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カンヌ国際映画祭監督賞を受賞! ダルデンヌ兄弟作『その手に触れるまで』

世界の名匠、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督の新作『その手に触れるまで』が近日公開される。カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞、それにより、審査員賞を除くすべての主要賞受賞という史上初の偉業を彼らは成し遂げている。

ベルギーの至宝、ダルデンヌ兄弟が贈る新たな問題提起。
過激な「正義」に感化され、狂信的行動に走る少年の魂は救えるのか?

カンヌ国際映画祭の最強の常連監督といえば、ベルギーが誇る社会派のベテラン監督、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟だ。『イゴールの約束』(1996年)で国際芸術映画評論連盟賞を受賞し、『ロゼッタ』(1999年)でパルムドールに輝いてから、なんと今回で8作品連続のコンペティション部門出品。その新作『その手に触れるまで』では監督賞を受賞した。

同じ第72回の同映画祭でパルムドールを獲得したのはポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』だが、ダルデンヌ兄弟はまた異なるアングルから、現代社会の位相を真摯に見つめてみせる。

主人公はベルギーに暮らす13歳のアメッド(イディル・ベン・アディ)。つい最近までゲームに夢中な、普通の少年だった彼。しかし今は小さな食品店の二階のモスクに通い、イスラム原理主義の導師(オスマン・ムーメン)に感化されている。

ムスリムの少年にとって、イスラム教の聖典コーランへの興味は当然のこと。だが“イマーム”と呼ばれる導師の教えはかなり過激だ。アメッドが通う学校で、アラビア語を学ぶための歌の授業を提案したイネス先生(ミリエム・アケディウ)のことを聞くと、「それは冒涜だ。排除したほうがいい。“聖戦の標的”だな」と抹殺をそそのかす。

導師の言葉を真に受けたアメッドは、まもなく靴下にナイフを忍ばせて、イネス先生を襲おうとする。「アラーよ、僕の行動を受け入れてください」と──。

未熟さゆえの潔癖さで、狂信的な考えと行動に傾倒する思春期の危うさ。まだ世界を知らないまま、歪んだ「正義」に囚われ、学校の先生をイスラムの敵と考え始める。それが正しいことだと信じて、暴力的な行動へと闇雲に突き進む。

これを単に宗教や信仰の罠と捉えるのは早計だろう。一時期、イスラム国と自称する過激派組織が勢力を伸ばし、欧州を中心に多くの世界の若者を取り込んでいた。2016年には同組織へ参加するためにシリアに向かったとされる日本人の青年が、トルコから国外退去処分となった、とのニュースも届いたこともある。ダルデンヌ兄弟はこういったテロリズムを浮上させる世界構造の混迷に着想を得たのではなかろうか。

常識的な社会のコードを疑うことは大切だが、その向こうには別の偏見や憎しみが待っているかもしれない。「正義」の在り方が複雑に揺らぐ現在、いわゆる成人した大人であっても、アメッドの暴走は他人事ではない。だがとりわけ子どもの場合、幼い判断が自身の未来をごっそり奪うことにもなりかねない。

後半ではアメッドの少年院での日々が描かれるが、ダルデンヌ兄弟は安易な答えに飛びつくことなく、成長、変化、教育の可能性を映画の中で考察する。簡素でドキュメンタルなタッチを貫き、嘘のないまなざしで少年に寄り添い、未来に向けて救済する道をじっくり探っているのだ。

『その手に触れるまで』

脚本・監督/ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演/イディル・ベン・アディ、オリヴィエ・ボノー、ミリエム・アケディウ、ヴィクトリア・ブルック
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか、近日公開
bitters.co.jp/sonoteni/

© Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「シネマトゥデイ」などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマクラブ』でMC担当中。

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