G-DRAGONや安藤サクラ来場。市井の片隅を特別な空間へと輝かせる「シャネル」2026年 メティエダール コレクション
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G-DRAGONや安藤サクラらが来場。市井の片隅を特別な空間へと輝かせる「シャネル」2026年 メティエダール コレクション

©️CHANEL
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シャネル(CHANEL)は現地時間の12月2日、2026年メティエダール コレクションをニューヨークで発表。G-DRAGON、クリステン・スチュワート、ティルダ・スウィントン、安藤サクラら豪華セレブリティに加え、ショー前日に公開されたミシェル・ゴンドリー監督によるティザーフィルムの主演を務め、新アンバサダーに就任したエイサップ・ロッキーが来場した。

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今回、アーティスティック・ディレクターを務めるマチュー・ブレイジーにとって初めてのメティエダール コレクション。今年、10月にパリで開催されたデビューコレクションでは、メゾンに連綿と受け継がれる伝統的なコードを鮮やかに再解釈し、鮮烈な印象を残したのも記憶に新しい。とくに、シャルべ(CHARVET)とコラボレーションしたオーバーサイズのシャツなどは、SNSでも大きな話題を呼ぶなど、新たな顧客層の獲得にも寄与した。

本コレクションの舞台となったのは、アメリカ・ニューヨーク。1931年にガブリエル・シャネルが現地を訪れ、シャネルのアイテムを各々のスタイルで着こなす人々を目の当たりにして感銘を受けたというエピソードがインスピレーション源となった。とりわけ、マチュー・ブレイジーの心を掴んだのがニューヨーカーの足となるサブウェイだ。コレクションノートを引用すると、地下鉄とは「学生から画期的な事業をなす人、政治家からティーンエイジャーまであらゆる人々が利用する」ものであり、「謎に満ちながらも心躍る出会いがあり、また ポップカルチャーがぶつかり合う場所」。そして「皆がどこかへ向かっており、まるで映画の世界のように、全員がそれぞれ自分の物語の主人公なのです」と説明する。

ストーリーテラーであるブレイジーによって誘われた世界は、まさしく映画そのものだ。会場に選ばれたのは、廃駅となったニューヨーク市地下鉄のバワリー駅で、ひとりの女性が階段を降り、駅構内に足を踏み入れるとショーがスタートする。ファーストルックは、キャメルカラーのハーフジップスエットにブルーデニムを合わせたスタイル。拍子抜けするほどシンプルな装いだが、肩から下げたチェーンバッグと無造作にかけたツイードジャケットに”らしさ”が垣間見える。その後、線路に滑り込んだ車両のドアが開くと一斉にモデルが登場し、そのままランウェイを模したホームを闊歩する。実際に地下鉄を利用する乗客の無作為な関係性を表すように、学生風の若い女性もいれば、フォーマルなルックの淑女やビジネスパーソンなどが同空間に混在する。

コレクションを通して存在感を放ったのが、大胆なアニマル パターンとニューヨークらしいモチーフ使いだ。シフォンの軽やかなボリューム感で毛並みを表現したレオパード柄スカート、アシッドな発色が目を引くタイガー柄のジャケット&スカート、ウロコのような粒状のテクスチャーを重ねて虎の縞模様を表現したワンピースなど、多彩なバリエーションで魅せていた。一方、ニューヨークらしいモチーフはと言うと、“ビッグアップル”という異名にちなんだリンゴ型のスモールバッグやスパンコールで“I♡NY”を模ったトップス、スーパーマンをオマージュしたニットといった王道的なモチーフがシチュエーションや設定を補完し、コンセプトをより明確にする。

もちろん、メゾンが培ったレガシーも随所に見て取れる。代名詞のひとつであるリトル ブラック ドレスは、バトー・ネックを強調して構築的なショルダーラインに仕立てたり、首周りをビジューやフェザーで装飾したりとアレンジも豊富。アイコニックなノーカラーのツイード ジャケットは、前立てやポケットのトリムやボタンにターコイズグリーンの装飾をあしらうなど、モダニティを添えた。また、ティアードのフラッパードレスは、ガブリエル・シャネルが1920年代に発表したリトル ブラック ドレスのディテールをどこか想起させる。

他方で、シャネルのメティエダールの根幹を支えるメゾンダール le19M(ル ディズヌフエム)の卓越した職人技術は、カジュアルアイテムにも息衝く。コレクションの中で何度か登場したデニムライクなパンツやシャツは、綿糸ではなく贅沢にシルク糸で仕立てたもの。また、カントリー調のフランネルシャツは、ウールブークレイツイードでチェックを表現した。後者に関してはインナーにシンプルなタートルニット、ボトムスにスリット入りのラップスカートを合わせ、トップハンドルのバッグやポインテッドトウのパンプスでフェミニティを加味。50年代のハリウッドスターを思わせる外ハネカールのレトロなヘアスタイルも含めて、カジュアルなアイテムもスタイリングの巧みさでぐっと洗練度を高めている。

ブレイジーが、地下鉄の駅を行き交う人々や交差する人生を映画のようだと例えたのは先述したとおり。そのため、ショーの演出やルックにも映画的なアプローチが散見された。ランウェイを外れたモデルが車内でおもむろに新聞を読んだり、ホームにある公衆電話を手に取ったりと、ちょっとしたウィットがストーリー性を増幅させる。また、ガブリエル・シャネルが衣装を手がけた1931年公開の映画『今宵ひととき』のオマージュとして、原題となる「Tonight or Never」のタイポグラフがレザージャケットの背面やバッグ、さらにツイードコートの総柄などに応用されている。他にも禁酒法時代に暗躍したギャングを思わせるネイビー地にピンストライプ柄のダブルブレストのスーツと中折れ帽を被ったマスキュリンな装いや、アンディ・ウォーホルを連想させる白髪のウィッグとサングラスなど、17分弱のショーの中でアメリカの歴史・カルチャーの一片をサブリミナル的に忍ばせる仕掛けもまた、映画のようであった。

演出的な要素でもうひとつ触れておきたいのが、音楽による相乗効果である。本コレクションでは、バッハ作曲のチェロ組曲 第一番〜プレリュード〜から始まり、オールディーズナンバーやダンスホールクラシックなどBPMもバラバラで、一般的なランウェイショーの音楽とは趣が異なる選曲であった。中にはタップダンスの足音を抜き出したインストあり、すべての音楽が映画の劇伴のような機能を果たしている。そして、ショーの最終盤、クライマックスに流れてきたのは、日本でも清涼飲料水のCMで使われていたナタリー・インブルーリアの『TORN』というポップソングだ。曲と曲の合間にラジオDJの声や周波数を合わせるチューニング音が差し込まれるなどのいわゆる“ベタ”な演出が取り入れられたこともあり、不意につけたラジオから流れてきた「体」として捉えれば、まさに最適解の選曲と言えよう(実際に同曲はアメリカにおいて、90年代のNo.1ラジオヒットのひとつであるという)ブレイジーが意図したであろう、地下鉄を利用する市井の人たちが主人公となる人生を彩った最大公約数的な一曲なのだ。決してカッティングエッジな楽曲ではないが、曲が進むにつれそれまで断片的であった物語の世界観が、“誰もの”心象風景としてしっかりと輪郭を帯びて浮かび上がってきたのは、正直心揺さぶられるものがあった。

手仕事やサヴォアフェールが息衝いたコレクションピースと、それらで構成されるルックは言うまでもなく素晴らしいが、構成や演出を含めたランウェイショーとしての完成度は特筆すべきものがあった。“まるで1本の映画を観たようだ”とはやや凡庸なクリシェではあるが、少なくともマジカルな鑑賞体験であったことは間違いない。

 

Chanel
シャネル カスタマーケア
TEL/0120-525-519
URL/www.chanel.com/

Text: Tetsuya Sato

 

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