恋のときめき、安らぎ、尊さ…いまこそみたい恋愛映画、本、ドラマ | Numero TOKYO
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恋のときめき、安らぎ、尊さ…いまこそみたい恋愛映画、本、ドラマ

いまこそ楽しみたい、恋愛を描いた本や映画、ドラマを8人のクリエイターに聞いた。あなたの胸が高鳴る作品を見つけよう。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年3月号掲載)

 

1. コラムニスト・山崎まどか 選『甘美なる作戦』

イアン・マキューアン/著 
村松潔/訳(新潮社クレスト・ブックス)2014年 Photo:Wataru Hoshi
イアン・マキューアン/著  村松潔/訳(新潮社クレスト・ブックス)2014年 Photo:Wataru Hoshi

複雑な構造を借りて、ベタなロマンスに浸る

「イアン・マキューアンの小説ではよく恋愛が大事な役割を果たす。なかでも私が『(恋愛小説が好きな)女を甘やかす作品』と呼んでいるのが本書だ。舞台は1970年代の英国、小説好きの女子大生だったヒロインが諜報員としてMI5に就職するという設定からしてワクワクする。冷戦下の時代らしく、彼女に課されたミッションは新進作家に取り入って、彼に反共産主義的な作品を書かせることだった。ところが思いもよらず、彼女はそのターゲットの作家に本気で恋をしてしまう。相手に正体を知られてはいけない恋なんて、それだけでハラハラドキドキする。ヒロインの恋愛小説好きがそれに拍車をかける。こんなフィクションのロマンティックなシチュエーションには誰もが憧れるが、いろんなことが妨げになってそれに浸れないこともあるのが現代という時代だ。

私たちが恋愛に──特に異性愛の物語に心がときめくのは、結局のところ家父長制社会を上手に継続させるための陰謀に乗せられているからなのではないか。恋愛至上(市場)主義に侵されている結果なのでは? 大丈夫、この作品は複雑な構造を借りて、ベタなロマンティックを楽しむことを全面的に肯定してくれる。最も甘美で、心がときめくのはこの小説の“仕掛け”の部分だ。読者は最後、作家がヒロインに愛の証として特大のプレゼントをしたことを知る。それが何かは読んでのお楽しみだが、その中身を知って『ああ!』とため息が漏れることは間違いなしである」
Text:Madoka Yamasaki

山崎まどか(やまさき・まどか)
コラムニスト。著書に『優雅な読書が最高の復讐である』『映画の感傷』、翻訳書にイヴ・バビッツ著『ブラック・スワンズ』、サリー・ルーニー著『ノーマル・ピープル』など。

2. MC、ライター・奥浜レイラ 選
『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』

レコードが結ぶナードな恋

「生きるために人間を狩るヴァンパイア一家の中で、主人公サシャだけは親から供給されたパック入りの血液をスムージーのごとく吸い込んでいる。年頃になると生えてくる尖った牙で“食糧”を調達する=大人として自立することが、人道的で殺人嫌いな少女にとっては難しい。気を揉む家族、生命維持と良心のあいだで苦悶する彼女の前に、自殺志願者の青年が現れる──。

『ぼくのエリ 200歳の少女』や『トワイライト』シリーズなどこれまでの吸血鬼映画でも、恋の衝動や性の目覚めが人血への渇望に重ねて描かれてきたが、本作はそのジャンルの中でも特にユニークな味わい。ジム・ジャームッシュ的な美意識に独特のユーモアをまぶし、社会の片隅で生きづらさを感じるナードな2人のシンパシーを繊細に描写する。歌姫ブレンダ・リーによる1961年のスローなバラード『しびれちゃうの(原題:Emotions)』のレコードを聴きながら、少しずつ相手への壁を崩していく不器用な姿はもどかしさで目が離せない」
Text:Layla Okuhama

監督:アリアーヌ・ルイ・セーズ 出演:サラ・モンプチ 2023年 Blu-ray ¥5,280  発売元・販売元:ライツキューブ © Belles canines inc. – 2023 Tous droits réservés.
監督:アリアーヌ・ルイ・セーズ 出演:サラ・モンプチ 2023年 Blu-ray ¥5,280 発売元・販売元:ライツキューブ © Belles canines inc. – 2023 Tous droits réservés.

奥浜レイラ(おくはま・れいら)
映画・音楽のMC・ライター。映画の舞台挨拶やトークイベント、ラジオ番組でMCを務めるほか、ライターとしても活動している。

 

3. マンガライター・ちゃんめい 選『瓜を破(わ)る』

恋がもたらす“揺らぎ”の尊さ

「10代の頃、『恋』は無条件にきらきらとした、ただ素敵なものだと思っていた。けれど大人になるにつれて、当時は想像もしなかった性や恋愛にまつわるコンプレックスが、静かに心に影を落とすことを知る。恋は思っていたよりずっと複雑で、ままならないものだった。『瓜を破(わ)る』は、そんな現実を真摯にすくい取った等身大の恋物語だ。主人公は、30歳を過ぎても性体験がないことに悩むOL・まい子。彼女が出会うのは、夢の挫折をきっかけに人との関わりを避けて淡々と生きてきた、メンテナンス業者の青年・鍵谷。恋愛初心者のふたりは、戸惑い、すれ違い、言葉を尽くしながら、少しずつ距離を縮めていく。

本作はその歩みを、双方の視点から描いていく。ぎこちなく、不器用なふたりのやり取りは、思わず頬がゆるむほど初々しく、静かなときめきを運んでくる。なかでも印象的なのは、想いが通じ合った先で、鍵谷のなかに『欲』が芽生える瞬間だ。恋をしなくても人生は成立する。それでもなお恋が人生にもたらす揺らぎやその尊さ、抗えず惹かれてしまう理由をそっと教えてくれる」
Text:Chanmei

板倉梓/著(芳文社)  2020年より、週刊漫画TIMESで不定期連載中。単行本が1~13巻まで発売中。画像は『瓜を破る 6』より ©板倉梓/芳文社
板倉梓/著(芳文社) 2020年より、週刊漫画TIMESで不定期連載中。単行本が1~13巻まで発売中。画像は『瓜を破る 6』より ©板倉梓/芳文社

ちゃんめい
マンガライター。マンガを中心に書評・コラムの執筆のほか作家への取材を行う。宝島社『このマンガがすごい!』にてアンケート参加、その他トークイベントにも出演。

 

4. 韓国エンタメウォッチャー・K-POPゆりこ 選
『ダイナマイト・キス』

Netflixシリーズ「ダイナマイト・キス」独占配信中  出演:チャン・ギヨン、アン・ウンジン 2025年
Netflixシリーズ「ダイナマイト・キス」独占配信中 出演:チャン・ギヨン、アン・ウンジン 2025年

やっぱり見たい、王道のキュン

「アン・ウンジン演じる人生崖っぷち女子、ダリムが、リッチなハイスペ男性となりゆきでキスしてしまうことから始まるラブコメディ。韓ドラのTHE王道設定に、最初から最後までダイナマイト級の“キュン”が仕掛けられており『やっぱりこういうのが見たかった!』と思わせてくれる。人を好きになったときの高揚感や、切なさ……。理屈では説明できない恋愛感情のあれこれを、ここまで純度高くストレートに描いている作品は、最近ではむしろ珍しいかもしれない。さまざまなシチュエーションで描かれるキスシーンは、毎回違うときめきをくれる。

そしてチャン・ギヨン演じるジヒョクが、ダリムの『恋愛できない事情』に配慮しながらも、抑えきれない恋心に悶々とする姿が可愛すぎて、思わずキュン! 済州島や桜並木の映像美も物語をよりロマンティックに盛り上げる。最近少し韓国ドラマから離れていた人や、『安心してときめきたい』お疲れモードの人にもおすすめ」
Text:K-POP Yuriko

K-POPゆりこ(けーぽっぷ・ゆりこ)
韓国エンタメウォッチャー、ラジオパーソナリティ。編集者を経て渡韓。帰国後は雑誌やウェブメディアでの執筆するほか、TOKYO FM『K-Monday Spotlight』にて韓国カルチャーの魅力を発信中。

 

5. 歌人・染野太朗 選『Dance with the invisibles』

睦月都/著(角川文化振興財団)2023年 Photo:Wataru Hoshi
睦月都/著(角川文化振興財団)2023年 Photo:Wataru Hoshi

短歌で恋の質感や空気感を味わう

「春の二階のダンスホールに集ひきて風をもてあますレズビアンたち女の子を好きになったのはいつ、と 水中でするお喋りの声

この歌集の内容は実に多彩で、『恋愛歌集』とひとくくりにはできないのだが、恋の心情や関係性の機微を、セクシュアリティなども繊細に扱いつつ高い表現技術と詩性をもって示しているのも確かだから、ここに紹介したい。

私ばかりが愛情に飢ゑてゐて恥づかしい銀杏並木のコインランドリー

思いの質や強さが相手と非対称であるときの苦しみ。それに惑わされる自分を自覚してもいる。『銀杏並木の~』では、日常と季節のささやかな美しさに目を留めてもいる。こんなふうに俯瞰し思考が優位に働くのも恋の一側面だろう。

雨音に灯すランタン 深づめのあなたの指をくちに含みつ
借りるねと言つて彼女がつけてゆくすこし重い香水、秋の戸

一方でこれらは恋のシーンを、思考を先立てずに提示している。雨音、ランタン、指、香り、戸といったものの、質感・空気感を、存分に味わいたい」
Text:Taro Someno

染野太朗(そめの・たろう)
歌人。1977年、茨城県生まれ。大阪府在住。歌集に『あの日の海』『人魚』『初恋』。最新作に、くどうれいんとの短歌集『恋のすべて』(扶桑社)がある。

6. キュレーター、批評家、編集者・丸山美佳 選
『明るくていい部屋』

金川晋吾/著(ふげん社)2024年
金川晋吾/著(ふげん社)2024年

変化と自由の希求をめぐる切実な葛藤

「四人の共同生活を写し取った写真集である。一対一の親交から三人、さらに四人へと変化していく関係性と、日常のささやかな積み重ねのなかの心情をすくい取ろうとする写真家の金川晋吾の率直な言葉からも、その様子は描かれている。これを『恋愛』の作品と呼ぶには語弊があるが、他者と親密な関係を結ぶこと──それは必ずしも一対一の恋や性愛を意味しない──は、複雑で揺らぎ続ける感情を抱え続けることであり、その厄介さと喜びがこの本には息づいている。

一人一人と関係性を紡ぎながら時に文字通りにさらけ出す日常、そして社会で生きていく毎日の連なりの中に確かに存在する複層的な感情や違和感に形を与えてもらっているような感覚を覚える。それは時に胸が締めつけられ浮き立つ感情であり、悲しみや孤独が同居する。社会の規範と向きあい、日常に潜むずれや摩擦を手放さずに、誰かと近しい関係を結びながら変化と自由の希求をめぐる葛藤は、こんなにも切実で素敵である」
Text:Mika Maruyama

丸山美佳(まるやま・みか)
ウィーンと松本を拠点にキュレーター、批評家、編集者として活動。遠藤麻衣とともにクィアフェミニストの芸術実践を目指すZINE/プラットフォーム「Multiple Spirits」を出版・運営。森美術館「六本木クロッシング2025展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」にMultiple Spiritsとして出展中(~3月29日)。

 

7. 編集者、ライター・綿貫大介 選『マッサン』

NHK連続テレビ小説「マッサン」2014年 作:羽原大介 出演:玉山鉄二、シャーロット・ケイト・フォックス NHK総合テレビで毎週月~金曜日の12:30~12:45に再放送中。NHK ONEでも同時・見逃しを配信。©NHK
NHK連続テレビ小説「マッサン」2014年 作:羽原大介 出演:玉山鉄二、シャーロット・ケイト・フォックス NHK総合テレビで毎週月~金曜日の12:30~12:45に再放送中。NHK ONEでも同時・見逃しを配信。©NHK

「個」としての誠実な対峙

「排外主義の影が色濃く漂う今、あたらめて届けたい物語がある。NHK連続テレビ小説『マッサン』が描くのは、大正から昭和の激動の時代に日本初のウイスキー造りに挑んだ亀山政春(マッサン)と、スコットランド人の妻・エリーの軌跡だ。この国で差別や偏見に晒されたエリーが、特高警察に連行されそうになる際に放った叫び(第119話)は特に必見。『どうしてここにいてはいけないのか、私にわかるように教えて下さい。私が、日本人ではないからですか? この鼻ですか? この髪の毛ですか? この瞳ですか? 私は、亀山エリーです。あなたと同じ人間です!』。マッサンは一緒に、国家に抵抗する。

相手を自分の枠組みに押し込めるのではなく、異なる背景を持つ『個』として丸ごと受け入れること。その誠実な対峙こそが、時に暴力性をはらむ恋愛という営みを、崇高な連帯へと昇華させるのではないだろうか。違いを排除せず、共に生き抜く覚悟。二人が貫いた愛に、何度泣かされたかわからない」
Text:Daisuke Watanuki

綿貫大介(わたぬき・だいすけ)
編集者・ライター・テレビっ子。主にエンタメ分野を中心に多くの媒体でインタビューの聞き手や批評コラムを執筆するほか、アーティストの会報誌の企画・編集なども手がける。

 

8. ポッドキャスター・ユリ・アボ 選『パスト ライブス/再会』

監督:セリーヌ・ソン 出演:グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ 2023年 Blu-ray¥5,500  DVD¥4,400 発売元:ハピネットファントム・スタジオ  販売元:ハピネット・メディアマーケティングCopyright 2022 © Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved
監督:セリーヌ・ソン 出演:グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ 2023年 Blu-ray¥5,500 DVD¥4,400 発売元:ハピネットファントム・スタジオ 販売元:ハピネット・メディアマーケティングCopyright 2022 © Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

尊重という愛の形を教えてくれる

「幼い頃に惹かれ合いながらも離れ離れになった男女が、大人になって再会する物語。女性はアメリカで結婚し、劇作家として自立したキャリアを歩んでいる。だからこの物語は、恋愛がすべてだとか、実らなかった恋を取り戻す方向には進まない。キュンとするのは、彼女の暮らすニューヨークを二人で観光する場面。再会のハグ、同じ景色を見ながら並んで歩く時間。この時間が永遠に続けと言わんばかりの空気もありつつ、触れたい気持ちや期待を抱えたまま、互いに踏み込まないでいる。関係が進む瞬間の高揚ではなく、踏み込まない選択のなかで、相手の今の人生を尊重しようとする距離感が愛おしい。

そうしたやりとりを通して、恋愛として結ばれなくても、人として愛し続ける関係があることを距離と沈黙で描いていく。人と人のあいだに生まれた縁は、恋愛の成就だけで測れるものではなく、実らなかった恋や選ばなかった道も含めて、確かに人生の一部なのだと、静かに教えてくれる」
Text:Yuri Abo

ユリ・アボ
兼業ポッドキャスター。ジェンダーや性をテーマにしたクリエイティブプロジェクトにおいて、編集・企画・発信など横断して活動。ポッドキャスト番組『もっと違和感!』を配信中。

Edit:Mariko Kimbara

 

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