上坂あゆ美「学校や家庭でうまくいかなかった、10代の自分みたいな人に届けたい」

旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.131は歌人の上坂あゆ美にインタビュー。
歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)で鮮烈なデビューを飾った上坂あゆ美。新刊『会社ではおならをしてはいけません』(双葉社)は、上坂がデビュー直後から書き溜めていたエッセイ集。家族も学校もつらくて痛みさえ感じられなくなったという十代を乗り越え、感受性を取り戻していく日々が綴られている。
現在、僧侶・鵜飼ヨシキとのPodcast番組『私より先に丁寧に暮らすな』で生きづらさを抱える十代の相談に乗るなど、社会活動も行う彼女が執筆する理由とは? オンとオフが交錯して生まれる彼女のクリエイションに迫る。

昔の自分みたいな人に届けたいから書いている
──上坂さんといえば歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』の印象が強いのですが、エッセイはどのようなきっかけで書き始めたのでしょうか?
「歌集を出して間もなく数社からエッセイの依頼をいただいたんです。『会社でおならをしてはいけません』は双葉社の文芸誌でやっていた連載をまとめた本なのですけど、連載が始まったときはまだ会社員でした」
──短歌だけでなくエッセイも書ける自信のようなものは当初からあったのですか?
「そもそも短歌もできるかはわからないけど始めたみたいな感じだったので。私は創作の経験が浅いままデビューしていて、そもそも大体のことはできる自信なんてなくて。もともと小説や詩よりもエッセイばかり読んでいたので、『エッセイ好きだし、やってみようか』みたいな感じでした」
──お好きなエッセイストはいますか?
「自分のオールタイムベストはさくらももこで、さくらももこと坂口安吾のエッセイを読んで育ちました。二人の作品を読んで『こんなに面白かったら性格が悪くてもいいんだ』って10代のときに思ったんですよ。安吾は『堕落論』で『そんなこと言わなくていいじゃん』みたいなことをめちゃくちゃ書いているんですけど、そういうところが好きですね」

──『会社でおならをしてはいけません』を編纂される上で何かテーマはあったのでしょうか?
「実はあんまりないんです。数社から『こんなテーマでどうですか?』っていう話がある中で、私が書いたことなかったエッセイにあたふたしていて。双葉社からお話がたときに『いや、ちょっと書けるかわかりません』って言ったら、フリーテーマの連載になったんですよ」
──テーマがないと逆に書くのが大変だったのでは?
「はい、それは後々気づくことになりました(笑)」
──単行本には連載で発表したエッセイが一通り掲載されているのでしょうか?
「だいぶボツにしています。雑誌には載ったけど、本には入れなかったのがいくつもあります。やっぱりフリーテーマだと内容がばらつくし、『なんかこれいいな』っていうエッセイを残したら、結果的に自分の中の強いテーマに収束していく感じはありましたね」
──先日ご出演されていたラジオ番組の中で、エッセイは親御さんにも届くように平たい言葉で書かれていると話されていました。親御さんに届くかどうかを創作する上での基準にされたのは、何かきっかけがあるのでしょうか?
「東京でカルチャー系の仕事をしていると、東京出身の方、その中でも裕福なご家庭の方が多かったりする。地方出身で、しかもけっこう貧乏な母子家庭の出の自分は珍しいんだなと、うっすら思ってはいたんですよ。10代の貧乏だった頃の自分とか、家族や学校でうまくいかなかった気持ちとかがテーマとして重くあるので、作品としてはそこから逃げたくない気持ちがあって。
この業界にいるとそれがマジョリティのような気がしてくるけど、東京出身で裕福な家って日本の人口的のほんの数パーセントだと思うし、“みんな”または“世界”で言ったら本当にごくわずかな話であったりする。私はわかっている人にわかられたいというよりは広く届けたいという気持ちがあって、それはやっぱり、昔の自分みたいな人にちゃんと届けたいからなんですよね。そうなったときに、やっぱり小難しい言い回しだけでは届かないなと思ったりします」

──昔の自分みたいな人に届けたいという気持ちがあるからこそ、若者に向けた活動もされているのでしょうか?
「そうです。事前にいただいていた質問の中に、なぜ書く以外にも社会活動をしているのかというものがありましたが、どちらかというと逆で、昔の自分みたいな人に届けたいから書いている気がします。書くついでに活動をしているのではなくて、活動が先というか」
──そうだったのですね。短歌を書くことで感受性を取り戻されて、それで心に余裕が生まれたから社会的な活動にも目がいかれるようになっただと勝手に思い込んでいました。
「それもそうなのかも? でも、二十数年ずっとつらくて、それが割とマシになったとき、もうやることないんですよ。それまではマイナスをゼロにするために生きていたから、ゼロになっちゃうともうやることがなくて。マイナスをゼロにする生き方しか知らないから、自然に『じゃあ、今マイナスの人のために何かできることあるかな』となりました」
──今後、若者に向けた活動でやってみたいことは何かありますか?
「なんか若者向けって言葉、ある種おこがましいところがあって。しなこさんが10代向けに講演してくれたらみんなめっちゃうれしいだろうけど、私は今そんなに10代に人気があるわけじゃないから、そういう奴が何を言っても基本はやっぱり『うるさい、頼んでねぇよ』って感じだと思うんですよ(笑)。まず10代の人にある程度認めてもらうほうが先かなという気はしています。本当に力になりたいんだったらお金を配ったり、ごはんをあげたり、または教育に私が身銭を投資したほうがいいじゃんっていう話もあるから難しいんですが、いつか10代に向けた本は、何かのかたちでつくりたいです」
──個人の財力でできることには限界がありますし、一冊の本のほうが多くの人を救うような気がします。
「ですかね。私は10代の頃、結構マジで『同情するなら金をくれ』って思っていたし、きれいごとでなんとかしようとしてくる大人がすごい好きじゃなかったからかもしれないですけど、自分が10代と接するときにそうなりたくない気持ちがすごくある。難しいなと思いながらやっていますが、いつか本にできたらいいですね」

全てがオンにもオフにもなる物書きという仕事
──『第50回静岡県高校生文芸作品コンクール作品集』に寄稿された文章の中で、「文芸を続けるために、そしていい作品をつくるために一番大切なのは、まずは自分の人生をちゃんとやって、楽しんで、心に余裕を作っておくことだと私は思う」と書かれていましたが、心の余裕を保つために意識されていることは何かありますか?
「生活を整えたりするのも、すごく大事だと思うんですけど、自分があんまり得意じゃなくて」
──早起きができないとエッセイにも書かれていましたよね。
「できないですし、丁寧に暮らせていないので、本当に生活はもうちょっとちゃんとしたいなと思っています。あとは、今の社会でちゃんと人生をやるためには、嫌なことに嫌だって言うことなんじゃないかな。不当な扱いを受けたときに『これは失礼じゃないか?』って話し合うとか、嫌だったときにちゃんと人とぶつかることを疎かにしたこと、私は一度もないなと思って。生活には自信ないですけど、それには自信あります。
今の社会っていくら『これ、嫌です!』と言っても届かない苦しみもあるけど、だからこそますますちゃんと怒ることってすごい大事だなと思うし、それがひいてはちゃんと生きることにつながるなと思います」
──創作をする上でのインプットと、オフの時間の物事は完全に切り分けていますか? それとも明確な線引きはなかったりしますか?
「意識的にはあんまり分けてないかもしれないですね。仕事で知ったことがプライベートで何かを決断するときに参考になったり、プライベートで起きたことが急につながってエッセイになったりすることはあると思います。むしろオフなのは家でひとりでタバコを吸いながらスマホゲームをしているときだけで、それ以外は全部オンかも……」
「こういう仕事だし、そういう性格なのかも。歌人の友だちと、冗談で『歌人ってランボルギーニの短歌を作ったら、ランボルギーニを経費で落とせるのかな?』『落ちるんじゃない』っていう話をしたことがあります。面白いですよね、物書きって。いろんなことが仕事であり、プライベートになるから」
──ご自身の創作の糧にしようと意識して何かをインプットすることはありますか?
「これ、人に話したことがないから伝わるかどうかわからないんですけど、自分の中には『子どもスイッチ』みたいなものがあって。そのスイッチを入れてインプットをすると、全てのことに対して感受性120%の状態でめちゃくちゃ吸収できるんですよ。そういうスイッチを意図して入れるときもあれば、勝手に入っているときもある感じです。
短歌って31文字だから、別に読むだけだったら1秒で済むじゃないですか? だけど『この助詞がこうなっているからこうだ』『季節は春なんじゃないか?』『この後、主人公はこうなったんじゃないか?』とかって読んでいくと、31文字読むのに例えば3時間あっても足りない。
だから本当は良いインプットって、何を読むかよりも、自分の解像度次第なのかもしれないですよね。スイッチ入れてばかりだとすごく疲れますけど……」

『会社ではおならをしてはいけません』
愛すべき友人との心温まるエピソード、初めての挑戦で得た気づき、生きづらい世界の中でも光る人のいとなみの尊さ。各種メディアへの出演も多数の今をときめく歌人・エッセイストである上坂あゆ美が、日々のつれづれを書き綴った連載が待望の書籍化! 時に愉快で、時に心の奥底にさざ波を生む、さながらふと立ち寄った喫茶店で、傍らから聞こえてくる話に耳を傾けるような読み心地の傑作エッセイ。
著者/上坂あゆ美
発売/2026年6月18日
価格/¥1,760
発行/双葉社
Photos:Shingo Kanagawa Interview & Text:Miki Hayashi Edit:Mariko Kimbara
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