「あなたは少なくとも30回、この服を着用しますか?」 新上陸ブランド「アイン アモア」のクリエイティブ・ディレクター インタビュー | Numero TOKYO
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「あなたは少なくとも30回、この服を着用しますか?」 新上陸ブランド「アイン アモア」のクリエイティブ・ディレクター インタビュー

着方によって、別の表情も楽しめるトランスフォーマブルなアイテムも多い。コート¥121,000
着方によって、別の表情も楽しめるトランスフォーマブルなアイテムも多い。コート¥121,000

いまのリアルをとらえたアフォータブルなファッションブランドが上陸。それが2026年FWにデビューし、2027年SSから日本のセレクトショップなどで取り扱いがスタートするブランド「Ain Amor(アイン アモア)」だ。販売はドイツ、ロンドン、製造はルーマニアと欧州複数に拠点を持つ。価格、質、デザインを巧みなバランスで仕上げたアウターが真骨頂。クリエイティブ・ディレクターを務めるのは、ジル サンダーでのキャリアも持つ実力派、ソフィア・ルイス。英国ウェールズ生まれで、ドイツで長く過ごす彼女の、これまでのキャリア、生き方を紐解くと、アイン アモアの魅力が見えてきた。

アイン アモアのクリエイティブ・ディレクターを務めるソフィア・ルイス。洗練されたリアリティを巧みに表現する。
アイン アモアのクリエイティブ・ディレクターを務めるソフィア・ルイス。洗練されたリアリティを巧みに表現する。

──最初にファッションに興味を持ったきっかけを教えてください。

「子どものときから、ファッションには明快なこだわりがありました。私はイギリスのウェールズ出身で、学校には制服があったのですが、スカート丈に納得がいかず、こっそりウエストで巻き上げ、短くして通学していました。先生に気づかれないように、毎日1cmずつね。かなり短くなった時点で、さすがに怒られましたが(笑)。 ヴィンテージショップも行ったり、デニムも好きだったので自分で染めたりもしてました。とにかく幼い頃から、服とそれをどう表現するかに、とても興味がありました」

──そういう感性が芽生えた背景に、家族からの影響はありましたか。

「母はとてもおしゃれな人でした。当時80年代のイギリスでは、郊外にカントリーハウスを持つような良家の子女たちのスタイルを指す、“スローンレンジャー(通称スローンズ)”と呼ばれるカルチャーが流行っていました。母はその象徴、バブアージャケットを私にも買ってくれました。おそらくグッドガールなスタイルを望んでいただろう母の思いをよそに、私はレディー・ガガみたいな『ピンクのジーンズがほしい……』と思っていました。人と違うおしゃれをしたかったのです。例えば、父が着ていたメンズジャケットを取り入れたりして、学校のほかの女の子たちとは違っていたので、自分なりの感性が芽生えていたのだと思います」

アイン アモアはアラビア語で“目”を意味する「Ain」と、世界共通語としての“愛”を想起させる「Amor」を掛け合わせた造語。ジャケット¥97,900 スカート¥97,900
アイン アモアはアラビア語で“目”を意味する「Ain」と、世界共通語としての“愛”を想起させる「Amor」を掛け合わせた造語。ジャケット¥97,900 スカート¥97,900

──ファッション業界には、どのようにして関わりましたか。

「ファッション業界との関わりは、すでに学生時代から始まっていました。ウェストミンスター大学とセントラル・セント・マーチンズ、ロンドンの2つの学校での学業と並行して、ロンドンのショールームや百貨店のハーヴェイ・ニコルズで販売を経験。業界のさまざまな面を見てみたいと好奇心に溢れており、ファッションのビジネス的な側面についても少しずつ理解を深めていきました」

──ジル・サンダー女史のもとで研鑽を積まれた経緯は?

「就職活動ですでに2つの会社に内定していたのですが、さらに幸運にもジル サンダーの面接にも誘われたのです。もともとジル・サンダー女史に憧れていた私は、とても焦ってしまいました。なぜなら、その時私はアップデートしようと、髪をピンクに染めたばかりだったのです! 慌てて、髪を30回くらい洗って元に戻して、運よく入社できました(笑)」

──それはユニークなエピソードですね。彼女のもとで何を吸収しましたか。

「いちばんは素材へのこだわりです。ほかにも技術的なことなど、服づくりの具体的な側面について教わりました。それまで得てきたコマーシャルな仕事に加えて、クリエイティビティな部分を学んだことで、この仕事に必要な両輪を得ることができました。この経験は私のキャリアにおいて、大切なスタンダードになっています」

ジェンダーレスに着こなせるアイテムも多い。(左)コート¥176,000 スカーフ¥20,900 (右)ジャケッ ト¥148,500 シャツ¥70,400  

──ジル・サンダー女史からは、人としての影響も受けたのだとか。

「彼女の仕事に対する規律からは、学ぶべきことが非常に多かったです。ショーの1か月前にだけ顔を出すようなデザイナーではなく、毎日朝早くから夜遅くまで本当に真摯に働いていました。常に最前線に立つ女性であり、かつ大きな企業のビジネスウーマンとして、多くの男性部下を率いて仕事をする。彼女はまさにその会社そのものでした。今も交流がありますが、現在彼女は『JS.THONET』など家具デザインを手掛けていて、最近、アーユルヴェーダの旅に出かけるなど充実しているようです」

──彼女からの忘れられない言葉があるそうですね。

「以前、まだ1歳半だった娘を連れて、ジル サンダーのオフィスに顔を出しました。すると彼女は娘を見て、こう言ったのです。『ソフィア、これこそが人間がつくり出せる究極の創造物よ』と。この言葉ひとつをとっても、すばらしい知性に満ち、哲学さえも感じます」

上で紹介したコートのバックスタイル。上品なバイカラー
上で紹介したコートのバックスタイル。上品なバイカラー

──その後、伝説のデニムブランド、クローズドでキャリアを積まれました。

「80年代にデザインを手掛けていたフランソワ・ジルボーは、ウォッシュ加工のパイオニア。それこそがブランドの象徴するものでした。私も可能性を追求し、さまざまな試行錯誤を重ねていました。デニム製造の懸案点、水の使用量の削減にもトライしており、それまでとは違う次元、サステナビリティにいち早く携わることができました。表面的には分かりにくい部分ですが、重要なことだったと私は信じています」

──素材への探究心は業界でも周知されていて、その目的で来日もされているのですね。

「アイン アモアでももちろんですが、ここまでのキャリアで、素材には相当のこだわりがあります。新しいことに挑戦するデザイナーとして、テキスタイル界隈では知られていたので、サプライヤーから開発した新素材の売り込みも多くありました。世界的な合成繊維メーカー、石川県の小松マテーレからの招待で、日本でも生地開発に参加しています。京都、大阪、石川……来日はたぶん10回くらい。温泉旅館、茶道、着物といった伝統的な文化に惹かれます」

素材の選び方にこだわりを持つ。コート¥170,500
素材の選び方にこだわりを持つ。コート¥170,500

──今回クリエイティブ ディレクターとして関わるアイン アモアは、どのようなアプローチを考えていますか。

「服を購入する前に『あなたは少なくとも30回、この服を着用しますか? 』と自問してみてください。私たちが目指しているのは、上質な生地や丁寧につくられた質の高いアイテムの提供。それから過剰な広告は行わず、適正価格でアイテムそのものの価値に立ち返った、誠実な服をつくろうと考えています。アイン アモアの服をワードローブに加え、日常的に繰り返し長く愛用してもらいたい。着用回数が増えるほど、 1回あたりの環境負荷は減少します。 服の耐久年数を伸ばすことは、二酸化炭素の排出量を20~30%削減できるといわれていますから」

トライアングルなスカーフをアクセントに。ジャケット¥97,900 スカーフ¥20,900
トライアングルなスカーフをアクセントに。ジャケット¥97,900 スカーフ¥20,900

──モードの民主化も大切にされていますね。

「人間は誰しも男性性と女性性を内包していると思います。それをどう表現するかは自由であるべき。服を通じて表現の可能性を伝えたいと考えています。着る人自身が、その服を使ってクリエイティブになれる、ユニバーサルな発想を大切にしています。アイン アモアの服は、忙しい生活でも袖を通すと簡単に洗練され、遊び心のあるデザイン。男女の共用はもちろん、私の服を母や娘、家族全員が着てもいい。性別、年齢、文化を超えてシェアできるような、完全に民主的で境界線のないものにしたいんです」


ネイチャーカラーでエフォートレスに。(左)すベて参考商品 (右)コート¥170,500 パンツ¥53,900 シャツ¥45,100 ニット¥49,500

──その点では、おばあさまとの対話を現代へと昇華し、親密さも感じさせる料理本『Dear Doris』は、ソフィアさんの哲学の一端を映し出しているようと感じました。

「コロナ禍の閉塞的な環境のなかで、娘と何かクリエイティブなことをしたいと思い立ちました。私は健康上の理由だけでなく、二酸化炭素排出量を削減するためにもベジタリアンな食生活を実践していました。娘もヴィーガンなので、ふと見つけた祖母のレシピをもとに、二人で毎晩ヴィーガンな一皿をつくる挑戦が始まったのです。ある日、それをオフィスに持っていくとスタッフが喜んでくれて、ファッション雑誌にレシピが掲載されることになりました。それをきっかけにごく自然な流れで本が出版されたのです。家族を献身的に支えた天国の祖母への、私からのギフトです」

ソフィアさんと祖父母のファミリーポートレート。
ソフィアさんと祖父母のファミリーポートレート。

ビクトリアケーキやシュトーレンほか多彩なスイーツを掲載。テーブルセッティングも参考になる。

ソフィアさんのレシピ本「Dear Doris」
ソフィアさんのレシピ本「Dear Doris」

──最後にソフィアさんにとって、ラグジュアリーとはどのようなものでしょうか。

今夏に来日し、インタビューに応えてくれた。
今夏に来日し、インタビューに応えてくれた。

「先日訪れたフランスのプロヴァンスでコテージから外に出ると、ふんわりとラベンダーとローズマリーの香りが漂ってきました。そのとき『これこそが贅沢だ』と感じたのです。そういった繊細な感覚、健康、ユーモアを保つこと、そして周囲の人々や家族を大切にすること。自分自身の内側に広がる空間と自分を取り巻く環境こそが重要です。多くの資産や高級な宝飾品を持つことより、精神的なことを含め、毎朝の健康こそ、本物のラグジュアリーだと思っています」

Ain Amor
https://ainamor.com/

Edit&Text: Hiroko Koizumi

 

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