Kōki,と巡る、5月のバラとシャネル Nº5と Vol.1
Rose de Mai(ローズ ドゥ メ)の収穫が行われる5月の中旬。私たちはシャネル ビューティ アンバサダーのKōki,さんと一緒に南仏・グラースを訪れました。南仏の太陽の光を浴びて可憐に咲くピンクのバラは、Nº5になくてはならない花。5月のバラとNº5が織りなす物語をKōki,さんと辿ってみます。
香水の街、グラースで育つ5月のバラは、なぜ特別?
ここで、シャネルとグラースのお話を。「女性そのものを感じさせる、女性のための香りを創ってほしい」と、マドモアゼル シャネルが初代専属調香師エルネスト ポーに依頼し、彼女の願いを叶えるためにエルネスト ポーが選んだ原料が、グラースのジャスミンとローズ ドゥ メでした。Nº5が誕生した1921年以来ずっと約1世紀にわたって、このグラース産のバラとジャスミンはシャネル N°5のフレグランスに用いられ続け、現在ではジャスミン、ローズ ドゥ メ、ゼラニウム、アイリス、チュベローズの5つの花がグラースにあるシャネル専属の花畑で栽培されているのです。
Kōki,さんの隣にいらっしゃるのは、グラース最大の花の栽培農家であるミュル家5代目 ジョゼフ ミュルさん。1987年、3代目専属調香師ジャック ポルジュがNº5の香り、そのコンポジションを守るためにミュル家と特別なパートナーシップを結び、畑からボトルまで…香水が生まれるすべてのプロセスを徹底して管理することを可能にしました。
「それぞれの花には季節がある」とは、ミュルさんの言葉。彼はまだ花がつぼみになる前の早春にはすでに、5月に収穫するバラが豊作となるかどうかがわかるんだそう! ミュルさんはKōki,さんに「バラを摘んでごらん」と、摘みとり方を教え、手のひらで花をクシュッと握ったときのバラの香りを嗅いでほしいと言いました。「はちみつみたいに甘く、ちょっぴりスパイシーでしょ」(ジョゼフ ミュルさん)。
1年に一度この時期にしか咲かない稀少なバラは、朝の7〜9時ごろに開花。花が咲くこの時間に、開花したての濃いピンク色をした新鮮なバラをひとつずつ丁寧に手で摘み取り、大きなバスケットに集めます。できる限り早く蒸留する必要があるため、畑の敷地内にある抽出工場へすぐに運ばれるのです。
「できるだけ、花にストレスをかけないように育てています。いまオーガニックの育成に移行中で、オーガニックの肥料しか与えていません。でもローズ ドゥ メは、ある一つのカビに対応できないため、すべてをオーガニックでコントロールすることがまだ難しいのです。ジャスミン、チュベローズ、アイリスは、もうすでに100%オーガニックで栽培しています」(ジョゼフ ミュルさん)
この広大な畑で育てられているバラは、すべてNº5のためだけに――。ミュル家による行き届いた手入れと厳格な管理、そして植物への深い愛情によって生まれたバラという原料だからこそ、Nº5のボトルのなかでもその生命をいまだ宿しているかのように、生きた上質な香りのエッセンスとなることができるのです。
5月のバラからシャネル Nº5ができるまで
麻袋に集められた花はすみやかに近くの抽出工場へと運ばれ、しおれてしまう前に計量が行われた後、抽出器の5枚の穴開きトレイにのせられます。
1つの抽出器には250kgもの花が入り、摘み立てのグリーンな芳香が混ざったリッチでまろやかなローズの甘い香りがフワッと放たれます。
「ぜひ、中に入ってみて!」と抽出工場の方の提案を受けて、Kōki,さんは抽出器のなかへ。「わぁ! 驚くほどにフレッシュで、こんなに芳醇なバラの香りを嗅いだのは生まれて初めて。うっとりしてしまう甘さがありますね」(Kōki,さん)
収穫されたバラは、溶剤の入った水槽に3回浸され、やさしく撹拌されます。溶剤の温度が上がり温まって蒸発し、溶剤が花の芳香成分を吸収して、コンクリートができます。
コンクリートとは、溶剤を用いて花を抽出した後に得られるワックス状の物質(写真の褐色の個体)。このコンクリートは宝物のように大切に保管されるそう。なぜなら、1kgのコンクリートを得るために、400kgものバラの花が必要とされるから。このコンクリートがあるからこそ、たとえ天災や気候変動などによってバラの収穫が難しいときでも、同じクオリティのNº5をつくことができるんです。まさに宝物ですね!
Photos : Chanel Edit & Text : Hisako Yamazaki