いつの頃だろうか、ファッション界隈でその名が囁(ささや)かれ始めたのは……。ピリングス(pillings)などブランドとの協働、植物装飾からアパレルまでを手がけるも、正体は杳(よう)として知れない闇花屋——アレキサンダー・ジュリアン。いけばな草月流師範の実力 × 夢見感覚の衝撃コンボ。あなたもきっと虜(とりこ)になる。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年1・2月合併号掲載)



秘すれば花! アレキサンダー・ジュリアン直撃インタビュー
ナードな師範がいてもいい――。めくるめく想像力(イマジネーション)、まるで白昼夢のように渦巻く謎と実験精神に迫る。いけばな界の異端児、その一問一答の言葉がここに。
“闇に咲くアーティスト”ジュリアン誕生物語


──創作活動のスタンスや名前の由来について教えてください。
「本業は会社員で、植物に携わる仕事をしています。その一方で、アレキサンダー・ジュリアンと名乗り、本名も顔も伏せてひたすら“自分が作りたいと思ういけばな”をする活動をしてきました。その結果、現在の活動スタイルと謎ブランディングが出来上がってしまった状態です。下の名前がジュリで、友達からジュリアンと呼ばれていて。アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)やアレキサンダーワン(alexanderwang)のように、皇帝感と迫力がある名前に愛称を付け加えました」
──複数の肩書をお持ちですが、どんな意味を込めているのでしょう。
「語感が好きなだけで、深い意味はないんです。『闇花屋』は、闇営業や闇鍋のようなワードが面白いと思って使い始めました。本業との対比としての“闇”なのかもしれません。『フラワープッシャー』の“プッシャー”は、売人を意味するスラング。テクノのミュージシャン『スクエアプッシャー』の名前の応用でもあります」


──お花の仕事をこなしながら、活動範囲がアートやファッションにまで広がった経緯は?
「大学卒業後はお花屋さんの企業に入社しました。思い返せば、小さい頃は近所のお花屋さんでトマトや小玉スイカの苗を買って育てることが大好きでした。ウェディングなどの装花の仕事を4年続け、もっと自分のお花屋さん人生で生かせるスキルを身に付けたいと思い、いけばな教室に通い始めました。素晴らしい先生と出会い、27歳で師範に。発表会用に変わった作品をいけても、先生が『いいね! とてもいい感じ!』と褒めてくださって。上京して今の会社に入社しましたが、いけばなは好きだったのでずっと作品作りを続けていました。そうしたら知り合いから声がかかって、ファッション撮影で花の依頼が来たり、展示をするようになった流れです」
甘美で危うい夢のような……浮遊感と歪(いびつ)さの原点



──作風を「ドリームコア」(※)と評する声がありますが。
「作品の色使いやモチーフ、テクスチャーを見た人たちが、共通した過去はたどっていないのに懐かしさを感じるらしくて。おそらくAIや現実世界に疲れた人たちが癒やされたくて見つめていたい世界観なのかな。ドリームコアは世界中に愛好者がいるので、ボーダレスな言語感を感じさせる領域なのかもしれません」
※ドリームコア:子どもの夢のような、現実と非現実が入り交じった世界観を特徴とするアートスタイル。SNS中心に人気を集める。
──創作のために続けているライフワークはありますか。
「仕事でよく地方の生産者に会いに行くのですが、必ず洋菓子屋やお茶屋、豆腐屋、和菓子屋をリサーチします。地方のおじいさんが頑張って作っている犬なのかタヌキなのかいまいちわからない動物の洋菓子など、合理性や効率性を度外視した“人の目を喜ばすために無駄に頑張っているわびしい感じ”が好きで。SNSの『いいね』や『映え』とは真逆の、素朴なのに骨太なメンタリティを大事にしたいんです。それが、自分らしい表現につながると考えています」




──ファッションの分野でも、ものづくりをされていますね。
「ピリングス(pillings)2020年秋冬コレクションでは植物の“ひっつき虫”で服を作ったり、モデルの肌にイモ版画でスタンプを押したりしました。洋服は自分が欲しいものを作っていて、園芸関係者向けのストリートウェアや、サラセニアやチューリップで染めたTシャツなどがあります。きっかけは、出荷規格に見合わず廃棄されるお花を使って生地を染めたこと。本業でもお花の生産農家に作付け指導するなど、さまざまな形で植物に関わっている感覚です」
オタク(ナード)なフリして骨太(マッシヴ)!
核(コア)をなすいけばなの精神性

──師範を務める草月流のいけばなの特徴について教えてください。
「草月流は1927年に東京で生まれた前衛的な流派で“地球上にもし植物がなく、岩しかなければ岩でいけばなをしよう”という思想に基づいています。創始者の勅使河原蒼風(てしがはらそうふう)はユニークで柔軟、自由な目を持っていた方で、その感性が自分と合っていると思います。書や彫刻の活動も行い、アンディ・ウォーホルら前衛的な芸術家とも親交があり、異分野とされる美術とも自然と共存している流派です」
──作品を作る際にこだわっていることは?
「お花の存在感に頼りすぎないこと。いけばなは“最低限の素材で最大火力を出す”みたいな側面があります。フラワーアレンジメントのように盛ってデコラティブにするよりも、少ない素材で空間やヴィジュアルを作る可能性を探り続けています。まず『自分がこういけたい』と妄想することから始まって『写真はこう撮れたらいいな』とぐるぐる考えを巡らせます。有機物が相手なので思うようにはいきません。それでもその暗闇を突破し、自分の妄想が現実化するいけばなを目指します。いけばなは基本型があるので、いかに基本を駆使して応用するかで変化球が生きていく。個人的には、直球を投げると見せかけてキャッチャーの手元で狂ってくる魔球が理想で、それがうまくなりたいがために日々ひたすら勉強しています」



──創作活動の核となる思想は?
「蒼風は、珍なるものに頼るのではなく、ありふれたもので新鮮な味わいを醸し出すことを重んじました。要は『新しいものに頼るな』『自分にしか表現できないものをいけることが大事』ということです。例えば洋服なら新素材、映像なら新しいアプリやAIに頼れば、技術の真新しさはあっても、それは本来の芸術的な新しさではないと考えています。レンコンやチップスターを使って表現するのはまさしくこの発想からで、ありふれたものでありながら自分というものが滲み出るいけばなに到達したいと思っています」
──いけばなで培った精神性とは何でしょうか。
「いけばなとは構成でもあり、器に対してどんなお花を合わせるかは、ファッションでいうボトムスにどのトップスを合わせるかと一緒です。洋服のコーディネートも、盛るよりも引いていくほうが、おのずといいバランスに近づくもの。現代社会は、いらない情報を浴びれば浴びるほど迷走して、自分が本来行きたい方向から遠ざかってしまう。信じた審美眼で一つ一つ余計な枝葉を切り落とし、自分の道をクリアにしていくことも、いけばなの“引き算の美学”から学びました」
Portrait : Ayako Masunaga Interview & Text : Aika Kawada Edit : Keita Fukasawa
Profile

@alexander_jyulian
