今週末まで! 猫づくしの展覧会@府中市美術館 | Numero TOKYO
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今週末まで! 猫づくしの展覧会@府中市美術館

展示風景
展示風景

洋画ではほとんど描かれてこなかった猫というモチーフを、洋画の魅力的なテーマへと押し上げたのは画家、藤田嗣治。東京・府中市美術館にて開催中の「フジタからはじまる猫の絵画史 藤田嗣治と洋画家たちの猫」では、藤田をはじめ、日本の洋画家たちの猫の歴史を絵を26人の作家、83の作品でたどる。本展を翻訳家/ライターの野中モモがレポート。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年12月号掲載)

藤田嗣治 《猫の教室》 1949年 軽井沢安東美術館 © Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2025 G3942
藤田嗣治 《猫の教室》 1949年 軽井沢安東美術館 © Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2025 G3942

猫から見る異文化の衝突と融合

私たちの日常は猫または猫っぽいイメージにあふれている。ご存じキティちゃんに『ちいかわ』のハチワレ、その他無数の名もなき猫たち。彼らを愛でるのはごく自然で当たり前のことのように感じられるけれど、キリスト教の寓意や「人間」を重んじる西洋絵画の伝統においては、猫はあまり描かれてこなかったのだそうだ。その一方で、日本には動物絵画の豊かな歴史がある。

猪熊弦一郎 《題名不明》 1986年 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 ©The MIMOCA Foundation
猪熊弦一郎 《題名不明》 1986年 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 ©The MIMOCA Foundation

この展覧会は、西洋と東洋の歴史と感性が出会い、またアーティストの創作意欲を刺激する特別な存在として猫に注目する。西洋の技法を学びながら自らの個性を確立しようと奮闘した近代日本の洋画家たちにとって、猫は魅力的なモチーフだったのだ。とりわけ1920年代にパリに渡って人気者となった藤田嗣治はたびたび猫を取り上げ、巧みにセルフブランディングに利用してきた。第二次世界大戦後に至るまでの彼が描いた猫の変遷は、さらにその先に現在の漫画やアニメにもつながる道筋が見えるようで興味深い。

菱田春草 《黒猫》 1910年 播磨屋本店
菱田春草 《黒猫》 1910年 播磨屋本店

もうひとりの「猫の画家」として、藤田の次の世代にあたる猪熊弦一郎で展示が締めくくられるのもうれしい。より抽象的に写実から離れ、絶妙な色彩感覚とのびのびした線で描かれた猫たちには、印刷では再現できないオリジナルならではのよろこびがある。複製不可能といえば「フジタ以前」の例として紹介される明治時代の日本画家・菱田春草が描く小さな黒猫も最高。なまいきそうな表情とふわふわの毛並みは眺めていて胸がキュッとなる愛おしさ。面白い新書を一冊読んだようで、かつ絵画の楽しさを存分に味わえる好企画だ。

「フジタからはじまる猫の絵画史 藤田嗣治と洋画家たちの猫」
会期/2025年9月20日(土)〜12月7日(日)
会場/府中市美術館
住所/東京都都府中市浅間町1-3
時間/10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日/月曜日
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL/http://fam-exhibition.com/foujita2025/

Text:Momo Nonaka Edit:Sayaka Ito

Profile

野中モモ Momo Nonaka 翻訳者、ライター。東京生まれ。訳書にナージャ・トロコンニコワ『読書と暴動 プッシー・ライオットのアクティビズム入門』、デヴィッド・バーン『音楽のはたらき』など多数。
 

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