2025年、あの人の偏愛ベスト・ミュージック vol.4 中野道 | Numero TOKYO
Culture / Feature

2025年、あの人の偏愛ベスト・ミュージック vol.4 中野道

2025年も、素晴らしい音楽が次々と生み出された。Numéro TOKYO注目のクリエイターに、その人が超・個人的に思い入れのあった音楽アルバムBEST3と、その注目ポイントを聞いてみた。新たなお気に入りの一枚を見つけて。

4人目は、フォトグラファーとして小誌をはじめさまざまな媒体で活躍しながら、ポストパンク/ノイズミュージックの4ピースバンド「Modern Jazz War」を率いる、中野道が登場。

1.Water From Your Eyes『It’s a Beautiful Place』

バンドサウンドを再構成した新次元の「ローファイ」

米シカゴ出身、現在はNYを拠点に活動する2人組ポップ・バンド、Water From Your Eyes。彼らのアルバムがMatador Recordsからリリースされている、というのがまず面白い。自分にとってMatadorはずっと『バンドの音』を鳴らしてきたレーベルだが、この作品で鳴っているのは、バンドサウンドをDAW上の編集画面の中でコラージュ的に再構築したような感覚に近い音だ。

いわゆるローファイにあった温度やノスタルジーではなく、パソコンの中で作られたチープな音や解像度の低さが、そのまま肯定されている感じがある。Matadorがいまこういう作品を出しているということ自体が、「ローファイ」の感覚が次の段階に入ったことを示しているように思える。

爆音のギターも感情的に鳴らされるのではなく、切り貼りされた素材のひとつとして置かれているようで、外面はポップなのに、どこか最後までそれを信じ切れない。その態度は、タイトル曲がインストかつ一瞬で終わることや、アルバムの最初と最後がループできる構造にも表れている気がした。偶然にもこの仕掛けは、僕らが今年リリースした作品と全く同じで、強く共鳴している感覚があり、それが素直にうれしかった。

2.Lifeguard『Ripped and Torn』

衝動だけを真空パックしたようなエネルギッシュな一枚

2024年に来日も果たしたHorsegirlのベーシスト、ペネロペ・ローウェンスタインの弟であるアイザックが所属する、米シカゴのガレージバンドLifeguardは、Water From Your Eyesと同じMatador Recordsの文脈にありながら、その対極にいる。

このアルバムで鳴っているのは、PC上では再現不可能な、バンドが持つ生のエネルギーだ。狭いステレオの中で荒々しく鳴るギター、直球で前に進むビート。その音像には、余計な処理を排し、衝動だけを真空パックしたような感触が間違いなくある。曲は迷わず突き進み、アルバム一枚があっという間に疾走していく。

これはオーセンティックなローファイ・ヴァイブスであると同時に、完璧に整えられたグリッド音楽や、編集前提の現代的プロダクションへの明確なカウンターでもあるように感じる。

バンドという形態がまだこれほど有効であることを、理屈抜きで思い出させてくれる作品であり、ノークリック、一発録りでEPを制作した自分たちとも、非常に親和性の高い一枚だと感じた。今年、最もシンパシーを覚えたアルバムのひとつ。

3.After Ours『Imaginary Friend』

いま聞くべき超私的なベッドルームポップ

米ニュージャージー出身のKayla Janowitzによるソロプロジェクト、After Oursの 『Imaginary Friend』を聴いていると、2010年代のガールズ・インディ・ベッドルームポップの感覚が、そのままの距離感で立ち上がってくる。自己開示が前提となり、感情がパブリックに消費される以前、まだ音楽が「私の部屋」にとどまっていた頃の空気だ。

girl in red以降の強いアイデンティティ表明や時代性の代弁とは違い、このアルバムはあくまで個人的で、日記の延長線にある。Kayla自身の人生の時間軸に沿って並べられた楽曲は、成長や喪失をドラマとして誇張することなく、静かに確認するように進んでいく。

作中に現れるMGMT「Congratulations」のカバーが、ラストトラックの「Different Now」と象徴的に呼応しているように感じられるのも、とても美しい。大きな時代のインディポップを、もう一度ベッドルームサイズに引き戻し、自分のスケールで鳴らし直しているように聴こえる。曲はとてもエモーショナルだが、どこかメタ的な視点すら感じる冷静さと、それでもなお『私的』と思える親密さが同居している。そのバランスが、この作品を単なるノスタルジーではなく、いま聴くべき私的ポップとして成立させている。

今作を聴いていると、今この時代に生きていること自体が、少しだけ美しく思えてくる。うるささや主張の多さの隙間で、まだこんなふうに音楽を信じられる瞬間が残っている。そんなところに、理由もなく胸が熱くなった。

Modern Jazz War『Holes in Modernity』

2025年9月にリリースされたModern Jazz WarのデビューEP『Holes in Modernity』。タイトルは「現代社会に穿たれた穴」を意味し、整えられた “正しさ” や過剰な調和に対する批評精神をコンセプトとしている。楽曲群は、不安定さや断絶、そして歪さに潜む美をあぶり出す試みでもある。緊張感のあるサウンドにヒリヒリする、ソリッドな1枚。

「2025年、あの人の偏愛ベスト・ミュージック」をもっと見る

Text :Michi Nakano Edit:Mariko Kimbara

Profile

中野道 Michi Nakano 写真家、映像監督、ミュージシャン、文筆家。1989年、アメリカノースカロライナ州生まれ。長野県松本市で育ち、現在は東京在住。上智大学院文学研究科修士課程修了後、2015年から写真家・映像監督として活動中。2020年に写真集『あかつき』、23年に写真集『Days in Between」』を発表。24年にポストパンク/ノイズミュージックの4ピースバンド「Modern Jazz War」を結成。
 

Magazine

JANUARY / FEBRUARY 2026 N°193

2025.11.28 発売

The New Me

あたらしい私へ

オンライン書店で購入する