死後の世界の儚き美 ——「ユウショウコバヤシ」の哲学に迫る | Numero TOKYO
Fashion / Editor's Post

死後の世界の儚き美 ——「ユウショウコバヤシ」の哲学に迫る

なぜ、今にも壊れてしまいそうなかわいらしさに、これほどまでに惹きつけられるのか。そんな感覚をふと呼び起こしたのが、「ユウショウコバヤシ(yushokobayashi)」による2026-27年秋冬コレクション。同ブランドはRakuten Fashion Week TOKYOに初参加し、ランウェイ形式でその世界観を提示した。

私がこのブランドに出会ったのは、原宿のセレクトショップ「SHEEP」だった。新進気鋭のブランドが並ぶその場所は、ファッションへの入り口のようであり、訪れるたびに小さなときめきを与えてくれる。そこで初めて目にしたユウショウコバヤシの服は、レースや布が重なり合い、ニットが繊細に編み上げられていた。同じ造りのアイテムが一つとしてないその服を見て、あたたかさとただ純粋に、「かわいい」と感じたことを記憶している。

ラフォーレ原宿1Fの「SHEEP」
ラフォーレ原宿1Fの「SHEEP」

しかし、その“かわいらしさ”の内側にあったのは、「死」や「別れ」といった決して軽やかではないテーマだった。デザイナーの小林がここ数シーズンにわたり描いてきたのは、一貫して「喪失」とそれにまつわる記憶や感情である。2025年春夏ではゴシックホラー小説『カーミラ』を着想源に「死」を多面的に捉え直し、続く2025年秋冬では映画『パストライブス』から人との出会いと別れを表現。そして2026年春夏ではチェコで目にした操り人形「マリオネット」から着想を得て、そこに潜む「怒り」という感情を掘り下げている。


2026年春夏コレクションより
2026年春夏コレクションより

そうして積み重ねられてきた別れをめぐる物語は、今季より密やかな痛みを帯びて深化していく。着想源となったのは、古代ギリシア神話の「オルフェウス」。最愛の妻を取り戻すために「決して後ろを振り返ってはいけない」という約束のもと冥界へ下ることを許されたが、彼女の顔を見たいがためにその禁忌を破って再び失ってしまう——その普遍的な悲劇が、ショー全体の構造に組み込まれている。

ショーの舞台は“死後の世界”をイメージし、空間には不穏な雰囲気が漂う。天井には小林自身がパッチワークで制作した大きなカーテンを吊るし、「誰かの記憶の中の家」を表現した。ステージ中央には棺を思わせる白い布に覆われた台が置かれ、その周囲を色とりどりの花が取り囲んでいる。心地よさと不安が同居する、夢の中に取り残されたような感覚だった。

今回コレクションを包み込んだのは、淡いパステルカラー。現実世界では鮮やかなはずの色彩は、思い出の中で再生されることでトーンが落ち、やわらかく褪せていく。まるで時間の中で少しずつ摩耗していく記憶のように、色は確かさを失いながらも、確実にそこに留まり続ける。モデルたちは虚ろな眼差しで、言葉にならない不安を抱えたままランウェイを彷徨うように歩いた。

ブランドを語るうえで特筆すべきは、ニットや刺繍、パッチワークなど、そのすべてが手作業によって生み出されている点だろう。工場を持たず、1シーズンに400〜500点というピースを制作するそのプロセスは、量産という概念からはかけ離れている。効率ではなく“手触り”を大事にするそれらの服には、一点ごとに異なる表情が宿る。

子どもの頃のスケッチブックを切り取ったかのようなテクスチャーは、布と布の間に用いる接着芯をアルミに置き換えることにより生み出したものだという。ニットやキルティングといった柔らかなイメージを持つブランドだが、あえてハードな要素を差し込むことで新たな緊張感が立ち上がる。硬さを備えながらも紙のように見えるその生地は、触れた瞬間に崩れてしまいそうな儚さを孕んでいる。


さらに、今季を象徴するモチーフとして登場したのは、小林が「デスリボン」と呼ぶ大ぶりのリボンだ。ヘッドピースは、ハットブランド「キジマタカユキ(KIJIMATAKAYUKI)」とのコラボレーションによるもの。「可愛いけれど脆い、“死んだリボン”を作りたかった」と語る通り、一般的に“かわいい”の象徴であるリボンに違和感や歪みを重ねることでそのイメージを揺さぶる。ここでの可愛らしさはもはや表層的な装飾ではなく、傷や記憶を包み込むための装置として機能しているかのようだ。

ショーの終盤に差し掛かると、手をつなぎ合った2人のモデルがランウェイに逆行するように歩みを進め、「振り返ることができない」という緊張感が空間を満たしていく。やがてオルフェウスの神話をなぞるように、最後の瞬間、彼女は振り返ってしまう。その一瞬をもって物語は静かに終わりを迎え、ショーは幕を閉じた。

「決して振り返ってはいけない」という神話の禁忌は、見えないものを信じ続けることを要求する。しかし人は、その不確かさに耐えきれず、思わず振り返ってしまう。そこにあるのは裏切りではなく、むしろ愛ゆえに“確かめたい”という欲望だ。

だからこそこのコレクションは、喪失を描きながらも、どこか切実な温度を帯びている。見てはいけないものを見てしまう、その不可避の欲望の中にこそ、愛が最も純粋なかたちで現れることを示しているかのようだ。

小林は次のように言葉を添えた。

——たった一つの簡単な約束であったとしても、時に人は欲望に負けて破ってしまう。人は弱い。その脆さと傲慢さの中にある僅かな光を、私は美しさと呼ぶ。

少女の美しさは、その僅かな光を必死に見つけようとする行為そのものに宿っているのかもしれない。完成された美ではなく、揺らぎの中にだけ立ち上がる儚さと強さに、私たちは惹かれてしまうのだろう。

Text:Makoto Matsuoka

Profile

松岡真琴Makoto Matsuoka ジュニア・エディター。大学時代に出版社でのインターンやファッションメディアのライターを経験し、傍らスタイリストmidoriに師事。2024年『Numéro TOKYO』に参加。夢だった仕事ができる今に感謝し、精進の日々。趣味は食べることと日記を書くこと。
 

Magazine

MAY 2026 N°196

2026.3.27 発売

Wearing Me

私を語る服

オンライン書店で購入する