いよいよNetflixにあの巨匠が参戦! 映画『アイリッシュマン』
いよいよ映画界現役最強の巨匠の一人、マーティン・スコセッシ監督がNetflixに乗り込んできた。アメリカの裏社会に生きた男の回想を、3時間29分の壮大な叙事詩として描き出す『アイリッシュマン』。日本では第32回東京国際映画祭での先行上映(アジアン・プレミア)、アップリンク吉祥寺・渋谷、一部イオンシネマでの限定公開を経て、11月27日から配信の運びとなる。
“スコセッシ・オールスターズ”(+アル・パチーノ)が贈る渾身の集大成叙事詩
まず注目したいのはキャストだ。『タクシー・ドライバー』(1976年)や『レイジング・ブル』(1980年)など数々の名作をモノにし、スコセッシとは22年ぶり9回目のタッグとなるロバート・デ・ニーロ。『グッドフェローズ』(1990年)や『カジノ』(1995年)で強烈なバイプレーヤーぶりを見せつけ、近年俳優業は休業状態にあったものの、今回は特別復帰の形となったジョー・ペシ。スコセッシの初長編『ドアをノックするのは誰?』(1967年)からの常連にして旧友であるハーヴェイ・カイテル。 彼ら“スコセッシ・オールスターズ”に加え、スコセッシ組は(意外にも?)初めてとなるアル・パチーノも参戦。超豪華な座組みが実現した。ちなみにデ・ニーロとパチーノの両雄は『ゴッドファーザーPARTⅡ』(1974年/監督:フランシス・フォード・コッポラ)や『ヒート』(1995年/監督:マイケル・マン)などで共演していることは説明不要だろう。原作はチャールズ・ブラントが2004年発表したノンフィクション『I Heard You Paint Houses』。物語は82歳になった“アイリッシュマン”、裏社会で長らく生きてきたフランク・シーラン(ロバート・デ・ニーロ)の回想として語られる。
第二次大戦後、全米トラック運転手組合の一員としてドライバーの仕事に従事していたシーランだが、ある時、マフィアのボスであるラッセル・ブファリーノ(ジョー・ペシ)と知り合う。戦場仕込みの腕を見込まれたシーランは、ブファリーノ・ファミリーから人殺しの依頼を引き受けることに。一方、全米トラック運転手組合のリーダーであるジミー・ホッファ(アル・パチーノ)からも暗殺を任され、密かに敵の始末を重ねていった。
かくして二つの組織の凄腕ヒットマンとして任務を遂行していくシーランだが、やがて事態は皮肉な展開を迎える。ホッファの勢力が拡大して手に負えなくなってきたブファリーノは、“ジミー・ホッファの暗殺”をシーランに命じるのだった――。
これまでイタリア系ギャングであるマフィアの世界を繰り返し取り上げてきたスコセッシが、組織の板挟みになるアイルランド系移民の男を通して、アメリカの裏歴史を見つめた。まさに集大成と呼べる充実の内容。アイリッシュに大きく焦点を当てた意味では『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002年)を受け継ぐものともいえるだろう。また一時期、全米屈指のカリスマ的な人物であったジミー・ホッファ(彼の出自はドイツ系の父とアイルランド系の母)については、ジャック・ニコルソン主演の『ホッファ』(1992年/監督:ダニー・デヴィート)などの関連作を併せて観れば、作品の理解がより深まるはずだ。
さらに今回、デ・ニーロ(現在76歳)が若き日のシーランも自分で演じるに当たって、往年の「デ・ニーロ・アプローチ」(役柄に合わせた過酷な肉体改造)の代わりに(?)、CGIの特殊効果を用いたことも話題。スコセッシといえば非営利団体「ザ・フィルム・ファウンデーション」(TFF)を主宰し、往年の映画の修復やアーカイヴに熱心な映画人として知られるが、一方、デジタルシネマや3Dには肯定的で、映画の伝統と進化に対する柔軟なまなざしには大きな信頼が寄せられている。そんな彼が最近、マーベルのブロックバスター大作を「映画というよりテーマパーク」と批判したことも話題になった。
スコセッシは多様化する“映画の未来”をどう見つめているのか。Netflixでの発表も含め、この『アイリッシュマン』が今後の映画界の行く先を占う重要な一本になることは間違いないだろう。
Netflix映画『アイリッシュマン』
11月27日(水)独占配信開始
監督/マーティン・スコセッシ
出演/ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、アンナ・パキン、ハーヴェイ・カイテル
Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito