編集部が選ぶ今月の一冊|島本理生著『天使は見えないから、描かない』 | Numero TOKYO
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編集部が選ぶ今月の一冊|島本理生著『天使は見えないから、描かない』

あまたある新刊本の中からヌメロ・トウキョウがとっておきをご紹介。今月は島本理生の新刊をお届け。

『天使は見えないから、描かない』

 著者/島本理生

価格/¥1,870 発行/新潮社

許されない関係の果てで気づく、愛のかたち

2018年に『ファーストラヴ』で直木賞を受賞した島本理生の、2年ぶりとなる長編小説。3つの章で構成された本作は、18歳年上の叔父と社会的には許されない関係で結ばれた弁護士の永遠子の視点で描かれる。

9歳の帰省時に父親から理不尽な暴力をふるわれた際、唯一自分をかばってくれた実の叔父である遼一に対して恋心を抱いた永遠子。33歳となり、結婚して3年目となるパートナーがいる現在も、永遠子は誰にも打ち明けられない遼一への想いを抱きつづけていた。

初夏、仕事中にけがを負った遼一の相談を弁護士として受けるために、彼が暮らす千葉と茨城の県境にある自宅へと通いはじめる永遠子。パートナーとの価値観の不一致に悩まされていた彼女は、ふとした瞬間に遼一への気持ちがあふれてしまい、間違えることを選択する……。

物語の軸となるのは永遠子と遼一との関係性だが、もう一人の主要人物となるのが、永遠子が高校時代にバイト先で知り合った友人の萌だ。二児の母となった現在も頻繁に顔を合わせ、鋭い観察眼で「だって永遠子の恋愛って、ずっと、たしなみみたいだったから」と永遠子の本質を見抜く萌。無二の友と思われた萌だったが、遼一との関係を永遠子に聞かされてからは、ふたりのつながりにも変化が生じてしまう。

叔父と姪との許されぬ恋愛の行方と並行して描かれる、永遠子と萌のシスターフッドともいえる友情のかたちにも心を惹かれる本作。物語のラストでもたらされる圧倒的な多幸感に、ぜひ酔いしれてほしい。

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Text:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito

Profile

林 みき Miki Hayashi ライター。女性向けファッション&カルチャー誌の創刊と編集に7年間携わった後、フリーランスに。2008年より『ヌメロ・トウキョウ』本誌・公式サイトでの新刊レビューおよび文芸記事を担当。最近ではブックカフェの店員としても活動中。

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