バービー × しんめいP 対談「私らしく生きるための東洋哲学」 | Numero TOKYO
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バービー × しんめいP 対談「私らしく生きるための東洋哲学」

悩める思春期に哲学に興味を持ち、大学ではチベット密教を学んでいたフォーリンラブのバービーと、離職、離婚の末に東洋哲学に救われて書いた著書が大ヒットしたしんめいP。二人が惹かれた東洋哲学の魅力とは。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年4月号掲載)

矛盾や対立を超え、調和して生きる

──お二人とも東洋哲学に興味を持ったのは、本との出合いがきっかけだそうですね。

バービー(以下B)「私は中学の思春期まっただ中くらいからフロイトやユングといった心理学の本を読み始めて。『真理を見つけてやるぞ! 現代の哲学者になるぞ!』と思っていたのですが、高3のときに家の中で見つけた『チベット死者の書』をわかりやすくした本を読んだところ、それまで読んでいたものがつながった感じがあってビビッときました」

しんめいP(以下S)「僕は『自分とか、ないから。 教養としての東洋哲学』を書くきっかけになったタイミングでいうと、無職になって離婚して30歳過ぎて実家に帰ったタイミングで、昔の自分が買っていた東洋哲学系の本をなんとなく手にして。鈴木大拙さんの『仏教の大意』『禅』を読んだら、バービーさんの言葉を借りるとビビッと響いたんです。書いてあることは難しくて何もわからないんですが『今の自分にとってすごく大事なもののような気がする』と感じながら読みましたね」

──東洋哲学から学んだことが、物事の考え方などにどう生かされていると感じますか?

B「もともとなのか学んだからなのかっていうのがわからないんですけど、母親になると他の人の育児と比較して苦しむと聞いていたんですが、私はあまり無くて。人生の要所要所で『結婚しなくちゃ』『子どもを産まなくちゃ』といった言葉があまり響かなかったのも、ベースに『あなたの宇宙と私の持っている宇宙は違うし』という感覚があるからなのかなと思います」

S「バービーさんが大学でインド哲学科だったことは知っていたんですけど、チベット密教を学ばれていたということをこの対談に際して知り、『まさにいでたちがめっちゃ密教じゃん!』って僕の中ですごく合点がいったんです。仏教ってミニマリストの人が禅っぽいと思われたり、『欲望を捨てましょう』的なニュアンスで受け取られがちなんですが、密教は欲望も含めて肯定する側面があって。

『この世の中は全部ウソだからこそ、逆に何でもありじゃん』という境地に至るのが密教なのかなと考えているんです。それをまさにバービーさんが体現されているなと。僕は『矛盾を持ちながら調和して生きても良いんだ』ということを東洋哲学、特に密教から学ばせてもらっているところがありますが、バービーさんはそういう矛盾や対立を他の方に比べたら相当超越しているようにお見受けして。それこそ矛盾を抱えながらエネルギーに変えていっているというか」

B「まさに! 私は性の話とかもあからさまにしますけど、『そういうのもあっていいよね、そういうのが人間だよね』っていう感覚があります。あと、大学の教授が言っていたことで思い出すのが『ハマるのは良いけど、娑婆に戻ってこられなくなったらもう人間じゃないからね』という言葉で。傾倒し過ぎて『悟りを得たい』とか『潔白に生きたい』となると娑婆に戻ってこられなくなるから、さじ加減をなんとかしていくのも人間の在り方だっていうのにグッと引っ張られたのを覚えていますね」

東洋哲学は子どもでもわかる⁉

──紀元前6世紀頃に誕生した東洋哲学が、今なお多くの人の心を惹きつけるのはなぜだと思いますか?

S「いろんな答え方があるんですけど、僕が超主観で思っていることでいうと、東洋哲学は子どもでもわかる哲学、むしろ子どものほうがわかるんじゃないかと思うところがあって。7、8歳の子から僕の本を読んだと言われたりもするんですが、逆にそれくらいの年齢の子からするとものすごく当たり前のことが書かれているように感じると思うんですよ。

自分の子どもを見ていても言葉じゃないものを素直に見た上でなんとか捻り出して言葉にしているなという感覚があるし、言葉から発想して変な方向に行かない。むしろ大人のほうが圧倒的に言葉に囚われている。『言葉は虚構である』というのは僕の本の中で最も大きなメッセージになっているんですが、そんなの子どもがいちばんよくわかっているんですよね。だから東洋哲学は時代を通じてちゃんと届くものがあるんだろうなと思います」

B「今この時代のみんなに東洋哲学を知ってほしいと思います。世の中では加速度的に軽薄な人間のほうが上手にお金儲けできる仕組みになっていっている気がしていて、私はそれがすごく心配で。東洋哲学の道徳観や倫理観には、軽薄にお金儲けすることをグッと止める力があると思うから、東洋哲学を学んで、自分で考えて自分なりの答えを導き出す脳みそを鍛えるべきだと考えたりします。でも日本人って『人生○回目』って普通に言いますよね。それって輪廻を信じている、つまりは東洋哲学的な考え方をすでに持っているってことともいえないですか?」

S「それ、僕はけっこう思うところがあって。みんな『輪廻なんてないよ』と言っているものの、そのあたりの感覚はやっぱり仏教国だなって感じるんです。例えば会話をしていて『気持ちが成仏した』と普通に言うじゃないですか。気持ちのわだかまりが解けてブワッと霧散することを『成仏』って自然に言うけれど、それってある意味、正確な使い方をしていると思うんですよね。『人生○回目』も、ちょっと面白おかしく言っているようで、本当は自分がそういうことを信じたいという気持ちの表れなのかもしれません」

「本当に。みんな宗教的なことには拒否感を持っているのに『生まれた子どもに前世の記憶は一回しか聞いちゃダメ』と言ったりする。信じているっていう話はしないけれど、みんな本当は興味があるんじゃないかと思うんですよ」

東洋哲学を気軽に取り入れよう

──東洋哲学に興味を持った読者に入り口としておすすめするものは?

B「私は本を読むのがいちばん良さそうな気がしますね。昨年は初めての育児と仕事に追われて地に足のついていない生活をしていたけど、しんめいPさんの本をちょっと開いただけでスッともとの自分に戻れたりしました。本を読むのが苦手な人だったらシンギングボウルの音を聞いてフワ~ッとなって『この感覚、なんだろう?』と思ったりするだけでも良いような気はします。詳しく語れるくらい勉強しなくちゃと思うかもしれないけど、ただ経験するだけでも良いんじゃないかと」

S「僕的にはYouTubeですね。今はいろんなお坊さんが動画をアップしているので、推しのお坊さんを見つけても良いかもしれない。中村元さんという日本の仏教学の一つの土壌を作った仏教学者がいるのですが、彼の講義動画もアップされているんですよ。内容は難しいんですが、めちゃくちゃ穏やかなしゃべり方で、僕は聞いているだけで癒やされています。この空気感は東洋哲学に興味を持っていただくきっかけの一つとしては良いかもしれないです」

──しんめいPさんは著書の中で東洋哲学は劇薬でもあると書かれていましたが、取り扱いを間違えないように気を付けるべきことは?

S「『東洋哲学こそ正しい! 西洋哲学、西洋医学は全部ダメ!』となると、それは自分自身を傷める結果になる可能性が高いです。なので、半分エンタメみたいな軽い気持ち、東洋哲学さえもフィクションっていう感覚で取り入れるのがひとつ安心だと思いますね」

 

自分とか、ないから。教養としての東洋哲学
著者/しんめいP
発行/サンクチュアリ出版
URL/https://www.sanctuarybooks.jp/book/detail/1462
 


Photos:Koji Yamada Interview & Text:Miki Hayashi Edit:Mariko Kimbara

Profile

バービー Barbie 1984年、北海道生まれ。東洋大学文学部インド哲学科卒業。2007年、相方ハジメとお笑いコンビ「フォーリンラブ」を結成。「イエス、フォーリンラブ」の決め台詞でブレイクする。現在はバラエティを中心にテレビやラジオで活躍。レギュラー番組にTBS「ひるおび」(毎週火曜)、TBSラジオ「バービーとおしんり研究所」ほか。下着のプロデュースや町おこしにも取り組む。
しんめいP ShinmeiP 1988年生まれ、大阪府出身。東京大学法学部卒業後、大手IT企業の会社員を経て、教育事業や芸人に挑戦するも、うまくいかず無職に。引きこもっている中で東洋哲学に出合い、衝撃を受けて書いたnoteが大反響を呼んだことがきっかけとなり、2024年に『自分とか、ないから。教養としての東洋哲学』(サンクチュアリ出版)を発売。26万部のベストセラーとなっている。
 

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