Numero TOKYO おすすめ 年末年始に読みたい本
あまたある新刊本の中からヌメロ・トウキョウがとっておきの3冊をご紹介。
『サブリナ』
著者/ニック・ドルナソ
訳/藤井光
本体価格/¥3,600
発行/早川書房
現代社会の不穏な空気を浮き彫りにする話題作
世界的に権威のあるブッカー賞に、グラフィックノベルとして初めてノミネートされたことでも話題となった本書。物語の発端となるのはシカゴに暮らしていた、ある女性の失踪事件。ある映像がメディア各社に送られたのを機に、事件はセンセーショナルな話題として扱われ、インターネット上では憶測や陰謀論が飛び交い始める。
作中では事件がもたらす波紋を3人の人物を通して描き出すが、あらゆる事柄は客体的に表現され、3人の本心も言語化されない。しかし、この主観を排した表現方法によって日常に潜む不穏さの解像度が高められ、恐ろしいほどクリアに現代社会の様相を映し出す作品となっている。決して万人向けとは言えないが、もしソーシャルメディアの現状に違和感を覚えているのであれば、いま確実に読むべき一冊。
『夜 は お し ま い』
著者/島本理生
本体価格/¥1,400
発行/講談社
孤独な長い夜を生き抜く、4人の女たちの物語
ミスコンでつけられた価値に傷つく大学生、愛人として男性の間を渡り歩くコンパニオン、夫以外の相手との関係を断ち切れない作家、本当に愛する人とは結ばれないカウンセラー。世代も立場も異なる4人が秘密を抱えた神父との交流を通し、自らを束縛する闇と向かい合う物語を描いた連作小説。登場人物たちが心の傷と罪悪感に直面する描写は生々しい痛みもはらんでいるが、女性であれば絶対に無縁とは言い切れない痛みだからこそ、深く心に響いてくる。
著者の直木賞受賞作であり、ドラマと映画での映像化が決定した『ファーストラヴ』の前に執筆されたという本書。物語や読後感は異なるものの根底に流れるものは通じている上、姉妹のようにリンクする部分もある。いずれかの作品を読んで心が動いたならば、ぜひ併読することをおすすめしたい。
『オーバーストーリー』
著者/リチャード・パワーズ
訳/木原善彦
本体価格/¥4,300
発行/新潮社
原始林を救う戦いを壮大なスケールで描いた傑作巨編
『幸福の遺伝子』『オルフェオ』など、科学的な題材を扱いながらも文学性の高い作品を発表しつづけてきたリチャード・パワーズ。本作では20世紀後半に米国で起きた環境保護運動をモチーフに、地球環境と人間の営みを描く壮大な物語を紡ぎ出している。
登場人物となるのはルーツも性質も全く異なる9人の男女。それぞれ樹木にまつわる思い出があること以外は共通点のない彼らが、アメリカ最後の原始林の巨木に“召喚”され、予期せぬ形で繋がっていく。環境保護がテーマと聞き、小難しい内容をイメージする人もいるかもしれない。しかし登場人物たちの関係性と共に、舞台がアメリカ全土へと拡大していく物語には冒険ファンタジーのような魅力もあり、ひたすら展開から目が離せなくなる。自然や世界の捉え方に新たな視点と気づきを与えてくれる、2019年度ピュリッツァー賞受賞作品。
Numero TOKYOおすすめブックガイド
Text:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito