活況を呈する日本のアートシーンで、いま注目のアーティストを紹介する連載。第七回は、計算というテクノロジーを媒介に、知覚しえない世界を探求する平川紀道。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年4月号掲載)
人間の五感が捉えられない世界の構造を描き出す

仮想天体の演算データを色彩へ。太陽光のスペクトルを音響へ。平川紀道の作品は、物理現象を計算によって数理モデルへと変換し、私たちの五感では捉えきれない世界の構造を未知の風景として描き出す。
しかし、そこにあるのはテクノロジーへの万能感ではない。むしろ平川は、計算というプロセスを通じて「人間の小ささ」を突きつけられるのだという。「何かを人間が見聞きできるように変換する行為は、人間の小ささを思い知るプロセスでもある」と彼は語る。例えば、素粒子は今この瞬間も目の前に存在するが、私たちの視覚の仕組みでは捉えることができない。平川は、可視・可聴域というきわめて狭い範囲に閉じ込められた人間の知覚を自覚しながら、その外側に広がる「体系化できない何か」を常に意識している。それは「愛」や「社会」といった、計算という物差しでは測りきれない抽象的な概念への、逆説的な誠実さとも言えるだろう。
![太陽と顔料の色を音にした作品。『spectral sonification of stellar light and a pigment [sun, ferric oxide]』2025年](https://numero.jp/wp-content/uploads/2026/03/7-2.jpg)
「人は、自分が見たことのないものを作ることができるか?」。平川が追求するこの問いは、私たちの認識の境界線を鋭く問い直す。もし、記憶や知識のどこにもつながらない「未知なるもの」が目の前に現れたとき、果たして人間はそれに気づくことさえできるのだろうか。
「私たちが気づいていないだけで、未知の何かが、世界のあちこちで生まれ続けている」。そう語る平川の作品は、意味や解釈を纏う前の、剥き出しの世界の断片だ。
Select & Text:Asuka Kawanabe Edit:Miyu Kadota
