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ジム・ジャームッシュ監督の新作はゾンビもの! 『デッド・ドント・ダイ』

もはや「ニューヨーク・インディーズの雄」なんて限定的な称号は失礼だろうか? 1980年代からマイペースで活動し、唯一無二の映画作家として多大な尊敬を集めるジム・ジャームッシュ監督。そんな彼の新作は、なんとゾンビ映画だ。

まるで“ジム・ジャームッシュ meets ジョージ・A・ロメロ”!?
カンヌも騒然。遊戯性と風刺性に満ちたハイエンドで奇想天外なゾンビコメディ

ジム・ジャームッシュの新作『デッド・ドント・ダイ』は、昨年(2019年)5月の第72回カンヌ国際映画祭でオープニング作品として初上映された時から、まさにジャームッシュ流の人を食った(文字どおり!)ゾンビコメディと評判になり、瞬く間にファンを増殖させてきた。

例えばSF、ホラー、アクション、狭義ではエイリアンもの、脱獄もの、カンフーものなど、特定の枠組みや典型的なコードに則って作られた娯楽映画のことを「ジャンル映画」と呼ぶ。ゾンビものは『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年/監督:ヨン・サンホ)や『カメラを止めるな!』(2018年/監督:上田慎一郎)など多様なヴァリエーションが続々生まれており、最も人気のあるジャンル映画の一つだろう。

実のところ、ジャームッシュがジャンル映画に手を染めることはさほど珍しくない。大枠でいうならば『デッドマン』(1995年)は西部劇だし、『ゴースト・ドッグ』(1999年)はサムライ映画だし、『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2013年)はヴァンパイア映画だ。

だがそのアプローチはやはり独特で、直線的ではなく斜めからジャンル映画の庭に斬り込む。カンヌでカメラドール(新人監督賞)を獲得した『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年)以来おなじみの、オフビートかつ美意識の強い彼一流のスタイルを基盤にしたひねった面白さが持ち味となる。

今回もまた然り。しかもジャームッシュが参照したのはオールドスクールなゾンビ映画のスタイルだ。テレビシリーズ『ウォーキング・デッド』(2010年~)のような、足の速いゾンビに襲われる人間たちの終末的サバイバルドラマを21世紀モデルだとしたら、『デッド・ドント・ダイ』のベースは完全に20世紀モデル。ゾンビホラーの父、ジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968年)や『ゾンビ』(1978年)をしっかり踏襲した、動きが鈍くどこか滑稽なゾンビのパンデミックを描く風刺喜劇だ。本作は全編に渡ってロメロへの愛あるオマージュにあふれており、ジャームッシュの全作品の中で最もB級映画然とした志向が強い一本かもしれない。

映画の舞台は警察官が3人しかいないアメリカの田舎町センターヴィル。主人公──でありつつ狂言回しとなるのは、アダム・ドライバー扮する巡査ロニーだ。上司の警察署長クリフ(ビル・マーレイ)とコンビで行動しながら、ロニーは「まずい結末になる」というこの世界の様相に早くから気づいている。「♪死者は死なない/人並み以上には~」等と歌われるグラミー賞受賞のシンガーソングライター、スタージル・シンプソンのカントリーソング『デッド・ドント・ダイ』(もちろんこの映画のための書き下ろし。ジャームッシュ自身が熱望したらしい)も、なぜこれが流れるのか?とのクリフの問いに、ロニーは「テーマ曲だから」と答える。

つまりロニーはあらかじめメタレベル(かつ、渦中)に立っている。例えば「頭を撃てば死ぬ」など、ゾンビものは過去作の参照の積み重ね(パロディックな再生産)を前提としたハイコンテクスト・ジャンルの最たるものだが、ジャームッシュはそれを踏まえて、毒気たっぷりの「ゾンビごっこ」を壮大なジョークのように繰り広げるのだ。

とにかく遊戯性が満載。日本でも大ヒットした『パターソン』(2016年)でジャームッシュ組に加わったアダム・ドライバーは、『スター・ウォーズ』シリーズのカイロ・レン役でも有名だが、彼の車のキーホルダーが『スター・ウォーズ』のキャラものだったりする。ビル・マーレイといえばカンヌ映画祭グランプリ受賞作の『ブロークン・フラワーズ』(2005年)など、比較的近年のジャームッシュ組常連だが、ゾンビコメディの快作『ゾンビランド』(2009年/監督:ルーベン・フライシャー)に本人役で出演していたことも想い出す。

もちろん遊び心と同時に作品を支えるのは風刺精神である。過去作への補助線を引くと、吸血鬼映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』において「ゾンビ」は侮蔑の言葉として使われていた。デトロイトの寂れたアパートで暮らす孤高のミュージシャンにして吸血鬼の主人公は、文化や歴史を愚弄してきた世俗の人間たちのことを「ゾンビども」と吐き捨てるのだ(ちなみに『デッド・ドント・ダイ』では、ガソリンスタンドの売店に勤める映画オタク男子が『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922年/監督:F・W・ムルナウ)のTシャツを着用している)。

今回の作品でゾンビは「物質主義の遺物」だと明確に規定されている。ジャームッシュの着想源はスマホ中毒の道行く人々がゾンビのように見えた、ということらしく、あらゆる嗜好品の依存者――コーヒーゾンビ、シャルドネゾンビ、Wi-Fiゾンビらが湧いて出てくる。

ジャームッシュの旧友でもあるイギー・ポップやトム・ウェイツ、RZA、セレーナ・ゴメスなど、音楽畑からも迎えたキャストは多彩にして豪華。ノリはユルいようで完成度は素晴らしく、小津安二郎の画面構成に多大な影響を受けた厳密な設計主義者の側面も忘れてはいけない。ジャームッシュの手に掛かれば、カジュアルなジャンル映画もハイエンドなアートフォームへと変貌を遂げるのだ。

『デッド・ドント・ダイ』

監督・脚本/ジム・ジャームッシュ 
出演/ビル・マーレイ、アダム・ドライバー、ティルダ・スウィントン、クロエ・セヴィニー 
6月5日(金)より全国公開
longride.jp/the-dead-dont-die/

© 2019 Image Eleven Productions Inc. All Rights Reserved.
配給/ロングライド

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「シネマトゥデイ」などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマクラブ』でMC担当中。

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