「神戸建築祭2026」で訪れたい名建築。ヴォーリズから近代建築まで | Numero TOKYO
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「神戸建築祭2026」で訪れたい名建築。ヴォーリズから近代建築まで

港町・神戸には、開港以来の歴史を物語る近代建築が今も数多く残されています。その魅力を伝えるイベントとして2023年に始まったのが「神戸モダン建築祭」。2025年からは「神戸建築祭」と名称を改め、震災の記憶を受け継ぐ建物や土木遺産、現代建築まで、神戸ならではの多彩な建築を紹介する祭典へと進化しました。

前編では、プレスツアーで巡った神戸の近代建築をご紹介いたしました。後編では、2026年5月8日から10日に開催される「神戸建築祭2026」でぜひ訪れてみたい建築をピックアップ。ヴォーリズ建築の名キャンパスとして知られる関西学院大学と神戸女学院をはじめ、神戸を代表する名建築をご紹介いたします。

ヴォーリズが描いた“日本で最も美しいキャンパスの一つ”——関西学院大学(ガイドツアー対象)

西宮の丘陵地に広がる関西学院大学の西宮上ヶ原キャンパスは、1929年に完成したアメリカ人建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズによる代表的な大学建築です。もともと神戸の中心部にあった関西学院は、都市の発展とともに手狭になり、新たな学びの場として郊外への移転が計画されました。その背景には、阪急電鉄を創設した実業家・小林一三による沿線開発の構想があり、1921年に開通した阪急今津線とともに、この地は新しい文化拠点として整備されていきます。

キャンパスの建築様式は、当時アメリカで流行していたスパニッシュ様式。白い壁と赤い瓦屋根、アーチを多用した建物群は、スペインの修道院を彷彿とさせる穏やかな美しさを湛えています。キャンパス中央には広大な芝生広場が広がり、その正面に時計台を備えた図書館が配置されるという、アメリカ型キャンパスの象徴的な構成も特徴です。

近江八幡を拠点に1500以上の建築を手がけたヴォーリズは、建物の用途に合わせて様式を柔軟に変える建築家として知られていますが、この関西学院大学 西宮上ヶ原キャンパスは、彼の理想が最も美しく結晶した作品の一つといえるでしょう。整然と並ぶ建築群と六甲の自然が調和するこの風景は、日本の大学建築の中でも特に完成度の高いキャンパスとして高く評価されています。

DATA
住所|兵庫県西宮市岡田山4-1
竣工|1933(昭和8)年
設計|ウィリアム・メレル・ヴォーリズ
施工|竹中工務店
URL|https://www.kobe-c.ac.jp

ヴォーリズ建築の魅力を語るなら、もう一つ欠かすことのできない場所があります。それが神戸女学院です。関西学院大学と並び、日本に残るヴォーリズ建築の中でも特に高く評価されているキャンパスとして知られています。

ヴォーリズ建築の理想が息づくキャンパス——神戸女学院 岡田山キャンパス(クラウドファンディング限定のスペシャルツアー)

西宮・岡田山の斜面に広がる神戸女学院の岡田山キャンパスは、1930年代に整備されたウィリアム・メレル・ヴォーリズによる代表的な建築群です。2014年には、主要な校舎群が国の重要文化財に指定され、近代日本の大学建築を語るうえでも欠かせない存在となっています。

なかでも象徴的な建物が、1932年に完成したチャペル。スパニッシュ様式を基調としながら、ヨーロッパ中世のロマネスク建築を思わせる重厚な半円アーチが特徴です。円柱の柱頭には、生命力の強い植物アカンサスをモチーフにした装飾が施され、伝統的な様式の中に新しい意匠を取り入れるヴォーリズらしい設計を見ることができます。建物は鉄筋コンクリート造ですが、モルタル仕上げによって石造建築のような重厚感を与えつつ、装飾を抑えた壁面には軽やかなモダンさも感じられます。

チャペルの見どころの一つが、正面外壁に用いられている色彩豊かな泰山タイル。陶芸家・池田泰山による手仕事のタイルは、焼成温度によって赤や紫、青など微妙に色合いが異なり、建物に独特の表情を与えています。

一方、キャンパスの建物群の外壁には、192030年代に流行したスクラッチタイルが用いられています。フランク・ロイド・ライト設計の旧帝国ホテルの影響も受けたとされるこのタイルは、ざらりとした手仕事のような質感と焼きムラによって、レンガのような温かみを持ちながら、軽やかな印象を生み出しています。また、瓦屋根にも釉薬の色ムラをあえて残した瓦が使われ、建築全体に自然な表情を与えています。

キャンパスは中庭を囲むロの字型の配置で計画され、回廊によって各建物が連続する構成となっています。中庭を中心に学びの場が広がるこの空間構成は、アメリカの大学キャンパス計画にも通じるもの。特にトーマス・ジェファーソンが設計したバージニア大学のキャンパス計画とも共通する思想が見られます。六甲山麓の豊かな自然と調和しながら、建築と教育環境が一体となった美しい学びの風景をつくり出しています。神戸女学院の岡田山キャンパスは、教育の理念そのものを建築として形にした、ヴォーリズ建築の代表作の一つといえるでしょう。

DATA
住所|兵庫県西宮市岡田山4-1
竣工|1933(昭和8)年
設計|ウィリアム・メレル・ヴォーリズ
施工|竹中工務店
URL|https://www.kobe-c.ac.jp

港町として異国の文化を受け入れてきた神戸には、開港以来の歴史を物語る建築が今も数多く残っています。近代建築からモダニズム建築、大学キャンパスや土木遺産まで、多彩な建築が街のあちこちに点在しているのも、この街の大きな魅力。ここからは、「神戸建築祭 2026」で公開・紹介される建築の中から、ぜひ訪れてみたい見どころをピックアップしてご紹介します。

神戸北野ノスタ(連携企画・特別イベント)

1931年に建てられた旧北野小学校の校舎を活用した複合施設。白い外壁と青い窓枠が印象的な昭和初期の校舎は、神戸の山手の景観に溶け込む穏やかな佇まいを見せています。現在はカフェやレストランが集まるグルメ施設として生まれ変わり、地域の食文化を発信する場に。建築祭では、かつて体育館だった講堂で神戸の街をレゴで再現した展示なども予定されており、建築と街の文化を同時に楽しめるスポットです。

DATA
住所|兵庫県神戸市中央区中山手通3-17-1
竣工|1931(昭和6)年
設計・施工|不詳
URL|https://kobekitano-nosta.jp
※[無料開放イベント]パスポートをお持ちでない方でも気軽にお立ち寄りいただけます。

 

帝国信栄本社ビル(パスポート公開)

三宮駅北側の市街地に建つ昭和初期の商業ビルで、建築家・清水栄二による設計。コンパクトな建物ながら、正面にはクラシカルな装飾が施され、近代建築の中に古典様式の意匠が巧みに取り入れられています。外観の円柱の柱頭には装飾が省略され、古典建築をモダンに解釈したデザインに。また、幾何学や直線を駆使したセセッションの装飾にも注目を。神戸の都市形成期を伝える、貴重な近代建築の一つです。

DATA
住所|兵庫県神戸市中央区琴ノ緒町5-4-1
竣工|昭和初期
設計・施工|清水栄二
URL|https://www.teikokushinei.co.jp
※国登録有形文化財

 

こども本の森 神戸(パスポート公開)

かつて神戸で都市計画を学んだ建築家・安藤忠雄の寄附によって誕生した子どもの文化施設。打放しコンクリートによる静謐で力強い建築は、安藤建築らしい美しさを体現しています。内部には天井まで届く本棚が並び、子どもたちが自由に本と出合える空間が広がります。今回の建築祭では、夜間公開に加え、“安藤忠雄”をテーマにした特別トークイベントも開催。普段とは異なる夜の建築空間を体験できる貴重な機会です。

DATA
住所|兵庫県神戸市中央区加納町6-1-1
竣工|2021(令和3)年
設計|安藤忠雄
施工|竹中工務店
URL|https://kodomohonnomori-kobe.jp

海岸ビルヂング(パスポート公開)

神戸旧居留地エリアに建つ、煉瓦造3階建ての重厚な歴史的建築。1911年に竣工し、建築家・河合浩蔵が設計しました。幾何学や直線を組み合わせたセセッションの影響を受ける外観は、神戸港の繁栄を支えた近代都市の記憶を今に伝えています。現在はレストランやショップなどが入る複合施設として活用され、歴史ある建築を日常の中で楽しめる場所に。神戸市景観形成重要文化財にも指定される、神戸を代表する近代建築のひとつです。

DATA
住所|兵庫県神戸市中央区海岸通3-1-5
竣工|1911(明治44)年
設計|河合浩蔵
施工|騎手組
※国登録有形文化財
※神戸市景観形成重要文化財

神戸市立博物館(パスポート公開)

1935年に竣工した旧横浜正金銀行(現・三菱UFJ銀行)神戸支店ビルを活用した建築。設計は桜井小太郎で、神戸における最後の本格的な様式主義建築ともいわれています。京町筋に面したドリス様式の円柱が並ぶ堂々たるファサードは圧巻で、金融都市として発展した神戸の歴史を象徴する存在。現在は神戸市立博物館として活用されており、今回の建築祭では普段は公開されていない螺旋階段が特別公開されます。

DATA
住所|兵庫県神戸市中央区京町24
竣工|1935(昭和10)年
設計|桜井小太郎
施工(改修・増築)|竹中工務店
URL|https://www.kobecitymuseum.jp
※国登録有形文化財
※パスポート提示で、開催中の特別展を団体割引価格でご覧いただけます。

 

神戸市立御影公会堂(パスポート公開)

1933年に竣工した歴史ある公会堂で、白鶴酒造7代目社長・嘉納治兵衛の寄付により建設されました。設計は建築家・清水栄二。曲線を取り入れた外観や縦長の窓が印象的で、昭和初期のモダン建築の魅力が感じられます。地下食堂は「レトロ映え」スポットとしてSNSでも話題。阪神大水害、太平洋戦争の空襲、阪神淡路大震災の3つの大災害を乗り越えながら修復され、現在も地域の文化施設として活用されています。

DATA
住所|兵庫県神戸市東灘区御影石町4-4-1
竣工|1933(昭和8)年
設計|清水栄二
施工|大林組
URL|https://mikage-kokaido.jp
※国登録有形文化財
※パスポート対象建築

 

神戸松蔭学院大学(パスポート公開・ガイドツアー対象)

六甲山のふもとに広がるキャンパスは、“中世ヨーロッパの丘に建つ街”をイメージして設計されたもの。銅版葺き切妻屋根とレンガ色のタイルで統一され、地域の景観をリードする存在となっています。建築を手がけたのは竹中工務店の建築家・永田祐三。建築祭ではキャンパス中心にあるチャペルが公開予定。六甲山の自然と調和した美しい大学建築を体験できます。高い天井、聖書の物語をテーマとしたステンドグラスも見どころ。

DATA
住所|兵庫県神戸市灘区篠原伯母野山町1-2-1
竣工|1981年3月(チャペル竣工)/1983年9月(パイプオルガン完成)
設計|永田祐三(竹中工務店)
施工|竹中工務店
URL|https://www.shoin.ac.jp

湊川隧道(パスポート公開・ガイドツアー対象)

1901年に完成した、日本初の近代河川トンネル。かつて世界最大規模を誇った、明治期の神戸の都市改造を象徴する土木遺産で、国の登録有形文化財にも指定されています。煉瓦で積み上げられた巨大なトンネル内部は、当時の技術力の高さを物語る迫力ある空間。普段は見ることのできないこの地下構造物を歩く体験は、港町神戸の近代化の歴史を体感する貴重な機会となります。

DATA
住所|兵庫県神戸市兵庫区湊川町9-3-1
竣工|1901(明治34)年
設計|神戸市土木部
URL|https://minatogawa-zuido.com
※登録有形文化財

 

神戸港新港第四突堤Q2上屋(クラウドファンディング限定のスペシャルツアー)

神戸港の新港地区に建つアールデコとモダニズムの間のような港湾建築。かつてヨーロッパ航路の客船ターミナルと鉄道駅を兼ねた施設として建てられ、国際貿易港・神戸の繁栄を象徴する建築でした。現在はDOCOMOMO Japanにも選定される歴史的モダニズム建築として知られています。普段は立ち入り禁止の港湾施設ですが、今回の建築祭では、内部を見学できる貴重な機会が設けられています。

DATA
住所|兵庫県神戸市中央区新港町4-4
竣工|20世紀前半
設計|神戸市港湾部

 

舞子・垂水・塩屋リバイバルツアー
(クラウドファンディング限定のスペシャルツアー)

明治後期から昭和初期にかけて、外国人居留地の発展とともに別荘地として人気を集めた垂水・塩屋エリア。海と山に挟まれたこの地には、当時の実業家たちが建てた洋館が今も静かに佇みます。三角屋根の意匠や装飾的な外観は、神戸に花開いた“海辺のリゾート文化”の名残。また、当時流行したセセッション様式の装飾が、室内のあちこちに見られるのが注目ポイント。垂水の「垂水五色山西洋館」と、建築祭で初めて一般公開された塩屋の2つの名建築「岩井邸」「旧後藤邸」を専門家の解説付きで見学できる貴重な機会です。

垂水五色山西洋館
住所|兵庫県神戸市垂水区五色山2-3-46
竣工|1917(大正6)年
設計・施工|不明

岩井邸
住所|兵庫県神戸市垂水区塩屋町4-14-43
竣工|1922(大正11)年
設計・施工|不明

旧後藤邸
住所|兵庫県神戸市垂水区塩屋町3-1-3
竣工|大正中期
設計|設楽貞雄
施工|不明

昨年参加させていただいた「京都モダン建築祭」に続き、今回の「神戸建築祭」を通して、私の中で建築への興味はますます大きくなりました。ヴォーリズの建築、フランク・ロイド・ライトの建築、そしてその系譜を受け継ぐ建築家たちの作品を、これからもっと見て歩いてみたい——そんな思いが強くなっています。

また、建築祭に参加して以来、普段暮らしている東京の街の見え方も少し変わりました。街を歩きながら、この外壁はどんな素材なのだろう、この建物は誰が設計したのだろうと、つい建築のことを考えてしまうのです。何気ない街歩きの時間さえ、以前よりずっと楽しく感じられるようになりました。

「神戸建築祭2026」では、パスポートによる建築公開のほか、建築家や研究者によるガイドツアーなど、多彩なプログラムが用意されています。また、クラウドファンディングによって公開が実現する建築もあり、街の建築文化を未来へ繋いでいこうという取り組みも広がっています。

京都、そして神戸。建築を巡る旅の魅力にすっかりどっぷり惹かれた今、次はどの街の建築祭を訪れてみようかな?——そんな楽しみも生まれました。

まずは、この春の神戸で、建築と街の新しい魅力に出合ってみてはいかがでしょうか?

「神戸建築祭2026」詳細はこちらから



Profile

清原愛花Aika Kiyohara コントリビューティング・ファッション・エディター/スタイリスト。大学時代よりさまざまな編集部を経て、2009年より『Numéro TOKYO』に参加。田中杏子に師事後、独立。本誌ではジュエリー&ファッションストーリーを担当。フリーランスのスタイリストとしては、雑誌や広告、女優、ミュージシャンの衣装を手がける。最近は、愛犬エルトン・清原くん(ヨークシャテリア)のママとして、ライフをエンジョイ中。Instagram @kiyoai413
 

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