日本でお笑い芸人として第一線で活躍しながらも、LAに活動拠点を移したり、映画監督を務めたりなど、新たな挑戦を続けるゆりやんレトリィバァ。軽やかに時代の先を行く彼女に話を聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年1・2月合併号掲載)

──2024年から活動拠点をLAに移されました。日本で築いたキャリアをいったん手放すというのは、非常に大きな決断だったのではないでしょうか。
「子どもの頃からハリウッドスターに憧れ、アメリカに行きたいという思いをぼんやりと抱いていました。芸人になった後も、この職業は日本でコントをやるだけではなく、好きなことや興味があることを追求できる仕事だと感じて活動していて。直近の目標だったピン芸人の賞レースでの優勝も達成できたことで『よーし! じゃあ次へ行こうか!』という、ある意味では軽めのノリで決めたことでもあるんです」
──仕事が順調なタイミングでキャリアを中断すると決めるのは、怖くなかったですか?
「自分の中では『キャリア中断』という感覚はないんです。待っていても何も始まらないし、受け身になりたくないという思いがあるなかで、いま一番興味のあることがアメリカにあるだけのことで。用事があれば日本にも戻りますし、あまり重く考えていないのかもしれないですね。ありがたいことに周りのスタッフの方々もサポートをしてくれていて、10年ぐらいずっと一緒のマネージャーとは、二人で『いつかアメリカで売れよう!』という目標をずっと共有していたんです。だからこそ、やっと動き出せたという気がします」
──ポジティブに 「やめる」「手放す」を選択されていますね。
「断捨離にまつわる『これは捨てられない』と思ったときの問いかけに『それを持っていたときの自分と今のあなたは同じ人ですか?』という言葉があって、ハッとさせられたんです。例えば昔の服。それを選んだ過去の自分と今の自分を比較したら、今のほうが確実にレベルアップしているはず。だったら昔のアイテムを持ち続けることに意味はないじゃないですか。手放してこそ、次のステージへ進めるんですよね」
自分を解放するLAで手に入れた新しい生き方

──ゆりやんさんはパッと潔く決断するタイプですか?
「潔いほうだと思います。他人が心配しそうなことでも、楽観的に『なんとかなるっしょ!』と思うことが多くて。別にアメリカに行って仕事があるわけでもないけど、不安よりワクワクのほうが断然強かったです」
──日本では誰もが知る存在ですが、LAではチャレンジャー。過去の栄光が重圧になってしまうようなことはなかったですか?
「もちろん、アメリカではゼロからのスタートだと覚悟していました。『私は日本では有名人よ!』といった慢心は本当に無意味なんです。ただ、これまでの経験で得た、お客さんの前ではこう立ち居振る舞うとか、冷遇されても心が折れていないふりをするというスキルには助けられています。こっちに来たら一年目のド新人ですけど、完全なゼロからのスタートではない。言葉も文化も違えど、やらせてもらってきた経験は、重荷になるどころか、自分を保つために役に立っています。むしろ培ってきた経験があるからこそ謙虚にもなれるし、今は新しい現場で『もう一回やらせてください!』と頭を下げるのが楽しいです」

──日本での生活と今を比べて、生き方や考え方のスタイルを変えた部分はありますか?
「ちゃんと『自分が何が好きか』というのを自分に問いかけることですかね。日本だったら着る洋服とかもある程度は人の目を気にするじゃないですか。でも今は『自分が今これ着たいから着てみよう』と思いますし、自分の素直な気持ちを大事にするようになりました。会いたい人がいたら連絡してみるし、関わりたくない人には会わない。他者をリスペクトしながら、自分の意見をしっかり言う。そういうことをLAに来てからはさらに大事にしています」
映画監督に挑戦し手に入れた新しい感覚

──これから手放したいと思っているものはありますか?
「恋愛心理学でよく『執着を捨ててください』という話が出てくるんですけど、私もそうしたいと思って実践中です。これまで好きな人ができたら一日中相手のことしか考えられなくて、連絡を待ってしまいがちだったんです。でも自分の人生を楽しんでいたら、自然と相手への執着は手放せるものらしいんですよ! もっと早く知っていたら、過去の恋愛でも追う側じゃなくて『追われる女』になっていたのに!」
──(笑)。恋愛革命ですね! 初監督作品『禍禍女』は、ゆりやんさんの過去の恋愛経験がベースになっています。確かに執着を手放せなかった女性の業や複雑な感情が反映されていると感じました。
「当時許せなかったこととか、私が恋愛で感じた全てを詰め込みたいと思って作りました。でも実際に映画が完成して時間がたってから見てみると、今の気持ちとしてはスッキリしてるんです。当時あんなに腹が立ったこととかも、実はけっこう忘れちゃってるというか。『そんなこと思ってたっけ?』というぐらい、もうどうでもよくなっているんです。作品として形にしたことで気持ちに整理がついたのか、最近は前向きになれている感じがします。ありがたいことに海外で賞をいただけたことで、過去の恋愛で私を振ってくれた人たちにも、『映画のテーマを与えてくれてありがとう!』という気持ちが湧いてきてます」

──監督業を経て、新たな気づきはありましたか?
「総合芸術に取り組めたことは、私にとって大きな経験でした。ピン芸人の決断って気楽で、全て自分で責任を負えば済むんですけど、映画はそうはいかないじゃないですか。特に監督という立場は、それまでのキャパシティの限界とは全く次元の違うものを、みんなで作り上げていくものでした。日々『選択』の連続で大変だったけど、その分、ワクワク感も倍増していましたね。あとは、久しぶりに怒られて泣いたりとか(笑)。でも『大人になってからこんなに怒られるってありがたい、私ってめっちゃラッキー!』って思えたんです。今まで甘ったれていた部分が、あらためて鍛え直されたようにも感じています。
監督としても芸人としてもまだ未熟ですが、新しい環境が多くの気づきを与えてくれます。これからも、いただいたチャンスと周りのサポートに感謝しながら、『なんとかなるっしょ!』精神で、ありのままに挑戦していきたいです」
『禍禍女』
ゆりやんレトリィバァが自身の実際の恋愛を基に製作した初監督作品。20もの海外の映画祭に正式出品し、ハワイ国際映画祭ではハレクラニ・ヴァンガード・アワードを、第54回モントリオール・ニュー・シネマ国際映画祭では、Temps Ø(テンポ・ゼロ)部門の観客賞を受賞している。2026年2月6日(金)より全国公開予定。
監督/ゆりやんレトリィバァ
脚本/内藤瑛亮
出演/南沙良
URL/https://k2pic.com/film/mmo
Interview & Text:Daisuke Watanuki Edit:Mariko Kimbara
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