フィンランドは理想郷? の解【#私の土曜日16:00】 | Numero TOKYO
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フィンランドは理想郷? の解【#私の土曜日16:00】

この新連載タイトルが決まったときのちょっぴり冴えない気持ち……。なぜって、私の土曜日16:00(リアル)は、晴れても降っても雪の日でも、決まって子どもたちの習いごと送迎&見守り任務中。いつだって地味なひとときなんです! そんなわけで、週末の半端な待ち時間のおとも本の中から、最近読んだ新刊などをご紹介したいと思います。

(左から) 『ヘルシンキ 生活の練習』 著/朴 沙羅(筑摩書房) 、『フィンランド語は猫の言葉』著/稲垣美晴(角川文庫)
(左から) 『ヘルシンキ 生活の練習』 著/朴 沙羅(筑摩書房) 、『フィンランド語は猫の言葉』著/稲垣美晴(角川文庫)
まず、感銘を受けた一冊が『ヘルシンキ 生活の練習』。幼い子ども二人を連れてフィンランドに渡った社会学者、朴 沙羅さんによる現地レポートです。 理想郷のように語られる北欧だって善し悪しで、そんな中で周囲の人に助けてもらいながら毎日楽しく暮らしている──という著者の生活の“練習”の様子が、地に足のついた、ユーモアを交えながらの素敵な文章で綴られているのですが、中でもいいなと思ったのは教育現場の話。 何か問題があるときに、それが個人の才能や資質に起因するものではなくて、技術や練習量が足りないと考えられること。例えば、友だち作りの能力だって「人格」ではなくて「スキル」の問題であるという考え方に、しばしば筆者が触れていくのですが、「どんなスキルだって、練習して身につけることができる」「できないのはまだ練習している途中(おまけに一歳から死ぬまで練習できる)」という考え方には大人にとっても救いがあるなぁ〜としみじみ、刺さりました。 また、この本の中で著者は「マイケル・ムーアの映画に出てくるフィンランドのイメージそのまま」のような出来事に出くわし「そんなアホな」と驚きます。「いい学校とは、家から一番近い学校」というのもおとぎ話じゃないんです。

映画はこれですね。宿題がないってのもいいなぁ!

私たちが日々抱えている違和感や閉塞感はフィンランド(つまり、世界一幸せな国)に住めば消えてなくなるわけじゃないし、著者も決して諸手を挙げて礼賛しているわけじゃないのだけれど、やっぱり「フィンランド最高!」と声を大にして言わざるを得ないエピソードがたっぷり……。すべてのシステムは人々が幸せに生きるためにあって、「助けて」と言えば権利を享受できる(のが当たり前の)社会というのは、やっぱり理想郷では!? と思えてならないのでした。都会にあっても森や湖がすぐそばにある、平常心を保てるというのもいい……と指をくわえながら読みつつ、考え方ひとつで視界はひらけるし、声を上げるということがやっぱり大事だなという気づきがあったこともつけ加えておきます。

そして、フィンランドにちなんでもう一冊。『フィンランド語は猫の言葉』は、ネットはおろか本や辞書さえもなかった70年代に当地へ留学した稲垣美晴さんのエッセイ。数年前、文庫版になったのを機に手に取ったのですが、ズバリこれは名著です。言語に関心がある方はもとより、サウナ好きにもおすすめ。そしてもれなく超難解言語ことフィンランド語を話してみたくなるはず。簡単に旅が叶わない今こそ、遠くの日常に思いを馳せてみませんか……というわけで、今日はこのへんで。モイモイ!

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Profile

井上千穂Chiho Inoue フィーチャー・ディレクター。『Numero TOKYO』創刊時よりエディターとして主に特集を担当。2011年よりウェブマガジン「honeyee.com」「.fatale」の副編集長をつとめ、19年より出戻り現職。作り手の話を聞き、ものづくりの背景を知るとお財布の紐が緩みます。夜な夜な韓国ドラマに、休日は自然の中に逃避しがち。子連れ旅もお手のものな二児の母。

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