
青森県の弘前れんが倉庫美術館で「風間サチコ展:方丈ルームの1000里眼」が開催されている。東京を拠点に活動し、黒一色で刷られた版画作品を手掛けてきた風間サチコ。東北では初の個展となる本展では、弘前で出会った一冊の本から着想した新作の油彩画も。2026年11月15日(日)まで。

本展では、風間サチコの初期作から近年の木版画、そして最新作まで63点が紹介されている。これまで版画を主な表現手法としていたが、新作では白鳥をモチーフにした油彩画を手がけた。
白鳥に注目したきっかけは、2015年に青森公立大学国際芸術センター青森(ACAC)で滞在制作を行なった際、弘前の古書店で、19世紀フランスの⼩説家ヴィリエ・ド・リラダンの『トリビュラ・ボノメ』の古本を手にしたことから。ここに収められている『⽩⿃扼殺者(やくさつしゃ)』という短編から作品も生まれた。

新作の油彩画『ありがとう、我が愛する白鳥よ!』は、ワーグナーのオペラ『ローエングリン』のワンシーンが、青森の浅所海岸に置き換えられ、戦国時代の足軽、そこに伝わる白鳥の伝説に重ねられている。

大型の木版画も圧巻。2011年の東日本大震災と福島第⼀原⼦⼒発電所事故をきっかけに制作された『噫!怒涛の閉塞艦』(2012年)、2020年に予定されていた東京オリンピックと、1940年に開催が予定されていたが戦争のために見送られた幻の東京オリンピックを重ねた『ディスリンピック2680』(2018年)。オリンピック、東日本大震災の原発事故、資本主義、近現代の社会や制度、出来事などを起点に、文学や神話、個人的な記憶も織り込みながら、風間は現在、過去、未来を一つの作品に繋げていく。


そのほか、青森や岩手の旧南部藩を中心に使われていた地方札(カルタ)である「黒札」をモチーフにした、アクリル画の大型の新作も。⾵間は、その抽象画のような図案に、呪術的な⼒のようなものが潜んでいるように感じたという。

本展タイトルは鴨長明の『方丈記』に着想を得ているという。俗世から離れ、移動式の小さな庵「方丈」で、必要最小限の調度品や生花、本などに囲まれながら、歌を詠むなどして暮らした鴨長明。『方丈記』では彼が生きている間に起こった数々の厄災についても描かれている。
インスタレーション作品『私の方丈ルーム』では、風間の自宅の四畳半の居間に「方丈」を重ねる。風間もまた、小さな安心な場所から、千里眼のように、過去・現在・未来へと思考を巡らせ、世界を、人間を見つめている。

本展は11月15日(日)まで開催されているので、ぜひゆっくりと訪れてほしい。
彼女の制作の原点にもふれるインタビュー動画もぜひ。
風間サチコ展:方丈ルームの1000里眼
会期/2026年6月5日(金)〜11月15日(日)
会場/弘前れんが倉庫美術館
住所/⻘森県弘前市吉野町 2-1
開館時間/9:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日/火曜日(ただし8月4日、8月11日、9月22日、11月3日は開館)、8月12日(水)、9月24日(木)、11月4日(水)
観覧料/一般 1,600円、大学生・専門学校生 1,000円、高校生以下 無料
URL/www.hirosaki-moca.jp/exhibitions/kazama-sachiko
Text:Hiromi Mikuni
