パリ、神戸、ロンドンを拠点に活動する3人のクリエイター。彼女たちはその街の風土や文化を感性に織り交ぜ、再編集していく。第3回目は、イラストレーター・せきなつこのアトリエを訪ね、空間に息づくものとクリエイションのつながりをたどった。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年12月号掲載)

ロンドン東部、トッテナムにスタジオを構えるアーティスト、せきなつこ。自ら撮影した写真と手描きのドローイングを巧みに組み合わせてコラージュにし、街角の風景や旅先での記憶を綴った詩的な作品を制作している。仕事場は教会を半分だけ改装したシェアスタジオ。
「一番大切にしているのは、来てすぐにクリエイションモードになれること。コラージュの作業やクライアントワーク、ワークショップの準備など、全ての工程をここでわっと散らかしてやっています。常に3つくらいのプロジェクトを同時進行し、一つに3時間以上使わないで、一度リフレッシュをはさむことが煮詰まらないコツです」

自分がどういう物が好きなのか、何に刺激を受けるのか、収集することで明らかになる。こういった日常の活動が実質的な作品作りにつながっていく。

このシェアスタジオには、人種も年齢も制作スタイルも異なる15名ほどのアーティストが所属しているという。スタジオ名は「THIS」で、Tottenham Hale International Studiosの略。それぞれのスペースにはドアがなく、気軽に挨拶を交わし合う距離感。時には一緒にプロジェクトをする。長時間過ごす人もいれば、週末だけ来る人もいて、メンバーは流動的。

「気に入っているのは、ちょっとした頼み事をしやすいこと。『にかいだてバスにのって』という絵本を制作したとき、人の写真が必要だったんです。スタジオのみんなに声をかけて一人ずつポーズをお願いして、協力してもらいました。あと、このスタジオは近所にある学童クラブや地域コミュニティーとの関わりも深く、定期的にワークショップを開催しています。絵本には子どもたちにも出演してもらいました」
トッテナムは移民が多く、他民族が生活を共にし、多様な文化が交差する地域だ。

「刺激的ですね。服装がユニークだったり、人通りの多い道をローラースケートでくるくる回ってジャンプする人がいたり。そんな風景を当たり前の様に受け入れている街の人たちにも魅了されます。イギリスに来たばかりの頃はスインギングロンドンやジェントルマンの文化など、純英国的なものに惹かれていました。今は地域に住むリアルな面白い人たちに関心が向いているんです」
自分だけの閉ざされた空間ではなく、仲間や社会と地続きになっている。そういった環境が彼女の作品にみずみずしいヒューマニティと温かい彩りをもたらしているのだろう。

Photos:Kae Homma Interview & Text:Aika Kawada Edit:Miyu Kadota
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