約3年9ヶ月の時を経て、完全体として帰還したBTSがワールドツアー『BTS WORLD TOUR ‘ARIRANG’』で、7年ぶりの日本公演を実現。4月17日(金)・18日(土)、東京ドームで繰り広げられたのは、“再会”を超えた新章の提示だった。進化した7人と会場の熱狂を、余すことなくレポートする。

やっとこの日がやってきた。——それは遡ること、2022年6月14日。デビュー9周年を記念した配信「真・防弾会食」にて、BTSは兵役義務のためグループ活動の一時休止について語った。コロナ禍のなかで発表された『Dynamite』『Butter』といった英語楽曲は次々と世界のチャートを席巻し、彼らの人気は名実ともにグローバルなものへと拡大していった。しかしその裏側で「自分たちは何者なのか」という問いもまた、彼らの中に芽生えていた。動画内でリーダーのRMは「『Dynamite』までは自分の手に届くところにあったけれど、『Butter』の後、『Permission to Dance』まで来たとき、自分たちがどんなグループなのか分からなくなった」と語っている。同時に韓国のK-POPシーンは常に新たなグループが誕生し続ける過酷な競争の場でもある。そうした状況のなかで、2025年に再び7人で戻るという未来を見据えながらの活動休止は、彼らにとって不安と覚悟を抱えた決断だったように思う。

同年6月10日にリリースされた『Yet To Come』に、こんな歌詞がある。
「그날을 향해(あの日に向かって)、더 우리답게(もっと僕達らしく)、You and I, best moment is yet to come(君と僕の最高の瞬間はこれからだ)」
BTSがこの楽曲に込めたのは、自分たちらしさを問い直し大切なものを見失わないための宣言でもあった。その後、7人全員が兵役期間を終え、2026年3月20日、The 5th Album ‘ARIRANG’を発表。韓国ソウル・光化門広場で行われたカムバックライブで、約3年5ヶ月ぶりとなる完全体のステージを披露した。『ARIRANG(アリラン)』とは、韓国に古くから伝わる民謡のひとつであり、離別や郷愁、そして再会への願いを象徴する楽曲として長く語り継がれている。ツアータイトルにもこの名を掲げたことは、離れ離れの時間を経て再び集結した7人、そして彼らを待ち続けたファンとの関係性、“別れと再会”を内包する『アリラン』の精神と深く重なっている。『ARIRANG』の名を掲げたワールドツアーは、韓国・コヤンでの3日間を経て東京へ。BTSにとって、日本公演は約7年ぶりの開催となる。
BTSであることを更新する夜
開演前の会場には、韓国の民謡が流れていた。再会の瞬間を待ちわびるファンたちのざわめきが、次第に熱を帯びていく。ステージは360度構造で、4方向へと伸びる花道で構成されていた。開演時間15時に場内が暗転。新曲『Hooligan』のイントロが鳴り響くと同時に、赤いフラッグを手にしたダンサーがステージ中央へと駆け込み、BTS帰還の合図を告げた。そして7人は、その花道から姿を現す。ブラックの衣装に身を包み、強さを象徴するスタイルで登場した。「このビートが暴れまくる」といった歌詞と共に、会場を盛り上げる。

その後、韓国文化や個性の違いを謳う新曲『Aliens』、2022年アルバム『Proof』より『달려라 방탄(Run BTS)』、新曲『they don’t know ‘bout us』『Like Animals』、2018年リリースの人気曲の一つ『FAKE LOVE』と、序盤から畳みかけるようなパフォーマンスで観客を圧倒した。BTSの魅力のひとつは、メンバー自らが楽曲制作を手掛けている点にある。今回のアルバムは、アメリカ・ロサンゼルスで数ヶ月にわたり共同生活を送りながら制作されたもの。互いに向き合い、再び“7人である意味”を問い直す中で生まれた楽曲たちは、彼ら自身が求めた変化を色濃く映し出していた。

苦しかった日々から、BTS「2.0」の新境地へ
白い布に囲まれたステージで披露したのは、今回のリード曲である『SWIM』。泳ぎ続けること、すなわち立ち止まらず進み続ける意志を示すこの楽曲は、これまでの彼らの歩みと強く重なり合う。続いて披露された新曲『Merry Go Round』では、「僕の人生はまるでメリーゴーランドだ」と歌いながら、壊れていく感覚や、自ら速度を緩めることのできない焦燥が描かれる。回り続ける日々の中で感じてきた葛藤や苦しさ。その気持ちも正直に隠すことなく表現し、同時にそれも自分たちの一部として受け入れるという思いが込められているように感じた。

白に包まれた世界のまま、7人は一度ステージを後にする。しばらくして水滴の映像が織りなす清らかなサウンドから一転、炎が立ち上がりステージは赤を基調とした熱を帯びた空間へと変貌する。青と赤、それぞれ異なる色を纏ったダンサーたちが交差し、まるで過去と未来が交わるかのような構図を描き出す。やがてひとつへと収束していくその流れは、BTS自身の軌跡とも重なる。そこで披露したのは新曲『2.0』と『NORMAL』。そのタイトル通り、新境地への挑戦を示した一曲だ。
メンバーのSUGAはApple Musicに「僕たちはこれまでの流れを変えて、思い切った変化を起こしたかった」と語っている。続く『Not Today』『MIC Drop』『FYA(新曲)』『Burning Up(FIRE)』をテンポの速いリミックスによって、ライブのボルテージは最高潮に。これまでの楽曲を新しいBTSのリズムに乗せて、7人とファンが一体となった熱気に溢れた。

記憶は心に刻む。日本公演ならではの景色
「熱気がすごいですね、ARMY(BTSファンの呼称)のエネルギーがすごい」と笑顔で語ったのは、Jin。ほかのメンバーたちも、それぞれに会場の盛り上がりへの感想を口にし、再会の喜びを噛みしめるように言葉を紡いでいく。

次に披露したのは新曲『Body to Body』。その一節に「スマホを置いて、全力で楽しもう」という歌詞がある。海外公演と日本公演とでは、ひとつ大きな違いがある。海外ではライブ中の撮影が許可されており、多くの観客がスマートフォンを手にステージを記録しながら楽しんでいる。一方、日本では撮影が禁止されているため、観客の視線はすべてステージへと注がれる。その分、7人に向けられる熱量はより高いものとなり、この場所でしか生まれない一体感を生み出していた。

続いて2018年リリースの楽曲『IDOL』が流れると、メンバーたちはメインステージを降り、会場を巡りながら、遠くのファンにも手を振り視線を交わしながら一体となって歌い上げた。その距離の近さが、再会の実感をより強く引き寄せていた。そしてそのまま、7人は舞台袖へと姿を消す。
ここから始まるのは、ライブ恒例の“ARMY TIME”。客席ではファンたちが手作りのメッセージカードを掲げ、その想いが次々と大画面に映し出されていく。「7人で帰ってきてくれて本当にありがとう」「イルアミは心にREC(記憶)」「ワールドツアー完走祈願」「次はOSAKA来てや~」など、7年越しのメッセージを直接届けた。

「東京に戻って来れてよかった」BTSとファンの絆
BTSとファンの絆を象徴する紫色に会場が染まる中、再びステージに姿を現した彼らが選んだのは、今回のアルバムのDeluxe Vinyl(限定アナログ盤)にサプライズ収録された『Come Over』。SUGAがプロデュースを手がけ、RMとj-hopeも制作に参加したこの楽曲には、忙しない日々や孤独な夜にこそファンに頼り、寄り添いたいという、率直な想いが込められている。完璧な存在であるだけでなく、弱さや傷ついた感情さえもさらけ出す。そんなBTSの姿勢が、純粋に伝わってくる一曲だ。
その後は大ヒット曲『Butter』『Dynamite』を披露。サイドステージまで走りファンたちと飛び跳ねながら楽しんでいるメンバーの姿があった。ここからは、公演ごとに2曲が日替わりで披露される特別なセクションへ。どの楽曲が流れるかはメンバー自身も直前まで知らされていないという、まさにサプライズ演出だ。18日公演では、2015年リリース曲『DOPE』、2016年に初となる日本オリジナルソングとして発表した『FOR YOU』が流れ、懐かしい楽曲に会場からは歓声が広がった。

最後に一人ずつファンへの思いを告げた。
Jung Kook「今日もARMYの声と歓声、幸せそうな表情のおかげで、たくさん元気をもらえた気がします。本当にありがとうございます。また会える時にはもっと成長して戻ってきます。いつも待っていてくれて、本当にありがとうございます。愛しています」
Jin「今日は日本で最終日の公演となります。僕たちメンバーがたくさん心配していました。緊張してしまったらどうしようと思っていたんです。でも昨日来てくれたARMYの皆さんが楽しんでくれて、メンバーと夜ご飯を食べたときに幸せで嬉しかったと話していました。多分今日も同じような話をしようと思うのですが、皆さんのおかげでこれからのツアーも楽しめると思います。ありがとうございます」
Jimin「昨日僕が話しましたが、日本語全部忘れてしまったので、僕から手紙があります。大切なARMYの皆さんへ。皆さんを前にすると頭の中が真っ白になってしまうので、こうして手紙を書くことにしました。今日は楽しかったですか? 僕たちが軍隊に行っている間に忘れてしまっているかと心配しました。でも皆さんとお会いしてその心配はなくなりました。2日間だけだったのであっという間に過ぎてしまいましたね。でも皆さん、本当に今日は最高でした」
V「今日は本当に幸せでした。本当にARMYのみんなに会いたかったですが、ARMYが送ってくれたエナジーが僕にとっては大きな力になりました。このエネルギーのままツアーを安全に回って日本に戻ってくるので、少しだけ鉄板焼きなどを食べて待っていてね(笑)。僕が日本で有名な単語を覚えました。『好きすぎて滅!!』あと、この言葉を覚えているかわからないけど……『紫するよ!』」
RM「僕は映画館で映画を観るのが好きです。一つの作品に集中するのが好きなんです。今はどこにいてもスマホを見てしまう時代ですよね。だから東京ドームに来ることを知って、すごく楽しみでした。スマホでなく自分達の目で見てくれました。とても嬉しかったです。まるで映画を見ているようで、今日は映画の主人公になれました。本当に忘れません、ありがとうございました。どこに行っても恋しくなると思います。本当に愛しています」
SUGA「7年ぶりグループでの公演になります。3年前のソロツアーで来た時と感じ方が違うように感じます。久しぶりのグループ公演ですが、男性のファンが増えているような気がしました。歓声が低い感じがしますね、いいですね。男性の方だけ叫んでもらえますか?——これは気のせいではなかったですね。本当に久しぶりに東京ドームに来て、本当に楽しかったです。これから頻繁に来たいと思います。本当に皆さんお疲れ様でした、ありがとうございました」
j-hope「今素直に伝えたいことは、ツアーのスタートを東京で迎えられて嬉しかったということです。反応が想像以上で本当に感動しました。マジで(笑)。約束します、また必ず戻ってきます。その時は今日以上に楽しい時間を過ごしましょう。愛しています」
ラストに選ばれたのは、新曲『Please』『Into the Sun』。幻想的なハーモニーが広がり、ライブの締めくくりにふさわしい、優しく包み込むような曲調が会場を満たした。『Into the Sun』はVも作詞・作曲に参加した。ゆったりと流れるギターの音色や口笛が重なり、太陽という光へ向かって再び歩き出す7人の姿が浮かび上がる。最後は会場に手を振り、ライブは幕を閉じた。

サイドステージで笑顔を見せながら、楽しそうにダンスし、歌う姿を見て、彼らもまた等身大の一人の人間なのだと感じた。完璧であることに固執するのではなく、アルバムからも伝わるように、落ち込むこともあれば苦しむ瞬間もある。その感情を隠さず、音楽として差し出す彼らの姿勢こそが、これからの時代を生きるうえでのひとつのメッセージになっているのではないだろうか。
またこの日その場にいたファンだけでなく、ライブに来ることができなかった何十万人ものファンがいることも忘れてはいけない。画面越しに想いを重ねた人、同じ時間に別の場所で耳を傾けていた人、それぞれが異なるかたちでこの瞬間とつながっていたはずだ。このツアーはこの後、北米(ロサンゼルス、ラスベガスなど)をはじめ、アジア、ヨーロッパ、南米と世界34都市・85公演を巡る。そして2027年3月から4月にかけて、再び日本の地へと戻ってくる予定だ。終わりではなく、これは新しい始まり。7人が歩き出したその先で、また新たな物語が紡がれていく。
Text:Saki Shibata
