
復讐劇の金字塔、アレクサンドル・デュマの小説『モンテ・クリスト伯』を映画化した話題作が公開中。航海士のダンテスは結婚式の最中にいわれのない罪で投獄され、その後、脱獄。自分の人生を奪った者たちへの復讐を遂行する……。本作の見どころを松尾貴史が語る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年12月号掲載)

圧倒的なスリルが味わえる
往々にして、モチベーション(動機)や衝動は、嫉妬によって喚起されます。誤解を恐れずに言うならば、さまざまな活動の意欲の源泉は、嫉妬によってもたらされるのです。
ある分野で尊敬する人がいて、その道を目指そうとする人も多いでしょう。しかし、それも広い意味での「嫉妬」と同質のエネルギーなのです。
自身が欲するものを、自分よりも先に、あるいは多く手に入れている存在に対して抱くエネルギーとしては、尊敬と嫉妬は同じなのです。
そのエネルギーを有効利用、平和利用する場合に「尊敬」となり、不正な力によってその対象の足を引っ張ろうとした時、紛れもない「嫉妬」と化すのです。

なぜ「嫉妬」という言葉は、女偏の漢字で構成されているのでしょうか。「やきもちは女性の妬くもの」という意味だと思われているかもしれませんが、私は「女性が巧みに操るもの」だと解釈しています。
男性は嫉妬の扱い方が下手で、「男のやきもちは始末に負えない」と思うのです。ことに、社会では男性のほうが実権を握り続けることが多いので、その悪影響も桁違いとなり、時として惨事を招くことになるのでしょう。

この『モンテ・クリスト伯』は、ご存じの通り復讐劇です。子どもの頃に読んだ原作では、『巌窟王』という題名が付けられていました。
復讐の是非については意見が分かれるところだとは思いますが、憎しみの連鎖を生まない復讐劇などありうるのかと考えれば、これほど非生産的な執念があるだろうかと思ってしまいます。
47人がかりで一人の老人の首を取る復讐劇が日本にもありますが、不朽の名作であるにもかかわらず、なぜか受けない時代に入ったようです。年末になると必ず歌舞伎の演目として風物詩として君臨していたはずですが、今ではドラマすら制作されなくなったようです。

しかし、理不尽な不幸・苦痛を味わった側が、その大きなストレスを覆すカタルシスは、なんとも痛快な気持ちになるのは否定できない物語の構造的魅力でもあります。
主人公エドモン・ダンテスを演じるピエール・ニネが、ココリコの田中直樹さんのような顔ですが、理知的で抑制が利いていて、すこぶる良いのです。いつかシャーロック・ホームズなど演じてほしいものです。

3時間近くある作品ですが、最後まで気が抜けない展開でした。怨念を晴らす復讐の話というよりも、時代物の『ミッション:インポッシブル』を見ているようなスリル感のあるエンターテインメントです。
『モンテ・クリスト伯』
監督/マチュー・デラポルト、アレクサンドル・ド・ラ・パトリエール
原作/アレクサンドル・デュマ
出演/ピエール・ニネ、バスティアン・ブイヨン、 アナイス・ドゥムースティエ
公開中
https://monte-cristo.jp/
配給 : ツイン
© 2024 CHAPTER 2 – PATHE FILMS – M6 – Photographe Jérôme Prébois
© 2024 CHAPTER 2 – PATHE FILMS – M6 FILMS – FARGO FILMS
Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito
Profile

