンドレス・ポエトリー』(2016年)は、自分自身をサイコマジックで癒やした作品だという。その意味で本作はホドロフスキーの自己言及、監督自身による映画の秘密の解読書だと捉えることも可能だろう。

撮影監督は43歳年下の妻、画家であるパスカル・モンタンドン=ホドロフスキーが担当。彼女との共同制作には「パスカレハンドロ」という合同ネームを使用することもある。また重要なのは、ホドロフスキーは相談者に対しサイコマジック治療は無料で行っているということだ。彼は公式でこうコメントしている。

「私は支払いを受けない。私にとってはアートであって、惜しみなく与えることは歓びのためにやっているんだ。私はグル(導師)でもないし、医者でもない。アーティストだ。アートが人を癒やせると証明しようとしている」

この映画のホドロフスキーに導かれて、われわれも意識変革の扉を開けることができるかもしれない。もっと人生に歓びを!

『ホドロフスキーのサイコマジック』

監督・脚本/アレハンドロ・ホドロフスキー
出演/アレハンドロ・ホドロフスキー、アルチュール・アッシュほか

オンライン映画館「アップリンク・クラウド」にて先行配信中/〜6月11日(木)14:00まで

6月12日(金)より、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

uplink.co.jp/psychomagic/
© SATORI FILMS FRANCE 2019 ©Pascal Montandon-Jodorowsky

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「シネマトゥデイ」などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマクラブ』でMC担当中。

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