文人墨客が愛した旅館「おちあいろう」へ【有形文化財&リニューアル編】 | Numero TOKYO
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文人墨客が愛した旅館「おちあいろう」へ【有形文化財&リニューアル編】

先日、温泉文学のメッカである伊豆湯ヶ島を訪れました。旅の目的は昨年リニューアルしたばかりの旅館「おちあいろう」での滞在。田山花袋、島崎藤村、川端康成、梶井基次郎、若山牧水、北原白秋といった名だたる文人墨客に愛された歴史ある名宿です。

玄関も有形文化財。打ち水された玄関前の写り込みが美しい
玄関も有形文化財。打ち水された玄関前の写り込みが美しい

風情たっぷりの文化財に泊まる

1874(明治7)年創業、その長い歴史とともに歩んできた建造物のうち7棟が国登録有形文化財だという「おちあいろう」。それらの建物は昭和8年〜12年に建て替えられたもので、今回のリニューアルでは歴史ある建物の様式を生かしたまま、快適なステイを叶えるモダンな空間を備えた宿に生まれ変わっています。 館内を見渡せば文化財たる伝統的な意匠があちこちに見られるのですが、せっかくの機会なので、朝夕1回ずつ行われている館内文化財ツアーに参加し、オーナー自らのご案内で館内を巡ってみました。

左の写真の階段、天井にはなんと屋久杉が使われています。屋久杉は、木目がうずらの柄に似ているため「鶉木」と呼ばれているのだということを初めて知りました。

戦前の建物とは思えないほど天井が高くて、空間にゆとりがあるのですが、同時に精緻を極めたクラフツマンシップも随所にうかがえます。この廊下の大きな窓ガラス(右の写真)は85年間ただの一度も割れずに残っているそうです。手吹き円筒法という方法で作られた、少しゆがみがあるガラスが用いられていて(同じものは国内ではもう手に入らないのだとか)、飾りが施された窓枠などもすべて建造当時のままだと聞いて驚きました。なんでも、カンナをかけた職人の技術が相当に高かったのだそうです。木材の表面が滑らかで雨水が浸透しないので木が腐らない。つまり、天然のウォータープルーフを削り出す匠の技……すごすぎる!

そしてこちら、宴会場「紫檀の間」という大広間です。日本統治時代の台湾から運ばれたと言われている、直径60センチの紫檀を配した床の間がこの部屋のシグネチャー。柱は1階からずっと繋がっていて長さ10メートルはあるそうです。どうやって運んだのかな……。表面の模様は「腐れ彫り」と言って、腐食が進まないように傷んだ部分を彫って、あたかもそこに枝が生えていたかのように装飾しているのだとか。先人の偉業がここにも。

ちなみにこの紫檀の樹齢は、なんと推定2000年! こうして建物にまつわる貴重なお話を伺うと、悠久のときを感じながら、自然と共生してきた先人たちの営みとこれからの社会のありようを考えざるを得ません。

こちらの障子の組み細工も非常に凝ったもので、投網と駿河湾から眺めた富士山の図柄が見事でした。

さて。今回私が宿泊したのは本館1階にある「葵」というお部屋。風情ある庭を一望できるテラスや広々としたベッドルーム……最高にくつろげます。

部屋のしつらえは建造当時のまま、水回りなどはモダンに改装されています。また、空調+床暖房で部屋がとても暖かいのもありがたかったです。

さらに嬉しかったのが、種類豊富なオールインクルーシブのドリンク。クラフトビールやコーヒーミル、牛乳などさまざま備えられていて一家で大喜び。私はやんごとなき事情で原稿を執筆していたのですが、娘が挽いてくれたコーヒーを文人気分ですすり、それはそれは捗りました。

「サウナシュラン」で話題のあの人がプロデュース!

かつて天狗が湯あみに来たといういわくつきの洞窟風呂も、この旅館の名物。泉質は柔らかく、肌は「つるぴか!」という塩梅に。

そして、渓流を眺めながら休むことができる清涼感たっぷりの湯上りラウンジがこれまた素敵。子どもたちが冷たい水とみかんで一服し、夫が生ビールサーバーに狂喜乱舞している隙に、すかさず温泉もう1ラウンド、至福でした。

そしてそして、昨年のリニューアルで特筆すべき点は、ととのえ親方プロデュース(!)のサウナです。

茶室をイメージして作られたサウナは、ホットストーンを囲んで座れるようになっていて、かつ、セルフロウリュが可能です。水風呂は外にあって、サウナ室からは飛び込みたくなるし、水風呂からサウナ室を見上げるのもまたよい感じ。真冬とあって水温も低く(これ大事!)、そもそも大浴場(屋内)からサウナがある場所まで屋外を20歩ぐらい歩くので、もう条件は完璧! ととのった〜

というわけで、後編に続きます……。

おちあいろう
住所/静岡県伊豆市湯ヶ島1887-1
Tel/0558-85-0014
URL/https://www.ochiairo.co.jp/

Profile

井上千穂Chiho Inoue フィーチャー・ディレクター。『Numero TOKYO』創刊時よりエディターとして主に特集を担当。2011年よりウェブマガジン「honeyee.com」「.fatale」の副編集長をつとめ、19年より出戻り現職。作り手の話を聞き、ものづくりの背景を知るとお財布の紐が緩みます。夜な夜な韓国ドラマに、休日は自然の中に逃避しがち。子連れ旅もお手のものな二児の母。

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