映画監督・内山拓也が問う、年齢や立場に縛られないクリエイションのかたち | Numero TOKYO
Culture / Feature

映画監督・内山拓也が問う、年齢や立場に縛られないクリエイションのかたち

お金や時間ひいては自分を犠牲にしなければ、いいクリエイティブは生まれないのか。次世代の担い手にバトンをつなぐため、慣習に立ち向かう2人のクリエイターに話を聞いた。2人目は映画監督・内山拓也。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年4月号掲載)

年齢や立場に関わらず対等な関係でクリエイションを楽しみたい

映画界では近年、日本映画の国際的評価が高まっている一方、依然として「昭和的」とされる旧来の慣習が根強く、労働環境やジェンダー平等、総合的な国際競争力など多くの課題が残る。こうした状況を改善するため、2022年に映画監督の諏訪敦彦と是枝裕和が共同代表を務める「a4c(action4cinema)」が発足した。その設立メンバーの最年少として参加したのが、『佐々木、イン、マイマイン』で注目され、最新作『しびれ』(9月25日公開)がベルリン国際映画祭で上映された内山拓也監督である。

「a4cの前身は『映画監督有志の会』という名称だったのですが、当時僕は監督デビューしたばかりで、映画業界に残る古い慣習や機能不全に疑問を持ち始めた時期でした。そこで有志の会の一員だった岨手由貴子監督(『あのこは貴族』)を通して、若い世代の抑圧された声を代弁する形で自分の意見を有志の会の皆さんに聞いていただいたんです。特に20~30代のスタッフが映画のために生活を犠牲にし、才能があってもキャリアを築けず業界を去ってしまう不当な現状について。こういった改善はもはや必要不可欠だと思い、a4cへと移行する段階で正式に参加させていただきました」

a4cのロールモデルは、フランスのCNC(国立映画映像センター)という共助システムの統括機関だ。ちなみに設立当初、a4cはハラスメント対応機関と誤解されることもあったが、法人でもましてや自警団でもなく、映画人同士が理念を共有し、適切な働きかけを行うための連帯組織だと内山監督は語る。彼がとりわけ危機感を覚えたのは、日本の映画製作が「個人戦」に偏りすぎている点だという。

©2025「しびれ」製作委員会
©2025「しびれ」製作委員会

「監督として映画を作っていくうえで実感したのは、その成り立ちがあまりにも運に左右されやすいこと。実力を正当に発揮するための仕組みが不透明で、国際映画祭に関する知識も一部の人に留まりがち。そこをもっとクリアにして業界全体で共有すれば、皆で純粋に切磋琢磨して、健全な競争意識が育つ環境になるはずです。あと、お金の問題がやっぱり大きいですね。

制度が脆弱なため、スタッフの生活を支える保証が乏しく、スケジュール調整も難しい。それは“相手の時間を奪う”ことなので、適正な対価交換が成立しなければ関係性に軋みが生じます。僕は『しびれ』製作の前に自分の個人会社を設立したのですが、それは映画に関わってくれる人たちを自分の責任で幸福にしたいという想いから。作品の純度を保ち、評価や興行、次につながるキャリア形成まで含めて、皆が報われるチーム作りを目指していきたい。ただ単に“作って終わり”にしないために」

業界の新しいサイクルを模索し、構築しつつある内山監督。彼はこの先、どんな未来展望を抱いているのか。

「30代でも若手扱いされるのが映画業界ですけど、一般的には完全に大人ですよね。まだまだこれからじゃん、なんて年長世代の方からは言われますが、こちらには生活とのギャップがある。そこにも見えにくい抑圧があると思います。あと僕が常に念頭に置いているのは、アートや表現に携わる仕事すべてに共通することですが、基本は“楽しもう”ってことです。ものづくりは人生を豊かにすること。なのに充実を感じられず、愚痴ってばかりじゃ本末転倒。その意味でも僕がチームに求めるのはまず人柄なんです。年齢や立場に関わらず対等な関係を結べる素敵な人たちと、クリエイションを楽しんで生きていきたい。皆が表現者として人生を楽しめるような世界であればいいなと思っています」

 

©2025「しびれ」製作委員会
©2025「しびれ」製作委員会

『しびれ』
新潟県を舞台に、居場所とアイデンティティを模索する少年の物語。
監督・脚本・原案/内山拓也
出演/北村匠海、宮沢りえ、永瀬正敏
2026年9月25日(金)公開
https://shibire.jp
 

Interview & Text:Naoto Mori Edit:Miyu Kadota

Profile

内山拓也 Takuya Uchiyama 1992年、新潟県生まれ。文化服装学院入学後、スタイリスト活動を始めるが、その過程で映画の撮影現場に触れて映画の道を志す。劇場長編映画デビュー作となった『佐々木、イン、マイマイン』(2020)で、新人監督賞を総なめ。24年に、フランス、韓国、香港、日本による4つの国と地域の共同製作『若き見知らぬ者たち』で商業映画デビュー。最新作『しびれ』が第26回東京フィルメックスにて審査員特別賞を受賞。第76回ベルリン国際映画祭「パノラマ」部⾨に正式出品。
 

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