Numero TOKYO おすすめの8月の本 | Numero TOKYO
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Numero TOKYO おすすめの2019年8月の本

あまたある新刊本の中からヌメロ・トウキョウがとっておきの3冊をご紹介。

『それでもデミアンは一人なのか? Still Does Demian Have Only One Brain?』

著者/森博嗣 本体価格/¥720 発行/講談社

知性を持つ兵器との値遇が引き起こす新たな謎

楽器職人としてドイツに暮らすグアトの前に現れ、あるロボットを探していると語る謎の男。人工細胞で作られた生命体「ウォーカロン」の、軍事用に開発された特殊タイプであった男の来訪と、彼を追う情報局の登場によりグアトの平穏な日々は一変する。 科学技術の発展により寿命が圧倒的に延びながらも子孫を残せなくなった人類と、人間と同じ肉体を持つウォーカロン。彼らが共存する未来を舞台に、知性と生命を巡る物語を描いた連作小説『Wシリーズ』に続く『WWシリーズ』の初巻となる本書。実空間に生きる人工生命体、電子空間に存在する人工知能、衰退する人類の三者が紡ぐ物語は、新たなミステリィを描きながら、さらなる未来を予見する。

『神前酔狂宴』

著者/古谷田奈月
本体価格/¥1,600
発行/河出書房新社

壮大な茶番を裏舞台から切り裂く披露宴狂騒曲

高い時給につられ、明治時代の軍神を祀る神社に併設された披露宴会場で働き始めるシナリオスクール学生の浜野。婚儀の非日常性に滑稽さを感じていたものの、虚飾の限りを尽くすことが披露宴の本質だと確信したことを境に彼の日常が輝きだす。
派遣スタッフとして一線を引き、披露宴の職場を個人的な創作への活力を得られる遊びの場として捉えていた浜野だが、縁のある神社から神道系学生の倉地が出張奉仕するようになり、予期せぬ変化が生じていく。披露宴に捧げた16年の月日を通して婚姻や家族、組織と社会が隠し持ついびつさと、何かを信じるという行為に心を囚われた人々が併せ持つ真摯さと滑稽さを喜劇的に描き出す、抱腹絶倒の披露宴狂騒曲。

『三体』

著者/劉慈欣(りゅう・じきん/リウ・ツーシン)
監修/立原透耶
訳/大森望、光吉さくら、ワン・チャイ
本体価格/¥1,900
発行/早川書房

各国で激賞される華文SFの傑作、待望の邦訳

1967年、文化大革命で物理学者の父を惨殺される科学者の葉文潔。絶望の中、彼女自身も反革命罪に問われるも専門知識を求められ、軍による機密の研究に携わる。四十数年後、物理学者たちが次々と自殺する異常事態が発生。捜査協力を求められたナノテク素材研究者の身には科学的にありえない怪現象がおきはじめる。
英訳版がアジア圏かつ翻訳作品として初のヒューゴー賞を受賞し、華文SF界の円熟を世界に知らしめた『三体』。異星文明との壮大な物語を描く三部作の初巻にして驚天動地の展開をみせる本書は、ぜひ上記以上の予備知識なしで読んでほしい。膨大な知識と文学性、驚異的な伏線の張られ方に圧倒させられる、現代中国最大の衝撃作。

Text: Miki Hayashi Edit: Sayaka Ito

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MAY 2024 N°176

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