【2026SS春夏】エディターズアイで読み解くコレクションリポート | Numero TOKYO
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【2026SS春夏】エディターズアイで読み解くコレクションリポート

例年以上に多くの新デザイナーを迎え、節目のシーズンとなった2026SS。継承と刷新、その緊張関係の中で提示されたのは、過剰な主張でも強いアイコンの誇示でもない。空気を纏うようなシルエット、身体を定義しない構造、静かに感情を宿すミニマリズム。服は語りすぎず、けれど確かな意志を残していた。現地で取材したエディターの視点から、今シーズンを象徴するキーワードを紐解いていく。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年3月号掲載)

 

reporters
水戸美千恵:編集長。怒涛のファッションウィーク取材を支えるのはバゲット&バターとフライドポテト。
岸本佳子:ファッション・ディレクター。ミラノ担当。分刻みで移動するコレクション取材の合間、テイクアウトのランチが心の拠り所。
梶山史織:エディター。コレクション中にローカルフードを発掘するのも抜かりなく達成。

1. Controlling the Air

揺れや膨らみ、風を受けて完成するシルエット。服は、身体の外側にある空間までをデザインしはじめている。

水戸美千恵(以下M)「今シーズン、強く印象に残ったのが、服そのものよりも“空気”を感じさせるルックの多さでした」

岸本佳子(以下Y)「風を受けて完成するシルエットが増えましたね。服が身体を覆うものというより、身体の周囲にある空間をつくっている」

梶山史織(以下S)「止まっているときより、歩いて風が入った時に『あ、これが完成形だ』と感じる服が多かったです。サンローランのパラシュートのようなナイロンドレスや、アライアのフリンジの使い方は象徴的。素材そのもの以上に、動きがデザインの一部になっていると感じました」

M「それは、クリストバル・バレンシアガが提示していた『服は身体から少し離れて存在する』という思想の現代版とも言えるのではないでしょうか」

Y「今は素材の遊び方で、その考え方がより感覚的に伝わるようになっている印象です」

 

2. Liberate the Body

フィットさせない、縛らない、評価しない。女性の身体を測るものから、肯定するものへ。

S「『女性の身体を解放する』というテーマは、ここ数年ずっと語られてきましたが、今季は少し質が違う気がします」

M「露出やボディラインの強調ではなく、身体を測らない服が増えた印象ですね」

Yプラダのブラトップは分かりやすかったです。アンダーバストが浮いているデザインがサイズが合っていないように見えることで、身体から距離を取っている」

M「フィットしない=未完成、ではなく、フィットしないこと自体がメッセージになっている。身体を評価の対象にしないという意思を感じました」

S「服が身体を形づくるのではなく、身体がそのまま存在していいという感じですね」

M「解放というより、前提を外す。そこに今季らしさがあります」

 

3. Shirt, Reimagined

自分のリズムで着るためのシャツ。最もクラシックな一着が、いま再び主役に。

S「今季はシャツスタイルがとても印象的でした。構造はクラシックなのに、漂っているムードはとても今っぽい」

M「そうなんです。シャネルバレンシアガのようにオーバーサイズだったり、イッセイ ミヤケは構造を崩していたり。自分のリズムで着るためのシャツですね」

S「シャツってシンプルだからこそ、着る人の姿勢がそのまま出る気がします」

Y「最もクラシックで、最もアティチュードが表れるアイテム。だからこそ今、再び主役になっているのだと思います。今シーズンのトレンドを取り入れたいのならば、最初にゲットすべきはシャツかもしれません」

 

4. 90s Minimalism, Revisited

禁欲的なストイックさではなく、余白と柔らかさを伴う新しい美学。

Yカルバン・クラインを筆頭に、シンプルなセットアップや潔いシルエットによる90年代ミニマリズムの再解釈も、今季の大きな流れですね。当時を象徴する存在として、ヘルムート・ラングを思い出します」

M「懐かしい! 当時の禁欲的なストイックさとは違って、いまはもっと柔らかく、感情を含んだミニマルでした。削ぎ落としているのに、どこか冷たくない」

S「素材感や余白があるからでしょうか。例えば、Tシャツとデニムの定番スタイル。ロエベのルックは、デニムと見せかけてレザー。アトリエとのコミュニケーションによって、シンプルなものに最大限の手間をかけている」

M「色数もアイテムも極端に少ないからこそ、素材の良さが浮かび上がる。『いまの生活にフィットするミニマリズム』として、改めて再定義できそうですね」

5. Vivid Color Blocking

配色がシルエットや空間と呼応し、装いに新たな緊張感とリズムを生み出す。

S「今季は、色の存在感も強く感じました。ビビッドというより、意志のある色の組み合わせ」

Y「色が飾りではなく、構成の一部にもなっている印象です。フェンディは、服だけでなく会場もピクセルのカラーブロックで彩られていました」

M「今季のカラーブロックは、楽しさよりも前向きな緊張感をつくるためのもの。服が感情のスイッチとして機能しているように感じます」

S「カラーブロックのスタイリングはハードルが高いですけど、こうやって並べるとルールがあるように見えます」

Y「暖色×寒色の補色の組み合わせですね。鮮やかでエネルギッシュだけど、クリーンなシルエットのアプローチで知的に見えるのが今季の特徴です」

 

6. Skin, Not Exposure

見せるためではない、ウェアと身体の関係を調整するための肌見せ。

M「肌見せも、今季は少し意味合いがアップデートしたように感じます。セクシーさの強調ではなく、服の構造の一部としての肌」

Sジル サンダーの胸元が窓のように丸く開いたアプローチも印象的でした。カットアウトというより、“抜け”を作る感覚ですね」

Yマックス・マーラのスタイリングも秀逸でしたね。エラスティックベルトをウエストに直接巻いて、肌の露出をスポーティに魅せている」

M「見せるためではなく、服と身体の関係を調整するための肌見せ。シンプルながらも高度なスタイリング術に感服です」

 

7. Eyes in the Neck

首元で語るエレガンス。スカーフは装飾からアイデンティティを示す存在に。

Y「今季、特に印象に残ったのがスカーフの使い方です。アクセサリーとしての役割もありつつ、服の構造に近づいてきているアプローチも新鮮でした」

Mエルメスセリーヌはスカーフをそのままトップスのデザインに落とし込んでいましたし、ボッテガのスカーフは、よく見るとマイクロイントレチャート。巻くものから服を構成する要素へと変化しているのを感じます」

Y「首元は顔と身体をつなぐ場所。そこにスカーフが入ることで、全身のバランスや視線の流れが一気に整いますね」

Sバーバリーのように、細長いスカーフをラフに巻くスタイルも印象的でした。ヨーロッパのストリートでよく見かける、2000年代を思わせるホーボーシック。でも、どこかエレガンスが残っている」

M「全身で語らず、首元で語る。スカーフは今季、もっとも静かで、もっとも雄弁なアイテムかもしれません。装いがその人のアティチュードを先に語ってしまう。そんなコレクションが並んだシーズンでした」

Edit & Text:Shiori Kajiyama

 

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