Numero TOKYO おすすめの2020年3月の本 | Numero TOKYO
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Numero TOKYO おすすめの2020年3月の本

あまたある新刊本の中からヌメロ・トウキョウがとっておきの3冊をご紹介。

『友だち』

著者/シーグリッド・ヌーネス
訳/村松潔
本体価格/¥2,000
発行/新潮社

悲しみのなかで寄り添い合う、ふたつの孤独

かつての恩師であり、心を許せる間柄だった男友だちの自死により喪失感にとらわれている作家の「わたし」。悲しみにくれるなか、彼が遺したグレートデンを未亡人となった「妻3」に半ば押し付けられ、孤独を抱えたひとりと一匹の共同生活が始まる。

関節炎を患い、余命あと数年と推測される物静かな大型犬と心をゆっくりと通わしていく様子とともに綴られるのが、「わたし」による人生や文学などをめぐる深い考察だ。感動的な犬との物語を期待して本書を手に取った人は肩透かしを食うかもしれないが、物言わぬ存在と過ごす静穏な日々の中で繰り返し行われる思索は、人生の黄昏にいるからこそ抱ける想いを曇りなく描き出している。死という現象が落とす影に一筋のやわらかな光を射し込む、慈しみに満ちた全米図書賞受賞作。

『フライデー・ブラック』

著者/ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー
訳/押野素子
本体価格/¥2,200
発行/駒草出版

シャープな筆致で不条理に抗う、気鋭の新人が放つ衝撃作

2018年に登場した新人作家にも関わらず、ロクサーヌ・ゲイや『地下鉄道』のコルソン・ホワイトヘッドらが称賛を送り、現代アメリカ文学界のスターダムにのし上がった著者のデビュー短編集となる本書。ブラック・フライデーのセール品に群がる客をゾンビとして描き、消費経済に潜む野蛮性を表出させた表題作、遺伝子操作が普及した世界での差別に苦しむ少年を主人公とした「旧時代〈ジ・エラ〉」など、収録された12編には“正義”という大義名分のもと振るわれる暴力への問いが通奏低音として潜んでいる。

出自や身体的な相違から生まれる差別、“弱者”に“強者”のルールを強いることの暴力性など、日常に潜在する不条理をあぶり出すシャープかつダークな筆致は、快感すらもたらしてくれる。洗練された知性と言葉が、社会の歪みに抗う有力な武器となることを実証する、いま注目すべき作品。

『荒潮』

著者/陳楸帆(チェン・チウファン)
訳/中原尚哉
本体価格/¥1,800
発行/早川書房

中国SFの新星が描く、科幻スペクタクル長編

世界各国から集まる電子ゴミのリサイクル業が中心産業となっている中国南東部のシリコン島。島のゴミの山で生活をしながら廃材から資源を探し出す「ゴミ人」と蔑視される最下層民の少女・米米は、謎の廃材で傷を負ってしまう。そして環境再生計画の調査のため島を訪れた経営コンサルタントのブランドルと通訳の陳開宗との出会いをきっかけに、島の権力を握る御三家を巻き込みながら、米米の運命は予期せぬ形で狂いはじめる。

“中国のウィリアム・ギブソン”の異名を持つ陳楸帆(英名スタンリー・チェン)のデビュー長編として2013年に発表された本作。近未来を舞台とした疾走感あふれるサイバーパンク作品ではあるが、深刻な環境破壊や汚染されたゴミがもたらす変異など、描かれた内容はそう遠くない未来を予見しているようにも思える。昨年、大きな話題を呼んだ『三体』の著者・劉慈欣をして「近未来SF小説の頂点」といわしめた中国SF界における新星の才能を堪能できる一冊。

ヌメロ・トウキョウおすすめのブックリスト

Text:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito

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JANUARY / FEBRUARY 2025 N°183

2024.11.28 発売

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