オスカー主演女優賞、ジェシー・バックリーが放つ怒りと欲望の爆演フルスロットル『ザ・ブライド!』
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オスカー主演女優賞、ジェシー・バックリーが放つ怒りと欲望の爆演フルスロットル『ザ・ブライド!』

『ハムネット』(2025年/監督:クロエ・ジャオ)の名演で、第98回アカデミー賞の主演女優賞に輝いたジェシー・バックリー。その日本公開(4月10日)を前に、もう一本の強烈な主演作がわれわれのもとに届いた。それが人気俳優として知られるマギー・ギレンホールの監督第2作『ザ・ブライド!』だ。

世界に噛みつく“花嫁”誕生。パンクな怪奇ロマンスの逆襲!

バックリーは、ギレンホールの長編監督デビュー作『ロスト・ドーター』(2021年)にも出演した盟友同士(ちなみに『ハムネット』でウィリアム・シェイクスピア役を演じたポール・メスカルも『ロスト・ドーター』組だ)。今回のバックリーが演じるのは“フランケンシュタインの花嫁”。メアリー・シェリーが1818年に発表したゴシック小説の古典『フランケンシュタイン』を、ギレンホール自ら再解釈して、オリジナル脚本を執筆。墓場から蘇り、怒りと欲望をむき出しにして世界へ噛みつくヒロインという、いま最も豊かな感情表現と強靭な存在感を併せ持つ俳優にふさわしい役をバックリーに託した(序盤に登場する原作者メアリー・シェリーもバックリーが演じている)。ギレンホールの作風は『ロスト・ドーター』の繊細な心理劇から一転、本作では怪奇ロマンス、ブラックコメディ、ギャング映画、さらにはフェミニズム神話の再構築までを飲み込む奔放なジャンル混成作へと踏み出した。その中心にバックリーという爆発的なエネルギーを据えている。

物語の舞台は1930年代のシカゴ。自らを創造した博士の名前を名乗って生きる人造人間の“フランク”ことフランケンシュタイン(クリスチャン・ベール)は、“怪物”として人々から忌み嫌われ、孤独な日々を送ってきた。そんな彼は高名な研究者ユーフォロニウス博士(アネット・ベニング)に「伴侶を創ってほしい」と懇願する。 博士は事故死した女性アイダ(ジェシー・バックリー)の遺体を掘り起こし、彼女を“ブライド(花嫁)”として蘇らせる。しかし復活したブライドは、怒りと混乱と異様な生命力を抱えた存在だった。

やがてこの新奇なカップルはある事件をきっかけに追われる身となり、シカゴの街を警察やギャングから逃げ回る逃避行へと展開する。怪物と花嫁──ふたりの暴走は、愛の物語であると同時に、抑圧された声が世界を揺さぶる寓話として響き始める。

本作は『フランケンシュタイン』の二次創作には違いないが、最大のベースになったのは1935年の映画『フランケンシュタインの花嫁』(監督:ジェームズ・ホエール)だ。ボリス・カーロフ主演の1931年の映画化がヒットして、原作にはない怪物の花嫁を登場させた続編。ただしこの映画での花嫁の出番は終盤の数分ほど。それを『ザ・ブライド!』では視点を大胆に反転させる。怪物ではなく“花嫁”こそが物語の中心であり、彼女の怒り、欲望、言葉が世界を動かす原動力となる。しかもジェシー・バックリー演じるブライドは、DCコミックスのハーレイ・クインばりのパンクなキャラクター。「そうしないほうが好ましい(I would prefer not to)」を決め台詞として、自由意志と反抗を貫こうとするブライドは、死者の身体に宿ったメアリー・シェリーの魂のようでもあり、男性社会に押し込められた女性たちの集合的な叫びのようでもある。

対するフランケンシュタインは、ボリス・カーロフの怪物像を思わせる不器用な優しさをまとい、ブライドの暴走と共鳴しながら逃避行へと踏み出す。ふたりの関係は『俺たちに明日はない』(1967年/監督:アーサー・ペン)などで描かれた、1930年代に実在した伝説の強盗カップル、“ボニー&クライド”を連想させる犯罪ロマンスのパロディであり、同時に疎外されたマイノリティ同士の連帯という寓意も装填されている。

ジェシー・バックリーは『ロスト・ドーター』での不安定な若い母親役、そして『ハムネット』での深い洞察力と悲しみを抱えた(さらに歴史的評価のうえで“悪妻”のレッテルを貼られ続けてきた)謎多き文豪のパートナーなど、既存の社会的規範に収まらない規格外の女性像を演じ続けてきた。本作のブライドも同じラインにあり、彼女の身体表現と声の力は、ギレンホールの演出を支える最重要の柱となっている。特に上流階級の舞踏会で彼女が痙攣し、叫び、踊り狂うシーンは、女性の身体が歴史的に押し込められてきた“正しさ”を破壊する瞬間として鮮烈だ。バックリーがいなければ、この映画は成立しなかったと言っていい。またギレンホールは女性が抱える不満や欲望を、心理劇ではなく怪奇映画の形式に託すことで、より直接的で、より野蛮で、より解放的な表現へと押し広げている。

もちろんW主演のジェシー・バックリー、クリスチャン・ベールだけでなく、ピーター・サースガード、ペネロペ・クルス、アネット・ベニング、そしてフランケンシュタインが憧れるミュージカル映画のスター俳優、ロニー・リードを演じるジェイク・ギレンホール(言うまでもなく、マギー・ギレンホール監督の実弟)など、脇にも名優をそろえた鉄壁の布陣によるアンサンブルは見応えたっぷりだ。『ジョーカー』(2019年/監督:トッド・フィリップス)やその続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(2024年)などで知られるローレンス・シャーによる撮影は、IMAXカメラを使用しており、B級的なキッチュ色を打ち出すと同時にダイナミズムあふれる映像表現を実現している。ちなみにブライドの生前の名前である「アイダ」と、ズラッコ・ブリッチ演じる犯罪組織のボス、「ルピノ」を合わせると、往年の大女優アイダ・ルピノとなる──といった小ネタも含め、ギレンホール監督による脚本はマニアックな情報満載だ。

なお、原作者のメアリー・シェリー(1797年生~1851年没)は、不当にも“詩人パーシー・シェリーの妻”という副次的な座に長年甘んじていた史実の経緯があり、『フランケンシュタイン』は最初匿名で発表することを余儀なくされた。男性優位社会に抑圧された彼女の苦悩や葛藤については、『メアリーの総て』(2017年/監督:ハイファ・アル=マンスール)をぜひご覧いただきたい。

『ザ・ブライド!』

監督/マギー・ギレンホール(『ロスト・ドーター』)
出演/ジェシー・バックリー、クリスチャン・ベール、ピーター・サースガード、アネット・ベニング、ジェイク・ギレンホール、ペネロペ・クルス
絶賛公開中
https://thebride-movie.jp/

配給/東和ピクチャーズ・東宝
©2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人 Naoto Mori 映画評論家、ライター。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。『週刊文春』『朝日新聞』『TV Bros.』『シネマトゥデイ』などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。
 

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