解放はデザインの中にある——2026春夏コレクションが更新する女性像 | Numero TOKYO
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解放はデザインの中にある——2026春夏コレクションが更新する女性像

女性を解放してきたのは、服の構造やシルエットの小さな変化。ガブリエル・シャネルがコルセットを外した瞬間から、デザインは身体や役割、美の前提を静かに更新してきた。そして26SS。解放は再び声高に語られるのではなく、シルエットや素材、着方の選択として、現代のコレクションに刻まれている。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年4月号掲載)

 

「エフォートレス」「フェミニン」「マスキュリン」……私たちは日々、気分によって、時にはトレンドを考慮したりしながらどんなイメージの服装にするか悩んでいる。しかし、それは当然のことではない。こうして自由に選択できているのは、偉大なデザイナーたちによる改革のおかげなのだ。

 

ガブリエル・シャネル。シャネル創業者。コルセットを廃し、女性の身体を自由へと導いた20世紀モードの革新者。
ガブリエル・シャネル。シャネル創業者。コルセットを廃し、女性の身体を自由へと導いた20世紀モードの革新者。

左:ジャージー素材のベルト付きセーラーシャツ © Aflo 右:リトル ブラック ドレス © Aflo

ガブリエル・シャネルは、20世紀初め、当時の女性には珍しく乗馬をはじめ、ゴルフやスキー、ヨットや釣りなどのスポーツやレジャーに興じる生活を送っていた。自身もパンツを纏い、作家、ポール・モランによる回想録『L’Allure de Chanel』(1976)では「スポーツ服を作ったのは自分のため。他の女性たちがスポーツをしていたからではなく、私がスポーツをしていたから」と語っているが、13年、それまで肌着向けの素材と考えられていたジャージー製のスポーツウェアを発売。男性用の服の快適さや簡潔で品格のあるデザインに注目して、23年には紳士服の生地とされていたツイードを使用した。26年には、装飾を取り払い、機能美を極めたリトル ブラック ドレスを発表している。

ツイードジャケットを纏ったガブリエル・シャネル © Getty Images
ツイードジャケットを纏ったガブリエル・シャネル © Getty Images

 

当事者としての経験からウィメンズウェアの快適さを追求したデザイナーには、マドレーヌ・ヴィオネもいる。12年、パリでメゾンを設立した彼女は、20年代初頭、布地の織り目に対して斜めに裁断するバイヤスカットを開発。まだ多くの女性がコルセットを身につけていた時代に、ドレープが流れ、身体に自然に沿うシルエットを作り上げた。

第二次世界大戦中節制を強いられていた反動で、40年代後半は華やかで身体のラインを強調する「女性らしい」スタイルも支持を得ていたが、50~60年代、ウーマンリブの盛り上がりも手伝って、「男性目線」を意識するというよりもファッションを楽しもうとするマリー・クワントのようなデザイナーも出現する。彼女はロンドンのストリートで見られていた短いスカートにヒントを得て、脚を大胆に露わにするミニスカートをデザインした。

イヴ・サンローラン。自身の名を冠したメゾンを設立し、女性服に革命をもたらしたクチュリエ。
イヴ・サンローラン。自身の名を冠したメゾンを設立し、女性服に革命をもたらしたクチュリエ。

左:サファリルック © Aflo 右:「ル・スモーキング」 © Getty Images

66年にユースカルチャーの拠点だったパリ・セーヌ川左岸にクチュリエとして初めてプレタポルテのショップ「サンローラン リヴ・ゴーシュ」をオープンしたイヴ・サンローランも、女性たちの意識をしっかり掴んでいた。タキシードを元にした「ル・スモーキング」(66)、パンツスーツ(67)、サファリルック(68)では男性の服を女性の身体に美しくフィットするようデザイン。イヴのパートナーだったピエール・ベルジェが言ったように、「シャネルは女性に自由を与え、イヴ・サンローランは力を与えた」。

川久保玲。コム デ ギャルソン創設者。既成概念を覆す表現で世界に影響を与える前衛的デザイナー。
川久保玲。コム デ ギャルソン創設者。既成概念を覆す表現で世界に影響を与える前衛的デザイナー。

左:97年春夏「ボディ ミーツ ドレス・ドレス ミーツ ボディ」 © COMME des GARÇONS 右:83年春夏「パッチワーク」 © Getty Images
 

こうして女性が快適さを獲得し、性別を乗り越えて自由になる土台が固められた81年、世に打って出たのがコム デ ギャルソンのデザイナー、川久保玲だ。ボディコンシャスなシルエットやカラフルで楽観的なムードが席巻していたパリ ファッション ウィークで身体のラインを覆い隠し、黒をメインとしたダメージ加工を施した服を発表し、「黒の衝撃」と称されて話題を呼んだ。以降もあちこちに「こぶ」を形づくった97年春夏「ボディ ミーツ ドレス・ドレス ミーツ ボディ」をはじめとして、「美」とは何か、「服」とは何か、といったより根源的な問いを投げかけ続けている。

 

ミウッチャ・プラダ。プラダの共同クリエイティブ・ディレクター。ミュウミュウも率い、知性と批評性を備えたモードを提示し続ける。
ミウッチャ・プラダ。プラダの共同クリエイティブ・ディレクター。ミュウミュウも率い、知性と批評性を備えたモードを提示し続ける。

左:96年春夏 右:95年春夏

現在も進化を続けるナイロンバッグ¥352,000(予定価格)
現在も進化を続けるナイロンバッグ¥352,000(予定価格)

70年代半ばから、祖父が設立したブランドに参加したミウッチャ・プラダも既成概念を壊したいと考えている。84年に工業用のナイロンでバックパックを製作して高級素材が溢れるラグジュアリーの世界の常識を覆し、悪趣味の中にシックさを見出そうとした96年春夏コレクションを筆頭に、一面的な見方に反抗し、相反する要素を融合させたり複雑さを提示して多様な人々が自分らしくいられるための服を提案している。

男性の理想に沿うしかなかった女性たちは、快適さや機能性を追求し、男性に対抗する力を得てようやく自由を勝ち取った。今や、男性/女性のカテゴライズ自体に疑問を呈する時代。「男性」の呪縛から放たれた私たちは、多様な表現ができるようになっている。

2026春夏コレクションが描く解放のかたち

2026SSコレクションで新たな表現へと更新された、女性解放へと導くデザイン。その思想を4つのキーワードに分け、読み解いていく。

 

1. メンズウェアの要素を取り込む

シャネルは創業者、ガブリエル・シャネルに注目。彼女の装いから着想を得てマスキュリンなスーツや、フランスの老舗シャツメーカー、シャルべと共同制作したシャツを発表した。ステラ マッカートニーは得意のテーラリングを駆使。男性的でもあり、女性的でもある、二面性を持つ存在を表現している。アクネ ストゥディオズはメンズ、ウィメンズそれぞれの典型を分解し再構築することで中性的で力強い、自信に満ちた人物像を描いた。もはや「メンズウェアの女性版」ではない。自由な発想による双方の融合が見られる。

 

2. 服と身体の新しい関係性

バレンシアガはアーカイブを参照。アイコニックな生地をアップデートし、服と身体の間に空気をはらませたフォルムを実現させている。ロエベは、ブランドが誇るレザーの加工技術を活用。スキューバダイビング用のスーツに着想を得てネオプレンにナパレザーを接着し、ハンドペイントを施したドレスはまるで彫刻のような仕上がりに。一方構築的な作りを最小限にとどめたプラダは、揺れ動くブラトップなどを登場させている。身に沿わない服が窮屈さからの解放に加え、遊び心や、典型的なアイテムの再解釈の表現に。

 

3. 女性の強さを表現するための肌見せ

女性の強さを探求し、テーラリングをベースとしたジバンシィ、南フランス・プロヴァンス地方にある広大な湿原地帯、カマルグを自由奔放に駆ける女性騎手たちを思い描いたエルメスでは、肌を見せることで軽やかさや解放感を引き出した。マックス マーラは、ルイ15世の公妾、ポンパドゥール夫人をイメージ。平民出身ながら、その才知と美貌によって影響力を自らの手で築き上げた彼女の姿勢が大胆な肌見せにリンクしている。そこには、周囲の関心を集めるためではなく、自らの意志で堂々と身体を露わにする姿勢が。

 

4. 既成概念に立ち向かう

コム デ ギャルソンは、「自由やお互いを思いやることがなくなりそうな異様な世界の中で、何か強いことをしなくてはならない」と考え、完璧なオブジェのような服を、あえて洗ってダメージを与えたルックを発表。ミュウミュウは女性たちの「仕事」に焦点を当て、その象徴とも言えるエプロンをランウェイの主役に。サンローランは、ショーの後半でラッフルで覆われた華やかなドレスに鮮やかな色に染めた薄手のナイロンを用いた。モード界の革新者たちは、今もファッションの常識にとらわれることなく、新鮮な表現を続けている。

Text & Illustration:Itoi Kuriyama Edit:Shiori Kajiyama

 

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