世界的ファッション・フォトグラファー、Satoshi Saikusaさんの訃報を受けて……
Numero TOKYOを代表して、友人を代表して、誌面でも広告の仕事でも何度もご一緒させていただきましたモード界の朋友として、世界的ファッション・フォトグラファーであり大先輩のSatoshi Saikusaさんについての追悼記事を書かせていただきます。思いのままに綴っておりますので、判りづらい箇所があるかもしれませんが、ご容赦くださいませ。
何度も話し合い、練り直し、美を追求するエネルギーは人一倍強い人
Numero TOKYOの誌面でも私がスタイリングをするリアルモードを、Satoshiさん来日時に撮り下ろしてもらっていました。テーマを伝えて、一緒に女性像を作り上げていく。ときに厳しく、ときに力強くクリエイションを生み出す人でした。 2020年7−8月 Time is Precious号 Photos:Satoshi Saikusa
Fashion Direction:Ako Tanaka Hair:Taku Makeup:Kouta Edit:Midori Oiwa, Shiori Kajiyama(以下、中ページ同じスタッフで)
2017年3月号 Happy-Holic号 Photos:Satoshi Saikusa Fashion Direction:Ako Tanaka Hair:Kenichi Makeup:Yusuke Saeki Edit:Yukino Takakura, Nozomi Urushibara
撮影の際には、気になる場所や納得がいかないディテールがあれば何度も何度もやりなおし、とにかくベストが生まれるまでこだわっていらっしゃいました。神は細部に宿るって、Satoshiさんのクリエイションそのものだな、と感じながらご一緒したのを覚えています。この時も、みんなで何度もお花を集めては散らして集めては散らしてを繰り返しました。
2016年4月号 Romantic号 Photos:Satoshi Saikusa Fashion Direction:Ako Tanaka Hair:Kenichi Makeup:Yusuke Saeki Edit:Yukino Takakura, Nozomi Urushibara
この撮影では、メイクの色具合やアイラインの形、ヘアスタイルとのバランスをヘアメイクチームと話し合ってはやり直す、というのを繰り返していました。今から見ても、完璧なバランスで仕上がっていますね。この執拗なまでの美への執着。それがSatoshiさんの美意識の根幹でした。
Satoshiさんにお声がかかる広告の仕事で、被写体が女性ならば女性のスタイリストがいいのでは?と、スタイリングのお仕事のお声がけをいただいていました。
今年の夏、ある広告撮影のスタイリングをあこちゃんにお願いしたい、とSatoshiさんから推薦していただき、ご一緒することが決まったのが2021年8月の半ばごろ。そこからパリと東京を繋いでのオンライン会議を数回行い、9月30日がその撮影の当日でした。
8月に行われたオンライン会議で、モニターに映るSatoshiさんは、フランスのホリディ時間を満喫されているような背景で渇いた太陽の下、庭園が広がる素敵な空間で風を受けながらのひとときでした。こちらは蛍光灯の下だったので、あ〜、やっぱり優雅な人だな〜と感銘を受けたのですが、そのSatoshiさんが、最後のSatoshiさんの姿でした。
いつも細長い指先できゅきゅっと作る小さな巻きタバコを吸いながら、オシャレに首元をスカーフで巻いていましたよね。実は寒がりだったということをあとで知りほっこりしました。紳士でエレガントで、フランス俳優を彷彿とさせる出立ちで、モードに携わった人なら誰もが憧れ追いかけた日本を代表するフォトグラファーでした。
私の女性像の礎となった、Satoshiさん撮影のフレンチVOGUEの誌面
パリシックを体現しながら、ご自身の作品でもフレンチシックやフレンチカジュアルを表現されていて、私はSatoshiさんの撮り下ろしてきたた1990年代のフレンチVOGUEが大好きでした。
このあたりの号は今でも大切に保管しておりますし、1995年のフレンチVOGUE759号の表紙は以降、私自身のクリエイションの、女性像の根幹ともなりました。この女性像に近づきたい、このエレガンスを理解したい。Satoshiさんの切り撮る女性像をずっと追いかけていました。
常に、最高のショットを生み出してくださったSatoshiさん
そんなSatoshiさんとパリの街角でお茶したりご飯を食べたり、プライベートでも仲良くさせていただいたのは、2000年の初めごろだったように記憶しています。
Satoshiさんは想像以上にオープンで、お茶したりショウ会場で軽口を言い合える関係になり、パリにあるSatoshiさんのギャラリー「Da End」には、訪仏のたびに足を運びました。なんといってもオシャレでかっこいいギャラリーでしたから。
東京は六本木の喫茶店で、Numero TOKYOの誌面作りについて話し合い、次にはパリのSatoshiさんチームで誌面を作ってもらうことになり、国際電話の打ち合わせも重ねたりして・・・作品を残すという意味合いにおいて、Satoshiさんは妥協はしないまでも、柔軟に対応もしてくださいました。
以下の写真は、パリにいるSatoshiさんと携帯でやりとりをしながら、フランス側のSatoshiさんのスタッフで撮影をしてもらったストーリーです。
2020年6月号 Stay Positive号 Photos:Satoshi Saikusa Stylist:Samuel Francois Hair:Akemi Kishida Makeup:Lloyd Simmonds Model:Clara Deshayes Edit:Midori Oiwa
クリエイティブを追求しながらも常に、あこちゃんはどうしたいの? あこちゃんの思う女性像はどうなの? と私の想像するイメージや女性像、写真の方向性について耳を傾け、その上で最高のカードを切り撮ってくれるプロ中のプロでした。偉大なフォトグラファーなので、とっても安心して、任せながら(というか任せっきりで!)一緒に仕事をしてきましたよね。
Satoshiさんとお茶をしては、最近どんな感じなのか。日本はどう? パリはどう? 家族は? 娘は? なんていろんな話をしながら一緒に時間を過ごしました。Satoshiさんは決まって、エスプレッソコーヒーにお砂糖を入れて、巻きタバコを吸っていましたよね。
ある撮影の最中に何か不具合がおきた際、「ボ〜っと生きてんじゃね〜よ〜!!」って笑いながらこの言葉を発し「“チコちゃんに叱られる!”が大好きだから帰国したら必ず見てるんだよ」って笑いながら撮影現場を和ませてくれました。
9月中旬ごろに帰国をされ、そこから隔離期間を京都の友人宅で過ごされていました。9月29日には東京へ移動し、翌30日が撮影という流れの中、29日の午後あたりに、「Satoshiさんの体調が悪く、別のフォトグラファーさんが急遽入られることになりました」と製作会社より連絡をうけました。なんだか変だな。体調を壊されたことなんて今まで一度もなかったのにな。もしかしたら昨今の状況下だからコロナで陽性反応とかでちゃったのかな? いろいろ想像しながら30日を迎えました。
30日当日、撮影現場でSatoshiさんのマネージャーさんから「実は……」と27日深夜から28日未明にかけて、Satoshiさんが急逝されていたという訃報を聞き、あまりにもショックで言葉を失ってしまいました。
Satoshiさんの最期について
亡くなる前日の話を、Satoshiさんの友人の娘さんから伺いました。
隔離期間が終了した日、一緒にお茶をしながら白髪の話をしたり、翌々日に東京へ持ち帰るお土産屋さんの話で盛り上がったりしたそうです。その時の喫茶店でのお写真も見せてもらいましたが、いつものかっこいいSatoshiさんが映っていました。
きわめていつもと同じ時間を過ごし、おやすみなさい、明日は京都最終日だからお寿司でも行きましょうね! と別れを告げて……。誰も想像し難い出来事が起きたのは、その後だったようです。ご友人宅で、ひとりで過ごしていたSatoshiさんの胸に痛みが襲ったようです。
それが永遠のさようならになるなんて……とその娘さんは言葉を詰まらせていらっしゃいました。誰もが知りたいと思っているSatoshiさんの最後を、お話しくださってとても感謝しています。
Satoshiさんがいなくなっちゃうと、Satoshiさんと作ってきた力強いビジュアルをもう2度と生み出せないのかなって、寂しい思いです。
世界に名を馳せる、日本代表の偉大なるフォトグラファー、Satoshi Saikusa。Satoshiさんの功績はこれからもずっと語り継がれるのだと思います。
残してしまったご家族を想い胸を痛めていらっしゃるかと思います。仕上げられなかった数々の仕事に無念な思いがあるかと思います。でもSatoshiさん、どうか、安らかにお眠りください。そして、その才能を持って生まれ変わり、次世代のファッションフォトの最前線を切り開いていってください。来世でも、Satoshiさんのクリエイションに出合えますように。ありがとうございました!!!!
上記を書いたまま、下書きに保存したまま仕上げられずにおりました。が意を決して、追記とともに仕上げることにします。
Satoshiさんは日課とされていた瞑想中に、坐禅を組んだ状態で息を引き取られていたそうです。日本文化や寺社仏閣、禅的思考を大切にしていたSatoshiさんらしい最後の姿だったようにも思います。でも、もっと一緒にクリエイションがしたかったです。Satoshiさん、安らかにお眠りください。ありがとうございました。
Numero TOKYO 153号(2022年1・2月合併号/11月28日発売)の誌面でも、Satoshiさんの追悼企画を進めております。ぜひ、そちらも手にとってみていていただき、Satoshiさんの功績をみなさまの記憶にも留めていただければと考えております。(1・2月合併号のamazonでの予約はこちらから)
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