松浦勝人×古坂大魔王「ピコ太郎が大ヒットした理由」 | Numero TOKYO
Interview / Post

松浦勝人×古坂大魔王「ピコ太郎が大ヒットした理由」

本誌の人気連載、エイベックスCEO・松浦勝人さんが大切な仲間や一度会ってみたかった人々と、肩の力を抜いて語らう「松浦勝人の徒然なるままに… 」。今回は、実はエイベックス所属のピコ太郎のプロデューサー、古坂大魔王さんにご登場いただきました。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年4月号掲載)

エイベックスだから成功できた

古坂「松浦さんという存在は僕にとっては徳川家康みたいなものなんです(笑)。つまり、名前は知っていても、永久に会えない人みたいな気がしていたので、2006年にエイベックスに所属することになり遠目から見るようになって、今日に至ってはこうして対談連載に呼んでいただいていることが信じられないというか、僕でいいんですか(笑)?」 松浦「もちろん!ところで、なんでエイベックスに(笑)?」 古坂「僕はお笑い芸人ですけど、音楽も作りたかったんです。実は前の事務所のときに、エイベックスから『ノーボトム!』という和風テクノの音楽ユニットでデビューもしてまして。ずっと、とんねるずやドリフターズみたいな、歌も歌うおしゃれな芸人に憧れていて、でも、音楽が好きとはいえ素人なので、エイベックスにお世話になることになって、さすがに本気で勉強しないとまずいなと。そこで仲間のみんなは車とかを買っているのに、音楽の機材にお金をつぎ込んで、売れないアイドルの立ち上げにレコーディングからマイク立てに至るまで関わったり…。あの頃がいちばんの修業時代でした」

松浦「報われたから、よかったよね」

古坂「もともとテクノに始まり、ジュリアナ東京のDJのジョン・ロビンソンや、エイベックスが1990年代に東京ドームでやったavex raveでの四つ打ちのダンスミュージック、サンプリングがループしてる感じとかが好きでしょうがなくて、そういう音楽とお笑いを融合させようと、自分のライブでやり続けてたんです。ただ、音楽は自分をかっこよく見せるものである一方で、お笑いは自分をかっこ悪く見せるものなので、これがなかなか…。試行錯誤して10年以上かかりました」

松浦「結局、ピコ太郎とはどこで出会ったの?」

古坂「さっき話した『ノーボトム!』でいろいろなライブハウスに出演していた時期に、変なアーティストがいっぱいいたんです。40歳を過ぎて『世の中に苦言を呈してやる!』とMDウォークマンを持ってきて、音を流しながらギターを弾いてたり…。面白すぎますよ!苦言を呈されてるのはおまえだよって(笑)。それで『ああいう人、いいな』と思っていたところに、ピコ太郎がぽんと出てきたんです。ちなみに彼のファッションとか見た目って、僕が最も嫌いな感じでもあるんです(笑)」

松浦「なるほどね(笑)」

古坂「ただ、ピコ太郎はエイベックスじゃなかったら、できなかったと思っています。僕はあまり人の言うことを聞かないし、やりたいと思ったことしかやらない時期もあったんですけど、そんな中で好きなことをやり続けて、ライブでそれを披露して、なんとなくウケがいいから『じゃあ、ピコ太郎をやるね』ってことになって、『いいんじゃない』ってすんなりいくことって、実は奇跡的」

松浦「うちの会社、いい加減なんじゃない(笑)」

古坂「そのいい加減さがすごいなと思いました。でもその一方で、松浦さんはかなり早い段階で『面白いから、ピコ太郎をやれ』と全社メールを送ってくれたんですよね。ジャスティン・ビーバーがSNSで取り上げるずっと前に」

松浦「基本的に自由に好きにやらせたいじゃない。わけのわからないものが突然ヒットする例は過去にもいっぱいあったし『いいんじゃない』って姿勢をいい加減と取るか、自由と取るかって話だと思うけど」

夢はピコーノ・マーズ!?

古坂「ところで1月は首相特使に任命いただいて、二階さん(自民党幹事長の二階俊博氏)とインドネシアのジャカルタに行ってきました」

松浦「去年はNYの国連にも行ってたよね」

古坂「国連が定めた『SDGs/Sustainable Development Goals』(持続可能な開発目標という意味)のPR動画に出演させてもらったのがご縁で。実際の会議を見学していたら『人が押しかけすぎて混乱が起きるから、出ていってほしい』と言われました(苦笑)」

松浦「すっかり外交担当だよね」

古坂「松浦さんが二度目の全社メールでプッシュしてくれて、結果、YouTubeで一気に134カ国に配信できたのも大きかったと思います。ウガンダが一位だったのにはびっくりしましたけど!」

松浦「テクノの素地がある国なの?」

古坂「そういうことでもなくて、この間、大統領に会いに行ったら、みんなココナッツを叩いてました」

松浦「誰にでもわかる英語なのに、曲に変なメッセージ性がなくて、害がないのもいいんだろうね。子どもにも好かれてるし」

古坂「確かにPPAPのトラックを流すと1歳の子どもが泣きやんだりしますし、変なメッセージ性どころか『ペンパイナッポーアッポーペン』は何の意味もない歌ですけど、ピコ太郎には記者会見とかでは『テーマは世界平和、家族、友人、いとこ、はとこへの愛。そして宇宙物質ダークマターの存在』と語らせています」

松浦「『ピコ太郎って意味わかんないけど、メッセージだけはちゃんとしてる』っていう」

古坂「シンガーソングライターだから言えるちょっと恥ずかしいようなメッセージですけど『ピコ太郎がそう言うなら(笑)』という感じで、子どもたちに広まればいいなと。特に海外では真っすぐな発言ほど、意外と通るところがある気がしないでもなくて。あと、トルコの塩振りおじさんもシャークアタックもインターネットの世界の流行りは2週間が いいところなのに、ピコ太郎がまだ頑張れているのは、実際に音楽を作っている人が面白がってくれているのも大きいかなと思ってます」

松浦「例えばどんな人?」

古坂「DJ KOOさんが単独ライブに来てくださったときに『本来スネアドラムの部分をカウベルでやるのはズルイ!』と言って笑ってくれたり、テクノの重鎮である細野晴臣さんが『僕らが昔使っていた機材を使用してPPAPが流行って、テクノっていいものだね』とラジオでコメントしてくださったり」

松浦「教授(坂本龍一さん)は会ったことあるの?」

古坂「いいえ。会ってみたいです。今年はピコ太郎にコラボをいっぱいやらせようと思ってまして、本当はPSYとかとやりたいんですよ。あとブルーノ・マーズ。ピコーノ・マーズとかどうですか(笑)?」

松浦「両方とも関連はあるので、聞いておこうか(笑)」

古坂「ブルーノ・マーズは現地でグラミー賞の授賞式を見たときに、プリンスのトリビュートをやったんですけど、ダントツでした」

松浦「マイケル・ジャクソンに見えてくるんだよね」

古坂「まさに現代のマイケルですよね。ちなみに松浦さんがなんとかしてくれるにしても(笑)、ブルーノ・マーズとコラボしたいって、ほとんどギャグじゃないですか。でも、あり得ないことじゃないと面白くないと思っているのと、できるうちにやっておかないと、すぐに消えちゃうんで。この間のトランプ大統領と安倍首相とピコ太郎の3ショットとかも、意味わかんないじゃないですか。僕、笑っちゃいましたもん」

松浦「それこそ世界平和の絵だよね」

古坂「次はトランプ大統領を誘ってクレムリンに行って、プーチン大統領に会いたいんですよ。プーチンさん、トランプさん、安倍さん、ピコ太郎でPPAP。松浦さん、そこもお願いします(笑)」

松浦「僕からもお願いしていい?」

古坂「何ですか?」

松浦「キャラクターを作って、プロデュースしてほしい。アニメでもいいんだけど、だって、生きた人間と違って歳を取らないし、応用がきくでしょ。世界にも行きやすいし」

古坂「面白そうなので、ピコ太郎と絡めたりして、ちょっと考えます!」

Photos:Mayumi Taka(Sept) Styling:Sachi Miyauchi for Self(Masato Matsuura) Takafumi Tsukamoto(Daimaou Kosaka) Hair & Makeup:Junko Kobayashi(AVGVST/Masato Matsuura) Leiko.K(Daimaou Kosaka) Edit & Text:Yuka Okada

Profile

古坂大魔王Daimaou Kosaka 1973年、青森県生まれ。芸人・プロデューサー。少年時代からラジオで聴いた曲を地元のレコードレンタル屋で借りては音楽にハマる日々。91年、お笑いトリオ「底ぬけAIR-LINE」でデビュー。その後、古坂大魔王として単独ライブを定期的に開催する一方、バラエティ番組への出演をはじめ、SCANDALやAAAなどとコラボや楽曲制作を行うなど、芸人、クリエイター、プロデューサーとして奇才ぶりを発揮。2017年、世に送り出した54歳のシンガーソングライターのピコ太郎が世界的にブレイク。
松浦 勝人Masato Mastuura エイベックス株式会社 代表取締役会長CEO。1964年、神奈川県横浜市生まれ。88年、現在のエイベックスの前身となるエイベックス・ディー・ディー(株)を設立し、レコード輸入卸販売業を開始。その後、自社レーベル「avex trax」を設立し、TRF、浜崎あゆみ、EXILE、AAAら数多くのアーティストを輩出。現在は「avex group成長戦略2020 ~未来志向型エンタテインメント企業へ~」を掲げ、音楽、アニメ、デジタルの注力事業に加え、新規事業や海外事業を展開し、さらなる成長を目指す。

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