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松浦勝人×小室哲哉「小室さんがいなかったら、エイベックスはなかった」

本誌の人気連載、エイベックスCEO・松浦勝人さんが大切な仲間や一度会ってみたかった人々と、肩の力を抜いて語らう「松浦勝人の徒然なるままに… 」。記念すべき初回には、一つの時代を共に築いた盟友、小室哲哉さんとの対談をお届け。(「ヌメロ・トウキョウ」2017年11月号掲載)

今、いちばん大事なものは?

松浦「今日は新連載の初回にお越しいただいて、ありがとうございます」

小室「こちらこそ」

松浦「小室さんとは、たまにこういう機会を通じて、お会いすることもありますが、普段はLINEでのやりとりが多い感じですね」

小室「LINEは電話とかと違って、付かず離れずの程よい距離感があって、土足で踏み込む感じがない。だから『これは社長に言っておきたいな』『気が付いてくれていたらいいな』というようなときに、気負わずに連絡しやすいんだよね」

松浦「仮に僕が返事をしないことがあっても、ちゃんとわかってますから(笑)」

小室「でも、これは声を大にして言いたいけど、社長のレスが世界一、早いよ!2秒後のときもあるし」

松浦「各方面との連絡で、日常的にケータイを開いている時間が長いだけで…。ただ、小室さんの言うことには、いつも必ず何か意味があると思っています。僕は小室さんに音楽業界のノウハウから売り方まで、全部を教わった人間なんで」

小室「僕の方が7歳上で業界の経験があっただけで、今はこっちが社長に甘えることもあるし、熟しきった関係だよね(笑)。いずれにしても僕にとっては昔も今も大事な人です」

松浦「それは僕も同じです。小室さんがいなかったら、エイベックスはなかったですから」

小室「90年代は音楽業界バブルで、エイベックスと僕のタッグがそのシンボリックな存在だったことは間違いない。でも、そこに浸るんじゃなくて次のことを考えるにしても、熟した関係だからこそ、社長に『つまんねえよ』と言われないような提案にしないとだめだなと思ってます」

松浦「そんなこと言わないですよ!」

小室「でも、一方で今いちばん大切なのは、実は健康なんだよね(笑)」

松浦「わかります(笑)」

小室「ただエンタテイメントって、えり好みばかりしていてもいけない仕事で、セーブしちゃうと、途端に表に名前が出なくなる。そうなると『あの人、どうしちゃったのかな』と思われてしまうので、自分も健康だけを考えてゆっくりだけもしていられなくて、どのくらい出て、どのくらい消えておけばいいのかを常に考えてます」

松浦「具体的に健康のために何かやってますか?」

小室「それがやってないんだけどね(苦笑)」

松浦「体は健康でも、精神的なストレスが拭えないから、どこが痛いとかじゃなくて、肩が凝るとか眠れないとかいう症状になる」

小室「社長はすごく繊細なんだと思う。意外と僕のほうがいい加減。もちろん眠れないことはあるけど『いつかは眠れる』と思えるし、格好つけるわけでなくて、眠れないときって詞を思い浮かべやすいんです。『必ず夜明けは巡ってくるから』とかね。そうすると得したなって思える。つらかったり大変なときのほうが言葉は出てくるよね。逆にメロディは鼻歌じゃないけど、気分が高揚してるときのほうが出てくる。だから、いいことがあったらメロディを作って、落ち込んだら言葉を生んで、締め切りに間に合わせるっていう」

松浦「そして、僕は締め切りを調整するっていう(笑)」

小室「でも、社長のようにスキルチェックが厳しい人が相手だからこそ、売れるものになるんです。いい番人ほど簡単には通してくれない」

松浦「ただ、当時は小室さんが何を言っているか、わからないこともありました。なのに『それはこういうことですか?』と返すと、だいたい『うん』って言うから、理解するのが大変(苦笑)。今は僕も経験を重ねてだいぶわかるようになりましたけど」

小室「僕自身も実は明解にわかっていないところがあって、まずは投げかけていたというか、口にしてみることが大事だったのかも」

松浦「確かに自問自答しているような感じはありました」

小室「ただ、アーティストやクリエイターの言葉を拾える人が、ビジネスのきっかけを生むことができるんだと思う。もしかしたらすごく当たる可能性があるものでも、スルーされちゃったら、そこで終わりだし。例えば浜ちゃん(※ダウンタウンの浜田雅功さん)のときも、社長に『なんかやろうかなと思うんだけど』とぽろっと言ったんですよ。あのとき『え?』でなくて『わかりました』て言ってくれたから、『WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント〜』が生まれたわけで」

松浦「当時の浜ちゃんの勢いを前に『何を言ってるんですか』とはならないですよ!」

小室「いずれにしても、社長は消費者の気持ちに立てる人なので」

松浦「でも、今は消費者のことをわかってると思うと間違えそうだから、あえてそう思わないようにしてます。ちなみに、小室さんで売り上げ200万枚を超えたものは、初めて聴いたときから全部いい曲でした。『WOW WAR TONIGHT』も絶対に売れるだろうなと思ったのを鮮明に覚えてます」

小室「僕の目論見は、ちょうど松本人志さんが『遺書』という1000円の本を出版して、100万部以上売れていたので、ダウンタウンのファンなら、相方の浜ちゃんの歌にも1000円くらい出してくれるんじゃないかっていう…。ちなみにこの話、若い世代は知らない人もいるんじゃないかと思って、あえて話してますけど(笑)」

松浦「1995年のリリースなんで、もう20年以上前になるんだ」

小室「あと、社長とのやりとりで思い出すのは、一時期、日本の芸能界の時事ネタをまとめた『朝刊マックス』っていうメールを毎日送ってくれていたこと。僕は当時LAを拠点に音楽制作をしていたんだけど、まだインターネットもない時代で、誰も教えてくれない情報を『朝刊マックス』で教えてもらっていました」

松浦「小室さんは忙しくて情報も取れないと思ったので勝手に送りつけてただけです(苦笑)。毎日会社へ行って、最初にする仕事でしたね。1年くらい続いたのかな」

小室「人生にはその時にはわからないことがあって、後になって『もっと有効に活用できたな』と感じることがたくさんあった」

松浦「人生の振り幅を経験して初めてわかることってありますよね」

小室「いずれにしても、今もちょこちょこ、こういう対談を通して世の中に出ていないと、当時の話も聞いてもらえなくなるんで(笑)」

インスタの利用目的とは?

松浦「小室さんにとってはインスタで発信することも、そういうことを意識してのアクションだったりするんですか?」

小室「世の中がどれくらいピュアに見てくれるのか、どれだけひねくれちゃっているのかっていう反応を見るためのテストみたいなものかな。今みんなは前向きなのかネガティブなのかを、自分から発信すること試しているような感覚。そこを遮断してしまうと、何もかもが怖くなって、縮こまって、本当に世の中がわからなくなってしまうので」

松浦「結果として、今の世の中についてはどう見てますか?」

小室「今朝も『インスタにこれが写り込んでいたら犯罪になる』みたいなニュースを見たんですけど、昔と比べて今は気にしなければいけないことが多すぎて、みんなストレスが溜まっているんじゃないかなと思います。もはや『自由奔放』なんて言葉、あり得ないでしょ? 活字も第三者のユーザーを常に意識して書かなければいけないし」

松浦「昔は写真週刊誌だけでしたけど、今は誰でもどこでも写真を撮ることができますからね。ところでニュースといえば、小室さんが今後、発信しようとしているプロジェクトとかはあるんですか?」

小室「『情報解禁』って言葉もいつできたんだろうと思うんだけど、まだ言えないことが多いかな…。ただ、いろいろとプロジェクトが控えているので、楽しみにしていてください(笑)」

Photos:Taka Mayumi Styling:Sachi Miyauchi for Self(Masato Matsuura) Hair & Makeup:Junko Kobayashi(AVGVST/Masato Matsuura), Atsushi Sasaki(Tetsuya Komuro) Edit & Text:Yuka Okada

Profile

小室 哲哉(Testuya Komuro)1958年、東京都生まれ。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家、編曲家、キーボーディスト、 シンセサイザー・プログラマー、ミキシング・エンジニア、DJ。83年、TM NETWORK(のちの TMN)を結成。93年にtrfを手がけ、以後、篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美、H Jungle with t、globeなどのアーティストをプロデュース。アルバムとシングルのトータル売り上げ枚数は1億7000万枚を超えた。他にも作曲家として幅広いアーティストに楽曲を提供。2019年3月27日に、38年のキャリアを集約させた『TETSUYA KOMURO ARCHIVES PROFESSIONAL PRODUCTS』(完全受注生産)をリリース。
松浦 勝人(Masato Matsuura) エイベックス株式会社 代表取締役会長CEO。1964年、神奈川県横浜市生まれ。88年、現在のエイベックスの前身となるエイベックス・ディー・ディー(株)を設立し、レコード輸入卸販売業を開始。その後、自社レーベル「avex trax」を設立し、TRF、浜崎あゆみ、EXILE、AAAら数多くのアーティストを輩出。現在は「avex group成長戦略2020 ~未来志向型エンタテインメント企業へ~」を掲げ、音楽、アニメ、デジタルの注力事業に加え、新規事業や海外事業を展開し、さらなる成長を目指す。

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