ディオールの物語を22の香りで綴る特別なラ コレクシオン プリヴェについて、敬愛する日本文化について、創作について。来日中のフランシス・クルジャンにインタビュー。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年12月号掲載)

フランシス・クルジャンが語る、創作の源泉
──ディオールのパフューム・クリエイション・ディレクターに就任しておよそ5年。振り返って、あらためて感想を聞かせてください。
「香水の世界は、ほかよりもそのスパンが長く、ひとつの香水を完成させるのに1年半くらいの時間がかかるので、5年という年月は自分にとっては短いと感じています。皆さんにはまだ2年半分くらいの成果しか見ていただけていないのかな、と」
──ディオールだからこそ得られる発見やときめきは?
「ディオールのアーカイブは厳重に管理されているのに加え、常に世界中から新たに集められ、発展し続けています。歴史的な資料や昔のフレグランスボトル、雑誌の切り抜きやインタビューの映像、音声までムッシュに触れられる、ありとあらゆるものが揃う、この特別な世界に浸りきることができるのは、とても興味深い仕事。私のインスピレーションに無限に栄養を与えてくれる豊かな大地のようです」
──「ラ コレクシオン プリヴェ エスプリ ドゥ パルファン」は、「ラコレクシオン プリヴェ」のアイコニックな香りを濃縮したミニマリズムへ再解釈、再構築されています。どのようなアプローチで創作しているのでしょう?
「根本は、クチュールでデザイナーのジョナサン・アンダーソンがディオールのアイコニックなシルエットを再解釈して、新たに創造するのと同じです。例えば『ルージュトラファルガー エスプリ ドゥ パルファン』。これは、クリスチャン・ディオールがオートクチュールのショー中盤で、観客のアテンションを惹きつけるために登場させた真っ赤なトラファルガー ドレスにインスパイアされた香り。
さらに、ムッシュがなぜこのドレスをそう呼んだかを辿ると『トラファルガー海戦』の『驚かせる戦術』の比喩だった……、ムッシュが思い描いた背景にあるストーリーも、新たな香りのクリエイションに生かしています。すべてにおいて、物語をひも解いて、その骨格を保ちながら、香りを昇華させました。『ジャスミン デ ザンジュ』が朝摘みのジャスミンを想起させる清涼感、透明感が特徴であるのに対し、『ジャスミン デ ザンジュ エスプリ ドゥパルファン』では、早朝から夕方へと時間軸をスライドして、熟した温もりや厚み、五感を酔わせるような官能性を強調しました」

──今回厳選した、ほかの3つの香りのインスピレーション源についても教えてください。
「『ディオール パラダイス』は、ムッシュが晩年を過ごした南仏、ラ コル ノワール城の広大な庭で春の訪れを告げるように真っ白な花を咲かせるアーモンドの木々、そんな彼が愛した光景をイメージ。香りと味覚はしばしば重ねて語られますが、ムッシュが大好きだったというアーモンドシロップに南仏を象徴する果実を組み合わせ、カクテルのようなイメージを重ねました。
また、ムッシュが自分自身を成功へと導いた幸運のお守りとして大事にしていたスター型のチャームと、ラ コル ノワール城で大切に育て、生涯愛したというセンティフォリア ローズのふたつを重ね合わせたのが『ローズ スター』。星の五角形をインスピレーションとして、バラの5つのファセットを形作りました。『キュイール サドル』は、文字どおり、ディオールのアイコニックな『サドル』バッグがイメージソース。馬の鞍に着想を得たという独創的なフォルムは、じつは人間の体のカーブに沿う、非常に人間工学的な視点で作られているもの。それが発想の出発点になっています。どの香りも、ディオールのヘリテージに対するオマージュそのものです」
──具体的に、どのように香りとして昇華させているのでしょう?
「音楽にたとえると、わかりやすいかもしれません。同じ曲でも、どう発展させていきたいかによって、オーケストラの楽器の使い方や音の重ね方が変わるでしょう? ラヴェルの『ボレロ』を例に挙げると、同じリズムを刻む中で、最初は一部の楽器を使って柔らかく始めて、次第にさまざまな楽器で音を重ねて壮大に展開し、また静かに旋律を紡ぐ、という具合に。原料の選び方、産地や採取へのこだわり、香りのラインやコンポジション、配合や調合……、私のアプローチは、音楽家のそれとまさに同じだと感じるのです」

日本にインスパイアされて
──ホリデーシーズンを迎える今、香りのギフトを贈るなら?
「その人が普段つけている香りを知っていれば、わかりやすいのですが、もしそうでなければ、ネーミングを大事に選んでほしいと思います。今回の5つの香りがそうであるように、すべての香りは、背景にあるストーリーをネーミングに託しています。言葉に宿る物語性という力が、香りの、そしてギフトのイメージをさらに広げ、贈られた人にとっての価値が高まる気がします」
──誰かにフレグランスを贈ることはありますか?
「相手やオケージョンによっても異なりますが、キャンドルをギフトにすることが多いですね」


──来日は何度目ですか?
「最初に訪れたのは、20年以上も前のこと。以来、何度も訪れていて、東京、京都……そう、香川の直島にも行きました。そして、来日のたびに行くのが、東京の合羽橋。そこで手に入れた包丁で料理をしたり、手作りのスイーツを器に盛ったり、日本の美しいものとの出合いを楽しんでいます。前回の来日では『金継ぎ』を体験しました。その場でできるものと思っていたら、できあがるのは半年先と聞いて、驚かされました。また、先日、和菓子をいただいたときも、そのミニマムでいて繊細なラッピングの美しさに感動。あらためて、日本の卓越した職人技と時間や手間をかける丁寧な手仕事ぶりに触れ、心動かされました」

──フランスと日本の美意識、その共通点、相違点とは何ですか?
「いずれも職人技や食文化を大切にしているところは共通しています。一方、ヨーロッパ大陸でいろいろな文化の『交差点』になっているフランスは革命が起こって伝統が途絶えることもある中、海に囲まれた日本はよりそれが色濃く残されているし、尊重されているように思います」
──『ヌメロ・トウキョウ』の読者にメッセージをお願いします。
「実は、日本をテーマに新たなプロジェクトを進めています。まだシークレットですけど、ね。ぜひ、楽しみにしていてください」
Photos : Maciej Kucia Styling : Naoki Ikeda Prop Styling : Mafumi Makeup : Yuka Washizu Hair : Megumi Sekine Text : Chitose Matsumoto Edit : Naho Sasaki
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