デザイナー交代が相次いだ2026年春夏コレクション。ランウェイに漂ったのは華美な主張ではなく、メゾンのヘリテージに敬意を払った静かな愛だった。かつて女学校として建設され、今では時を超えて人々が集うこの場所で、伝統と革新が交差する新たな創造の物語を贈る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年3月号掲載)

モード界を震わせた、ジョナサン・アンダーソンによる新生ディオール。彼はメゾンの歴史を振り返り、その言語を読み解くことを何よりも重んじる。プレローンチでは、アイコンであるバージャケットを再解釈。ボディラインを引き立てる流麗なラインは当時のままに、生地全体には同系色のフラワーモチーフの刺繍があしらわれた。伝統の先にある、ディオールの新章を予感させる。

旅というメゾンの根幹を追求し、時代を超えて冒険を続けてきたルイ・ヴィトン。ウィメンズ アーティスティック・ディレクターのニコラ・ジェスキエールは、旅の探求の一環として自身のアパルトマン=家こそが人生における安らぎの場と捉え、ルームウェアの概念を再解釈した。構築的でありながらゆったりとしたシルエットと柔らかな素材が心地よく、自由な動きを叶える。パーソナルな美意識を宿し、自分らしさを貫いて。

マチュー・ブレイジーが手掛けるシャネルのデビューコレクションは、メゾンの根源にある“愛と自由”の概念から、創業者ガブリエルとの対話をテーマに物語が広がる。彼が強く心を奪われたのは、ガブリエルが恋人から借りていたというメンズシャツ。それを現代的なシルエットで再現し、裾裏にはシャネルらしい重みのあるチェーンを忍ばせた。フェミニンとマスキュリンが奏でるパラドックスこそ、私たちの想像を超えて描かれる新たなエレガンス。

新たにピエールパオロ・ピッチョーリをクリエイティブ・ディレクターに迎えたバレンシアガは、創業者であるクリストバル・バレンシアガの革新を継承し、布と身体、そしてその間にある空気をデザインの要素として落とし込んだ。未来的なバルーンドレスに採用したのは、シグネチャーであるガザール生地をアップデートした“ネオ・ガザ―ル”。複雑な成形を必要とせず、布そのものの張りを生かし、彫刻的なシルエットと無重力のような軽やかさを生み出す。

セリーヌのシックな佇まいに鮮やかな色を加えたのは、新アーティスティック・ディレクターのマイケル・ライダー。そこには彼のキャリアであるアメリカのDNAが息づき、どこかトラッドなテイストが広がる。メゾンの原点である馬術にインスパイアされたカラフルなスカーフや、アイコンをかたどったチャームの重ね付けで、そのルーツを讃えながら日常の装いに遊び心をプラスして。

今季プラダがテーマとしたのは、「Body of Composition」。メゾンの核であるユニフォーム調のセットアップやドレスをベースに据えながら、体を縛りつけるような構造を解体し、服がもたらす自由と解放を表現した。肩から吊るされたサロペット風のスカートはウエストを締め付けず、ゆったりとしたカーディガンが身体を軽やかに包み込む。時代に呼応する、新たな女性の輪郭を問い直す。

南仏・カマルグの湿原を、馬に乗って力強く駆け抜ける女性像をイメージしたエルメス。ジャケットとスカートに採用されたキルティングは古くから伝わるブティ刺繍と呼ばれる技法を用いたもので、手仕事が紡ぐ自然のぬくもりを感じさせる。レザー製のボディハーネスは、レイヤリングによってスタイルに調和し、騎手の自由な意志を呼び起こす。

グレン・マーティンスによるメゾン マルジェラの最初のプレタポルテコレクションは、アーカイブを軸に、リアルクローズとしての可能性を探求する。デニムのロングコートは、アイコニックな深いVネックのカットラインが特徴で、スタッフがユニフォームとして着用する白衣のようにコットンのリボンが添えられた。同素材のデニムドレスは、ヴィンテージライクなディテールを踏襲しつつ削ぎ落とされたデザインに。その潔さのなかに、メゾンの精神性が確かに息づく。

ボッテガ・ヴェネタの新クリエイティブ・ディレクター、ルイーズ・トロッターが挑んだのは、「工房」を意味するブランド名の原点を見つめ直し、卓越した職人技を落とし込むことだった。象徴的な編み込み技法“イントレチャート”は、創業当初のスケールである9×12mmの格子柄を描き、コートに取り付けられるレザーアクセサリーとしてデザインされた。まるで編み上げられた2本の紐のように、作り手と身に纏う者を結びつけ、メゾンの哲学を私たちの日常へ届けてくれる。

デムナ率いるグッチが、華やかに、そして挑戦的に幕を開けた。初コレクションは、“La Famiglia”=家族をテーマに、彼が思う「グッチらしさ」を追求。シグネチャーアイテムやモチーフを再解釈し、そこにモダンな感性を取り入れた。時代を超えて愛されるGGパターンは全身に施され、構築的なシルエットや光沢感のある素材使いで現代のジャッキースタイルに。新生グッチは、過去と向き合いながら次の時代へと歩みを進めている。
Photos:Yeong Jun Kim Fashion Director:Yoshiko Kishimoto Hair:Yu Nagatomo Makeup:Sada Ito Edit&Text:Makoto Matsuoka Cooperation:Jiyu Gakuen Myonichikan
