Numero TOKYO おすすめの2020年4月の本 | Numero TOKYO
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Numero TOKYO おすすめの2020年4月の本

あまたある新刊本の中からヌメロ・トウキョウがとっておきの3冊をご紹介。

『ピエタとトランジ〈完全版〉』

著者/藤野可織
本体価格/¥1,650
発行/講談社

家父長制をも崩壊させる、最強の女子バディ探偵譚

地方都市の高校に転校してきた、天才的な頭脳を持つトランジ。一介の女子高生だったピエタの生活は、周囲で事件を多発させてしまうトランジの特異体質によって一変するが、トランジが持つ名探偵としての才能に惚れ込み、助手として共に行動するようになる。

短編集『おはなしして子ちゃん』に収録されたふたりの出会いと最初の事件を描いた「ピエタとトランジ」を起点に、全13章で構成された長編作品へと生まれ変わった本書。トランジの事件誘発体質によって変容していく世界の中で、さまざまな事件を解決しながら深まるふたりの関係性をクロニクル形式で描いた物語は、章を追うごとにミステリ作品の枠におさまらない弩級の展開を見せるので目が離せなくなること必至。

何事にも縛られず、世界を自由に飛び回るコンビが繰り広げる約60年にわたる痛快な冒険譚は、閉塞した社会状況に疲弊しきった心に清々しい風と活力を吹き込んでくれる。

『ザリガニの鳴くところ』

著者/ディーリア・オーエンズ
訳/友廣純
本体価格/¥1,900
発行/早川書房

自然美が問いかける「人間らしさとは何か?」

動物学者として執筆したノンフィクション作品で知られる著者。彼女が69歳にして上梓したデビュー小説であり、昨年アメリカでベストセラーとなった本作は、1969年に米国ノースカロライナ州の湿地で村の青年の死体が発見されるプロローグで幕をあける。

謎めいた死を巡る捜査と並行して描かれるのが、村人たちに疑惑の目を向けられた「湿地の娘」と呼ばれるカイアの物語だ。事件の17年前、当時6歳だったカイアの家族は父親による暴力をきっかけに離散し、兄姉にも両親にも見捨てられた彼女は湿地の奥地で独りで生きることを余儀なくされる。「貧乏人(トラッシュ)」と蔑んでくる村人たちと距離を置き、学校へ通うこともなく、捕まえた魚介を売って糊口を凌ぐカイア。湿地の自然を愛好する聡明な少年との出会いにより、孤独な日々に希望の光が差し込みはじめるが……。

クライムサスペンスでもあり、家庭内暴力や格差など現代社会にも通じる苦しみを抱えた一人の女性の物語でもある本書。作中に数々登場する野生動物たちの描写が投げかける、動物と人間を区別するものは何かという問いを受け止めながら、カイアの行く末を見守ってほしい。

『彼女の体とその他の断片』

著者/カルメン・マリア・マチャド
訳/小澤英実、小澤身和子、岸本佐知子、松田青子
本体価格/¥2,400
発行/エトセトラブックス

女性の“痛み”を記憶する、肉体のような物語

女性の体が幽霊のように透きとおる奇病が蔓延した社会を舞台にした「本物の女には体がある」、過去に行ったセックスの一覧に致死性の感染病に冒された人類の終末を現出させる「リスト」など、さまざまな環境に置かれた女性たちを物語るカルメン・マリア・マチャドの初邦訳作品となる短編集。

収録された8編すべてが研ぎ澄まされた純度の高い言葉で綴られているが、作品ごとにトーンや文体を変幻自在させる著者の筆力に圧倒される——そして全米批評家協会賞など9つの文学賞を受賞しただけでなく、全米図書賞からローカス賞まで傾向が異なる賞の最終候補にもなったことに納得する——人も少なからずいるはずだ。また現代のフェミニズム文学を語る上で欠かせない4名が翻訳を手がけていることも魅力の一つだ。

男性主義社会の中であたかも存在しないかのように扱われ、時の流れとともに忘れ去られてしまう可能性すらある女性の体の“痛み”を物語として“定着”させる本書は、文学の意義や可能性をも感じさせてくれる。

ヌメロ・トウキョウおすすめのブックリスト

Text:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito

Magazine

JANUARY / FEBRUARY 2025 N°183

2024.11.28 発売

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