
ファッション界に新たな視点をもたらし、世界から注目を集めるイタリアのラグジュアリーブランド、ブルネロ クチネリ。その創業者で会長のブルネロ・クチネリの半生を描いたドキュメンタリー映画が、11月6日(金)から全国公開されている。メガホンを取るのは、多くの人々の涙を誘った名作『ニュー・シネマ・パラダイス』でアカデミー賞®︎受賞した、ジュゼッペ・トルナトーレ監督というから見逃せない。

この映画は、華やかなファッションデザイナーのサクセス物語とはひと味違う。ブルネロ・クチネリという一人の男の人生を追体験しながら、人間が豊かに生きるとはどういうことか、根源的な問いの答えを改めて巡らせることになる。また経営者、社員、クリエイターなど、仕事に携わる人それぞれの立場で、幸福な働き方についても考えることになるだろう。
ブルネロ・クチネリを成功へと導いた裏には、働く父の苦難があった。戦後高度成長期のイタリアで農村から都市へ移住し、工場勤務のなかで尊厳を踏みにじられる経験をする父の姿を目の当たりに。それが彼の提唱する“人間主義的経営”の根幹となっている。

ブルネロ・クチネリは、1978年に小さなニット工房から会社をスタート。そこから誠実に歩みを進め、現在のような世界屈指のブランドにまで成長させた。他と一線を画するのはファッションという形の表現を、文化、環境、人の働き方に至るまでデザインに広げ、まちづくりへと発展させた点にある。夫人の故郷であるイタリア・トスカーナの中世の村、ソロメオを、揺るぎない哲学で再生。劇場、図書館、ブドウやオリーブの畑も設け、その取り組みは地域再生のモデルにもなるほどだ。

企業家の人生という、ともすれば硬くなりがちな内容を、美しく流れる映像美へと昇華させたのはジュゼッペ・トルナトーレ監督の手腕。一般人を起用したという再現ドラマに、リアルな証言やアーカイブ映像を巧みに織り交ぜ、本作のテーマを情緒的に描き出した。

カードゲームに長けた若きブルネロ・クチネリの、ユニークな姿やエピソードに親しみを覚える一幕も。音楽は『ライフ・イズ・ビューティフル』のニコラ・ピオヴァーニ、ナレーションはブルネロ・クチネリとも交流のある渡辺謙が担当。

“愛があるところには夢がある”── 公開を前に来日したブルネロ・クチネリはこう語った。私たちが今を生き抜くためのヒントがちりばめられている作品を、ぜひ劇場で観賞してほしい。

『ブルネロ 静かなる先見者』
監督・脚本/ジュゼッペ・トルナトーレ
出演/ブルネロ・クチネリほか
公開日/11月6日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
配給/ロングライド
©BRUNELLO CUCINELLI SPA AND MASI FILM 2025
Text: Hiroko Koizumi
